第八十四話 或いは現在進行形の萌えポルノ?
それぞれで海を堪能するメンバーだったが……
―前回より―
「うし、来たッ!」
地表に露出した巨大な海棲爬虫類の頭骨化石(地球で言うリオプレウロドンに相当する種のもの)の上に座り込んで海釣りに勤しんでいた繁は、現在三度目のアタリ到来につきリールを巻き取っていた。
「切れんなよ、切れんなよ……っし、釣れたッ!」
糸を引き上げ、魚をを逃がさない内に海水の入ったバケツへと移し早急に釣り針を取る。繁が釣った三匹目の魚は地球で言うセミホウボウに似ていたが、全身を外骨格のように発達した鱗で覆われており、色はスズメバチを思わせる黄色と黒の縞模様だった。
「お、ハチホウボウじゃねぇか。確か煮付けが美味いんだったかな、あとでレシピを調べてみるか」
そうして繁は再び餌(八十二話で引きちぎったピアスにくっついていた肉片)をつけ直し、四匹目の獲物を求めて再び釣り糸を垂らす。
―同時刻・沖合の砂地―
観光客達が楽しむ中、少々沖合の砂地に潜む怪しい気配があった。気配と表記したのはそれの姿が肉眼視出来ない為であり、現に周辺を泳いでいた魚の何匹かは不可視の壁に移動を阻まれていた。
ふと、砂地にて巨大な何かが現れ、またすぐに消えてしまった。
二秒後、先程現れた『何か』がはっきりと姿を現した。
砂地に貼り付くようにして身を潜めていたそれの姿は、サイケデリックな青色をした巨大な蛸に似ていた。しかしよくよく冷静に見てみれば、若干ヒトに似た手足が幾つか見える。
この青い蛸のような化け物の名はシリク・カイメ、海神教幹部の蛸系軟体種である。
「(時は来た……今こそ我が長年の夢を叶える時……)」
海底で決意を固めたシリクは再び姿を消し、海面へと向かい始めた。
―浜辺―
『いやはや、期待以上の収穫ですねぇ』
「全くですよ、兄さん。まさか半ば伝説的レアリティを誇るシャレコウベマンジュウガニが居ようとは……」
『流石アクサノと言った所でしょうねぇ』
「えぇ、この勢いならロイクコラハリエビの貴重な子育ての様子を撮影出来るかもしれません」
『ロイクコラハリエビと言えば、ミガサコルトヒメベラとの共生も見てみたいですねぇ』
ロイクコラハリエビの名前にある"ロイクコラ"とは"ミガサ・コルト"の臣下とされる女性妖怪であり、転移の異能を持つ事で知られる。忠誠心が強く、また公正で優秀なな法の守護者でもある為主に司法関係者から信仰されている。一方で主に異常な性欲を抱くマゾヒストの同性愛者としても有名であり、ファンによる神話小説はおろか原典ですらコミカルな役回りが多いことでも知られる。
また、その親密さ故ミガサ・コルトの伴侶はトゥマージョーではなく彼女だとする説もあり、そのユーモラスな性格もあり、妖怪の中ではトップクラスの人気を誇っていた。
「それにしても平和ですねぇ。海神教や謎の生物が居るなんて信じられませんよ」
『同感です……が、どうやらそうとも言っていられないようですねぇ…』
羽辰の視線が浜辺で戯れる若い女学生五人に映った瞬間、異変は起こった。
五人の内、若干幼く見える一人――黒の長いツインテールを棚引かせた少女が、突如不可視の何かによって足を掴まれ、逆さ吊りにされてしまったのである。
少しして少女を持ち上げた何かがその姿を現した。
それは木の根のように太い蛸の触手であり、その色は人工物と見まごう程にどぎつい青色だった。当の少女自身は勿論、仲間と思しき四人や周囲の観光客までもが、その異様な光景にパニック状態に陥り逃げ惑う。
しかし触手はそれらの中から若い女性―特に細身のティーンエイジャーばかりを捕らえていく。その触手の数は確認可能なだけでも20本を超えており、それらが捕らえられた少女達の手足を的確に拘束。少女達の水着を引きはがしに掛かっている。
『海で蛸の化け物が水着少女拘束……これがラノベ的雰囲気だと言うのかっ!?』
「落ち着いて下さい、兄さん。幸いにもあの蛸の変態製は筋金入りのようです」
『どういう事です?』
「水着にかかっている触手の動きを見て下さい。明らかにゆっくりでしょう? 恐らくあれはただ水着を引きはがし裸体を堪能するだけでなく、恐怖や不快感に怯える少女の表情や自らが優位に立っている状況を楽しんでいるんですよ」
『成る程。小型のハクジラが死にかけのコウイカを捕らえてもそのまま食べず、暫く鼻先でどつき回してから食べるのと同じですね』
「えぇ。あの頭足類の面汚し、恐らく嫌いなもの、どうでもいいものから先に食べるタイプですよ」
『ですねぇ。……さて、それはそうとしてあの蛸どうしましょうか……』
「携帯電話で増援を呼ぶにしても時間がかかりますし、ここは我々だけで奴を始末して見ませんか?」
『おぉ、それは何とも名案だ』
「では早速……今日は少し変則的に言ってみましょうか」
そう言って桃李は左腕と右脚を覆う人口皮膚を取り払い、内部に仕込まれた義手と義足を露わにする。特殊な金属で出来たそれは状況に合わせて質量を逸した変形をこなし、武器から調理器具、更には通信機器としても機能する優れものであった。
「近頃はコックローチに頼り切りでこれを本格的に使うのは久々ですが……救助作業なら此方の方が好都合であるのも確かですし。ひとまずはあの少女達を助けましょう。兄さん、目分量で見て大体何人まで抱えられます? 無論、浮遊状態での話です」
『そうですねぇ……いつもの調子で飛ぶとなると、大体二人が限度でしょうか』
「二人ですか…成る程、ではその案で行きましょう!」
かくして桃李と羽辰は、それぞれ別方向から凄まじい速度で青い蛸―基、自称海神教幹部シリク・カイメへと向かっていった。
次回、蛸VSゴキブリ&幽霊モドキ!