第八十話 夜明けの朝日と市長と神官
繁一味、遂にアクサノへ!
―前回より―
翌朝5時14分。旅客用大型ヘリの中で目覚めた七人は、水平線の果てから登る朝日に力を分け与えられるような感覚に陥った。透き通った東天から差し込む優しげで暖かな陽光は、社会的な悪に染まるラジオDJ達にもまた平等な癒しと活力を授けるのである。
「…もう朝か」
「アァ、モウソロソロダ。到着次第ホテルヘ案内シヨウ。朝食ハドウスル? 要ルナラバ早クテ午前7時ニハ用意サセルコトモ出来ルガ」
「いや、大丈夫だ。貯蔵分があるし、不足分は各自向こうで買い足す」
「了解シタ。他ニ要望ハアルカ? 有レバ自治体ニ連絡スルゾ」
「そうだな……じゃあ、スター扱いは止めて欲しい」
「ト、言ウト?」
「派手で大がかりな歓迎会やパレードをやったり、過剰な宣伝や優遇は止して欲しいって事だ。外部への報道もNGだ。あれやこれやとチヤホヤされて目立つのは柄じゃないんでな。あくまで一介の旅行客として、それなりに良い扱いをしてくれればいい。まぁ、最初の契約通り宿泊費なんかはそちら持ちで頼みたいが」
「ソウカ。デハ上ニモソウ伝エテオコウ」
「俺達は芸能人でも英雄でもない。ただ、森に潜む何か―目撃証言によれば神とも言えるそれの正体を突き止め、可能ならば駆除する。その為にノモシアからやって来た、単なる物好きの民間団体。そういう事でよろしく頼む」
「心得タ」
―セルヴァグルにある高級ホテル―
ホテルに到着した繁達はそれぞれ割り当てられた部屋で暫く好きなように過ごした後、午前8時30分の呼び出しに従い一階のロビーへ向かう。ロビーで待っていたのは竜属種と禽獣種の男二人組。雰囲気から察するにどちらもかなりの高齢であるようだった。
「お初にお目にかかる。私はムチャリンダ。この街の市長だ」
真っ先に口を開いたのは大柄な東系竜属種の男性だった。一件深緑に見える鱗は、角度によって七色の光を発している。
「ほう、貴方が市長様でしたか。初めまして。ラジオDJをやっております、ツジラ・バグテイルと申します」
「貴公がツジラ殿か。巨大な羽虫一匹が丸ごと頭になっていると聞いていたが、霊長種だったのか」
「あれは被り物で御座います。我々のような者は安易に素顔を晒しては身を危険に晒します故」
「左様か。という事は、その名も?」
「えぇ。当然ながら偽名です」
「成る程。して、今回貴公等に来て頂いた理由だが……」
「心得ております。森林の深奥にある廃洋館とその近辺に住まう、得体の知れぬ化け物共を駆除する――投書にはそうありました」
「うむ、その通りだ。あの後洋館へ精鋭を送り込もうとも考えたのだが……傭兵団の二の舞になると考え、貴公等の華麗な策に頼るもの決定した」
「華麗な策……ですか。それほど凄まじい事をやった訳でも無いのですが、呼ばれたからには我等一同全力を尽くさせて頂きます」
「因みに投書は私が出させて頂きました。とは言っても、事はそれだけに限らないのですが……」
竜属種・ムチャリンダに続いて口を開いたのは、青紫を基調とした中華服に身を包む熊猫系禽獣種の男であった。背丈はニコラや桃李と同じ程度だが、肩幅はその倍程もある。
「そうでしたか。ところで貴方様は……」
「失礼、申し遅れました。私、林霊教の神官兼児童養護施設『コチョウラン』の運営者で禽獣種の供米磨男と申します」
「ほう……それで供米神官、それだけに限らないとは一体どういう事で?」
「はい。実は廃洋館への傭兵団派遣以降明らかになった事なのですが、以前よりこの近辺で若い女性の怪死が相次いでおりまして」
「若い女性の怪死……ですか」
若者の怪死と言えば、リューラとバシロを除く5人には覚えがあった。シーズン2、ラビーレマの東ゾイロス高等学校で起こったクブス派残党による連続強姦殺人事件である。とは言えあの時は男女問わず、しかも範囲が限定されていたのではあるが。
「えぇ。街に住まう若い女性―それも、健康体の処女ばかりが10人も変死体で発見されているのです。何れも恐るべき傷跡や解剖学の域を逸した形跡を残されたままに、しかし魔術の形跡は見当たらずという有様で」
「解剖学の域を逸した有様とは?」
「それにつきましては、ご希望とあらば後程現物をお見せ致しましょう」
「判りました。他に何か変わった事件などは?」
「はい。これはつい二週間程前からなのですが、市内で得体の知れない生命体の目撃情報が相次いでおりまして、それらしき生物の死骸も幾つか発見されているのです」
「ほう。具体的にはどのような?」
「具体的にここがこうであるとか、そう言い表す事も出来ないほどに奇怪な姿をしているのです。それも、どの生物にも似ていないのではなく、不特定多数の生物種に見られる特徴が様々に混在しているという、益々に不明瞭な形態でして」
「『どれでもあるが故にどれとも言えない』……ですか。して、専門家は何と?」
「それが、各大陸のあらゆる専門家に種の特定を仰いだのですが、どの方も口を揃えて『同定不可。既存の生物種には当て嵌まらない』の一点張りで……。細胞の大きさや目撃証言からして動物である事は間違いないのですが、遺伝子の塩基配列もまるで見る者を嘲るかのような配列でして……」
「成る程……それは確かに奇妙ですなぁ…。判りました。この一件、全力を以て当たらせて頂きます」
「はい。どうか宜しくお願い致します。無論、事件の捜査ばかりでなく観光も存分にお楽しみ下さいませ」
かくして市長達との話を終えた一行は、情報収集を兼ねて街へ観光へと繰り出した。
次回、待望のセルヴァグル観光!