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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第八十七話 アンノウンズは語らない



いざ、地下施設へ!

―前回より―


「此方です」


 約一時間程乗用車に揺られた二人は、全面がコンクリートで固められた広大な薄暗い駐車場に降り立った。


「アクサノにこんな場所があったとは驚いた」

「ヌグさんのヘリから見たときは本当に森ばっかりで、こんな風な建物なんて無かったのに……」

「それはそうですよ。何せこの施設、地下に作ってありますのでな」

「地下……ですか?」

「えぇ。危険性が高い分野についての研究や実験を行ったり、極力漏洩を控えるべき機密情報の保管を目的としてムチャリンダ市長のご両親が創られたものを、我々セルヴァグル地方公共団体が全体で管理しておるのです」

「成る程……しかしながら、それほどまでに重要な施設へ我々のような者を案内して宜しいので?」

「構いません。ここまでの道順は貴方方にもお教えておりませんし、並大抵の技術では探れぬようになっております。通信機や念話、記録装置の類も使わせず、出入り口も限定。フィクション作品などではこういった鉄壁防備ほど破られそうなものですが、その時には何をしてでも情報漏洩を防ぎます」

「凄まじい覚悟ですね。私など足下にも及ばないほどの」

「こうでもしなければ、宗教者などはやっておれませんのでな」

「安易に逃げ出すようじゃ本気で神に仕えてなんて居られない、と。参考になります」


 等と適当に話しながら歩いていた三人はそのまま複雑に入り組んだコンクリートの迷路を進んでいき、やがて白い扉の前へと辿り着いた。


「少々お待ちを」


 供米は懐からテレビのリモコンに似た小型の機械を取り出し、扉に向けて素早くキーを入力。リモコンらしき機械を再び懐に納めた。するとそれから約十数秒後、ゆっくりとした動作で扉が開いていく。

 内部にはこれまた簡素な白黒灰色の空間が広がっており、部屋の中央には巨大な白い円卓が置いてある。

 その椅子まで、まるで磁器か石灰石の柱であるかのように純白だった。


「どうぞお入り下さい」


 供米に導かれるまま、二人は恐る恐る中へと入っていった。中で供米が椅子に腰掛けたので、二人もそれに倣って腰掛ける。


「もう暫くお待ち下され。いずれ部屋の主が……っと、噂をすれば何とやらですな」


 見れば、部屋の奥から一人の若い女が歩いてくる。見たところはスカイブルーのサイドポニーを棚引かせた20代ほどの霊長種で顔立ちも美人の域にあるのだが、何処か不気味で毒々しい雰囲気を放っていた。


「随分と早いな、逆夜」

「今日は妙に調子が良くてね。それはそうと供米のおっさん、そっちの二人は?」

「あぁ、お前の管理しているブツを見たいというのでお招きした。かのラジオで司会を為さっているお二人だ」

「ラジオ……あぁ、あのラジオ? へへぇ、そりゃ凄い。初めまして、あたしは逆夜テトロ。師匠の関係で地方公共団体からここの管理を任されてるモンさ」

「こちらこそ初めまして。DJ兼脚本のバグテイルだ」

「私はその相方で広報担当の青色薬剤師。宜しく」

「ほお、アンタ等が噂に聞くヴァーミンの保有者に、古式特級魔術の使い手かい。益々凄いねぇ。それで、例のブツって言うと……」

「二週間前から出始めている謎の生物に関する目撃情報や正体不明の死骸のことだ。確かお前の所に回していた筈だが」

「あぁ、あれか。あの見るからに意味不明な奴ね。ちょっと待ってよ……確かこの辺りに……っと、あった」


 テトロが円卓の裏に備わったレバーを手前に引っ張っると、円卓の一部が機械的に開き、中から本棚や硝子瓶が現れた。テトロは瓶と冊子を手に取り、繁と香織に手渡しながら言う。

「これが最初に見付かった死骸。発見場所とかの詳細な情報はこっちに書いてあるから、それ参考にして」

 太く背の低い硝子瓶の中に入っていたのは、薬液漬けの標本にされたヒザラガイと思しき生物の標本であった。しかし裏面にはエビのような節足が無数と小腸の柔毛を拡大したような動物質の突起物がブラシの毛のよに生え揃っている。

「これは確かに不可解だ……学術分野じゃ遺伝子合成なんてまだ初歩の初歩だっつーのにから……」

「魔術でもこんなの見たことないよ……魔力で一から構築された細胞でもないし、こんな歪な融合なんてしたら形を成す前にドロドロに溶けて崩れちゃう……」

「しかも問題なのはこの資料だ。推定が確かなら、こいつは少なくとも生後三日は生きていた事になる……そうだな?」

「あぁ、ほぼ間違いないねぇ。こいつは元からこの姿で産まれて、寿命とか気温とか、そういうのが原因で死んだんだろうよ。その証拠にこいつの腹を裂いたら中から消化途中の地衣類っぽいのが出てきてね。つまりこいつは普通の生き物と同じものを食べるって事さ」


 それから後も二人は様々な生物の死体の標本を目の当たりにしたのだが、何れも不自然で異様な合成生物ばかりであり、その謎を解くには至らなかった。そして全ての標本とそれに関する資料を見終わった頃、テトロは二人に切り出した。

「どう、気に入ってくれたかい? 機密情報ってのも中々乙なもんだろう?」

 そう言ってテトロは何処かへ立ち去っていった。何か用事でも思い出したのだろうか。


「……乙……っつーのかのねぇ、こいつは」

「判らない……ただ、何て言うのかな……こう、最後に見付かった奴に似たのを昔何かで見たような……」

「最後……あの赤と青の宝石みたいな目玉が二つついたイモムシみたいな奴か?」

「そう……何だっけ……確か知り合いの画家で坂原って人が居たんだけど、覚えてる?」

「覚えてるも何も、俺らよくあの人が嫁さんと経営してる喫茶店で飯食ってたじゃねぇか。で、その坂原さんがどうしたって?」

「いやさ、坂原さんが描いてた絵に、あれとよく似た奴が居たんだよ。その時は繁、部活の集まりに行ってて居なかったんだけど」

「何?」

「はっきりとは覚えてない。でも確かに、赤と青の宝石みたいな目玉二つがついた白いイモムシみたいな奴だった」

「マジかよ……」

「それで気になって、坂原さんに『こいつ何者ですか?』って聞いたら」

「聞いたら、何だって?」

「あんまりよく覚えてないんだけど、インターネットの知り合いが書いたクトゥルフ神話小説に出てきた邪神の子供なんだって」

「邪神?」

「そう。名前は忘れたけど、若い地球人の処女を襲って子供産ませるっていう奴らしいの」

「おいおい、そりゃもう完全に触手もんのエロゲーが如し設定じゃねえか」

「しかも処女厨とかどうかしてるよね。うん、私もそう思ったんだけど聞けばその人『安っぽい内容を何処まで崇高に出来るか』っていう実験の途中だったみたいで」

「そうかよ、そりゃ御苦労なこって」

「……でも変だよね、今回の事件でも若い処女ばっかり死んでるんだもん」

「あぁ。その上うろ覚えだが、死体安置所で見た被害者に残ってた傷、もしかしてコイツ等の仕業なんじゃねえかとも思えてきたぞ。あくまで仮説ですらねー根拠なき妄想の域だがな? そもそも腹突き破るとか腹膨らますとかは兎も角、体組織改造系の傷跡の説明にはなんねぇし」

「だね……この件はもうちょっと私達で調べてみた方が良さそうかも。被害者の身辺については供米神官の部下とか、ニコラさん達も探ってくれてるし」

「ああ…この先に何が待ってるのか想像すっと、不思議とワクワクしてくるってモンだぜ」


 そう言って繁は、別件の為部屋を去った供米が手渡してくれた呼出スイッチを手に取った。通信機器や念話の類が使用できないこの施設内に於いて、呼出スイッチは重要な連絡手段となりうるのである。


「んじゃ、そろそろ帰っか」

「そうだね。長居しても悪いだろうし」

 繁が呼出スイッチを押そうとした、その時。

「ちょぉぉぉっと待ったぁああああ!」


 テトロが大声で二人を呼び止めた。何事かと思って振り返れば、彼女は古びた段ボール箱を抱えて大慌てで此方へ駆け寄ってきた。


「どうしたの、逆夜さん?」

「何かあったのか?」

「いきなり大声出して悪いね。実は二人が話してる最中、二年前に蒸発しちゃってそれ以来行方不明だったうちの師匠――つまり、本来ここを仕切ってたボスの部屋を整理してたんだよ。そしたらその部屋の中でこれを見付けてね。研究ノートなんて題名なもんだからいつものと勘違いしちゃったんだけど、中を開いてびっくりしちゃったよ」


 そう言ってテトロは、最も古い研究ノートの表紙を開いた。そこに書いてあった内容を暫く読み進めていた二人は、驚愕する。



「これは、まさか!」

「そんな馬鹿な……」


 ノートのあるページに貼り付けられていたのは、専門的な研究施設で撮影されたものと思しき写真であった。研究者や学生のノートに写真が貼り付けられている事は別段珍しいことではなく、問題はその被写体にあった。

 手術台と思しき場所に乗せられていたのは、正体不明の生命体であった。全長数十センチ程であろうその生物は、白く柔らかな体のイモムシであったが、普通のイモムシとは明らかに違う所があった。



 そのイモムシの頭部には、水晶体で構成された目玉があったのである。しかも左右で色が違い、それぞれ赤と青であるそれらは宝石のように美しく透き通っていた。

テトロの恩師とは一体何者なのか!?そして写真に写っていたかの生物の正体とは!?

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