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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第八十六話 変死体上等。




翌日、死体安置所を訪れた繁と香織がそこで目にした惨状とは?

―前回より―


 あの後海水浴を終えた一行は、ラドラムの案内で尚もアクサノ観光を堪能し、ホテルへと戻っていった。そしてその翌日、繁と香織は処女怪死事件について探るため供米の案内で街の死体安置所へ向かった。


「此方が立死体安置所になります。特別な手続きなどは前もって済ませてあります故、どうぞ気兼ねなくお入り下さい」

「死体安置所に気兼ねなくというのも何処か変な話ですが、では御言葉に甘えて」


 三人は重厚な金属製の自動ドアをくぐり、無機質なタイル張りの床を進んでいく。さほど賑わう事の無い施設であるためか職員は少なく、受付の奥に毛のない猪のような禽獣種が二人座っているだけだった。


「失礼する」

 供米が受付に呼びかけると、毛のない猪のような禽獣種の二人が慌てて駆け寄ってきた。体格と服装から見て30代を過ぎた男女であろうが、男の方は口の辺りから二本の角か牙らしきものが突き出ており、何とも異質な顔立ちだった。

「これはこれは供米神官、ようこそお出でくださいました」

「本日はどのようなご用件で御座いましょう?」

「件の方々をお連れしたのだ。死体保管庫へ案内して欲しい」

「件の方々? では、こちらのお二人が?」

「そうだ。紹介しよう、ノモシアより来て下さったバグテイル殿と青色薬剤師殿だ」

「初めまして、ツジラ・バグテイルと申します。本日はどうぞ宜しくお願い足します」

「相方の青色薬剤師です。本日は態々お時間を頂き有り難う御座います」

「いえいえ此方こそ初めまして。私、バビルサ系禽獣種のヘンリーと申します。長年夫婦で市内会を取り仕切りながら、この死体安置所の運営と管理を行っております」

「妻のエマで御座います」

 バビルサ夫妻に案内され、二人は常にマイナス15度で保たれた死体保管庫へと入っていった。

「こちらが最初に発見された遺体となります」

 そう言ってヘンリーは棺桶を取り出し、台車でテーブルまで運んだ。

 金属とガラスで作られた棺桶の中に納められた死体を見た二人は、一瞬己の目を疑った。

「これ……一体どういう事なの…?」

「成る程、確かにこいつは狂気の沙汰だ…」

 二人の目の前にあった死体は、一見ごく普通の食肉目系禽獣種の若い女性でこそあった。その死に顔は苦痛に歪みながらも、何とか原型を留めてはいた。しかし彼女の腹部はまるで中身の詰まった水風船のように脹れ上がっており、腹の皮が張っているというより、外部から巨大な肉の袋が接着されているかのようだった。

「市長からの指示で検死にはかけていませんが、赤外線で体内を透視したところ内部には何らかの液体と思しきものが……」

「何らかの……水や胃液などとは違うものですか?」

「恐らく違うものでしょうな。何より詰まっていたのが子宮である時点で何かがおかしい」

「子宮?」

「はい。膨張しすぎた子宮は他の臓器をも圧迫していたようでしてね。一体何をどうすればここまで子宮が膨らむのか……」

「相変わらず狙ったように魔術的な形跡もありませんし、ますます不自然ですね」

「ひとまず、他の死体も見せていただけませんか? 情報が多ければ何かに気づけるやもしれません」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 その後ヘンリーとエマが運んできた棺桶に収まっていた死体は、何れもヒトの体を逸した異変が目立っていた。例えばある者は両の乳房がこれまた異常に膨れ上がっていたり、肛門・膣・乳首等が本来有り得ない直径に拡張されていたり、異常に巨大な男性器や睾丸が股間ばかりか乳房の先端部に存在するものなど、そのどれもが普通ならばこのような状況に陥る前に肉体が破壊されているとしか考えられず、まともに原型を保っている事自体が奇跡あるいは狂気としか思えないようなものばかりであった。


「見れば見るほど不自然でおぞましい……恐らく第三者の介入で後天的に成されたものだろうが、それにしても何所の技術でこんな事を……」

「それ以前に、ここまでの事をする理由が分かんないわ……」

「何にせよこのままでは分からない事が多すぎる。ご夫妻、至急これらの死体を検死解剖にかけてください。出来れば近隣在住の学術者が好ましいですが、場合によってはラビーレマから人員を呼び寄せてもかまいません。但し、この事はくれぐれも内密に……」

「かしこまりました」

「至急、人員を手配しますわ」

「次に供米神官」

「何で御座いましょう?」

「被害者達の情報――とりわけ種族や血液型、病歴、食べ物の好き嫌いなどの身体的なものを中心に調べていただけますか?」

「御意。至急役所と医療機関に連絡を入れましょう」

「それと香織よ」

「何?」

「この被害者、本当に外因的な魔術行使の痕跡は見られないのか?」

「あー、そりゃ医療とか攻撃とか自己暗示とか一般的なタイプの普通にあったけど、どれも体がこんな風になった事の理由付けにはならないねぇ」

「そうか……さて、となるとあとは……供米神官、もう一つよろしいですか?」

「はい。何なりとお申し付けください」

 携帯電話で連絡を入れ終わった供米に、繁は言った。

「ではお聞きしますが、近頃目撃情報が相次いでいるという謎の生命体の死体や、それらに関する情報はどこに保管されているのでしょうか?」

 繁の問に、少しばかり考え込んだ供米はこう答えた。

「保管場所へは、私が直々にご案内致しましょう。あれは特に外部への漏洩を控えるため、極秘の場所に保管させてあるのです」


 そう言って供米は二人を白い普通乗用自動車に乗せた。車の運転席・助手席と後部座席の間には仕切り板があり、後部座席の窓にもスモークフィルムが張られている。

 どうやら供米は、それほどまでに死体の保管場所を秘密にしたいらしかった。


「別にお二人を疑っているわけではないのです。しかし如何なる者にも、知られたくない事の一つや二つはあるものでしてな」


 かくして二人を乗せた車は、謎の生物の死体・情報が保管されているという場所に向けて走り出した。

次回、極秘の保管場所で二人を待つものとは!?

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