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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第八十八話 蒸発恩師の研究記録




また冒頭からノートの内容が延々続くと思った?残念!冒頭は謎の二匹がただ近況話してるだけでした!

―前回より・同時刻・廃洋館内部―


【首尾はどうだ?問題ないか?】

【あぁ、先日近隣の稚児共を追い払って以降侵入者は近付いていない】

【成る程、それを聞いて安心した。だが近頃は妙な連中が増えていると聞くし、警備を固めておいた方がいいかも知れんな】

【全くだ。ノモシアでは貴族の奴隷が反逆し塩酸を浴びせて逃げ出したと言うし、クブス派の残党が復活したとか、イスキュロンの士官学校を化け物が乗っ取っていたとも聞く。だが特に気を付けねばならないのはあのツジラという男だ。奴は油断ならん。言うなれば安っぽくふざけた売れない道化の皮を被った物の怪だ】

 薄暗い中、不気味な声を発する謎めいた二匹の生物が喋っていた。

二匹の姿は全く似通って居らず、一見すれば全く別の生物としか思えなかった。話題を切り出した方は褐色の甲殻に太い手足を持っていたが、右脚が右股関節から、左脚が左肩から生えているという独特な骨格の持ち主だった。

もう一方はゼリー状の皮膚を持つ緑色の肥満体が如し外観であり、一見愚鈍そうな外見ながら知的であるようだった。

【ツジラ・バグテイル……第八のヴァーミン、アサシンバグを持つとされる男か】

【そうだ。ジュルノブル城の城主一家を衛兵や宮廷魔術師諸共血祭りに上げ、先に述べたクブスの残党や士官学校を乗っ取っていた化け物をその愛人共諸共皆殺しにしたという、恐るべき集団の長だ。更に質の悪いことに、奴は今現在ここアクサノに居るそうだ。諜報部からの知らせでは、我々を探りに来ているという】

【何だと!? それは本当か!?】

【ああ、本当だ。どうやら市長か林霊教の神官が呼び付けたらしい】

【何と言うことだ! これは一大事だぞ! 我々は確かに一騎当千の力を持つ軍勢でこそあるがしかし、ヴァーミンや古式特級魔術の前には一溜まりもないではないか! ああ、星界の君よ! 我等はここで死に絶えてしまうのであろうか!?】

【おい、慌てるな。落ち着かんか。まだ我々が滅ぶと決まったわけではないだろう】

【これが慌てずに居られようか! ツジラ一味は相手を選ばず滅ぼし尽くす、残虐非道にして極悪無比なる恐るべき魔物の眷属! 武の利も地の利も数の利も、全てを知略で見事に覆し、時には大国一つをも一晩で荒れ地に買えてしまう程におぞましく忌まわしい者共ではないか!】

【確かにそれは真実だが、お前のそれはあまりにも気が早すぎる。未来を必要以上に案ずる暇があるのなら、現時点に於ける最善策を思案すべきだ】

【では何をしろと言うのだ?】

【一先ずは待つのだ。諜報部からの連絡を待ち、確固たる情報が集まり次第動く。これで問題あるまい】

【確かにそうではあるがな……何より母上様が心配でならん。奴らは敵とあらば女子供老人とて容赦なく殺害すると言うからな……】

【あぁ。だが未来を案じ計画を練ることと、無闇矢鱈に何でも悲観視することはウイルスと細菌程にも似て非なる事だ】


 等という会話を繰り広げながら、二匹は闇に消えていった。


―同時刻・地下施設内部―


「どういう事……? 何故でこいつが学者の研究ノートなんかに……」

「わからん……だが何にせよ、こいつが並大抵の代物じゃねえって事は確かなようだな」

 研究ノートの冒頭に書かれていたのは普段通りの研究データや執筆者自身の日記等何気ないものであったが、その内容は約10ページ目から急変する。


―以下、研究ノート本文より―


9/4 天候:曇

 今日の午後だったか、妙なニュースが舞い込んで来やがった。

 何でもカタル・ティゾルの両極で観測隊がそれぞれ正体不明のブツを見付けたとかで、北極にあったのは馬鹿でかい隕石、南極にあったのはこれまたどでかい金属塊だそうだ。

 隕石ってのは俺にとっちゃさほど珍しいもんでもねぇ。

 問題は金属塊の方で、専門家に言わせると人工物―それも大規模な金型鋳造で創られた鋳物だろうという話だった。

 俺は驚いた。だってそうだろう?そりゃ南極にだって先住民くらいは居るが、そいつらに金属加工の技術や文化は無い。刃物や建材は骨や氷が主で、偶に石を使うことがあるくらいだという。

 そもそも南極の陸地は分厚い氷に覆われてるから並大抵の魔術でも地殻まで掘り進める事は至難の業で、何より南極の先住民には魔術どころか火というもん自体が伝わっていなかったとも聞く(元々寒さに強い体つきだったり、無菌状態だったりという理由もあって火起こしをする必要性が無かったらしい)。

 まぁ今そんな事を考えたって仕方無ぇけどな。


 さて、これからどうなるんだろうなぁ。



9/22 天候:晴


**前略**


 そんな訳で色々あったが、大陸議会の意向で隕石と金属塊はそれぞれ別々の研究機関が預かることになった。

 審議の結果、隕石はアクサノ、金属塊はラビーレマを代表してうちが預かって研究することになった。俺は生憎機械の事なんて判らないから研究には参加しなかったが、研究に参加する奴の中には仲の良い奴も居るから、そいつから話くらいは聞こうと思う。


10/3 天候:雨


 上から呼出を喰らった。何でも例の金属塊研究のチームに入れという事らしい。理由を聞くと、金属塊の中は空洞だったらしく、その中から何かの生物らしきミイラが出てきたんだそうだ。

 内部は複雑な機械のように入り組んでいて、そっちの研究は引き続き工学系のメンバーが続けるから、俺にはそのミイラの研究をして欲しいんだと。出所不明のミイラだとよ。偶然とはいえまさかこんなブツを研究出来るとは、研究者冥利に尽きるって奴だと思ったね。


10/5 天候:快晴


 早速ミイラを調べてみたが、どうもコイツは霊長種の雌に極めて似ているようだった。腹を裂いて見てみると、内蔵や骨の形までそっくりだった。

そんで試しに同じチームの奴に頼んでDNAを調べて貰ったんだが、霊長種どころかカタル・ティゾルのどの生物にも当て嵌まらない塩基配列だったという。

 俺は益々楽しい気分になってきた所為か、逸る気持ちを抑え込むのに苦労した。今もまだ胸の高鳴りと気分の高揚が止まらない。


10/7 天候:晴天


 研究中、ふとミイラから砂のようなもんがこぼれ落ちた。

 砂や塵とは雰囲気が違うそれを光学顕微鏡で観察したところ、ミジンコやブラインシュリンプなんかの乾燥卵と似てるような気がしてきた。

 試しに一粒ずつ取り分けてそれぞれ違う条件の水に入れてみた。何が起こるか判んねぇ分ワクワクしてくるが、同じだけの不安もある。不測の事態に備えて今日はここで寝るとするか。

次回、乾燥卵らしき物体はどうなるのか!?

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