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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第七十六話 次の行き先は南国ですが、何か?




そしてラジオも動き出す。

―前々回より―


 デザルテリア国立士官学校に潜んでいた秋本軍を壊滅させてから数週間、世間は夏真っ盛りであった。テレビでは連日海、山、遊園地や博物館等各種観光地に関する情報が報じられ、絵描き達は水着祭りに走り、アニメ雑誌の表紙やピンナップなども海水浴やキャンプ、縁日等の図柄で統一される。

 しかしてそんな中にあっても、我等がツジラ・バグテイルこと辻原繁とその同士達はさして派手な事をするでもなく、ただただ己の思うように過ごしていた。


「突然だが、次の行き先が決まった」

 その日の夜、極めて珍しいことに一室に集って夕食を突く仲間達に、繁は言った。

「突然だね」

「あぁ、突然だ。多くの物事ってのはな」

「それで、今度は何処行くの? ヤムタとか?」

「他は何処でも良いがとりあえずエレモスはやめとけ。出身者だから言うが、あそこは今の季節じゃ何処もクソ寒くてやってらんねぇから」

『そうなんですか?』

「南半球だからな。俺としちゃその流れに慣れてたんだが、あの気温は慣れがねぇと辛いんだぜ。んで、何処行くって?」

 バシロの問いかけに、繁は意味もなく立ち上がって答えた。

「今回の行き先はアクサノだ。秋本も財産をアクサノのどっかに埋めたらしいから、一石二鳥って奴だな」

「アクサノって言うとあの、赤道直下にあるっていう大陸?」

「だだっ広い癖に人口密度はそんな高くなくて、陸地の殆どが熱帯雨林なのよね」

「技術形態は魔術・学術併合、文化形態は宗教軸だという話も有名ですよね」

『そもそも民族性が他の大陸に比べて幾らか穏やかな傾向にありますからねぇ』

「だがだからってノホホンとした間抜け共かっつーとそうじゃなく、スジは通すしケジメもしっかり付ける奴らなんだよな」

「あと確か海神教とかいう喧嘩好きのカルト連中が跋扈してんだよな、あそこ。まぁ今じゃナリを潜めてるらしいが……何時暴れ出しても可笑しくはねえ」

「何? 今回の敵はその海神教の奴らなのか?」

「いや、今回の件に海神教は関係していない。案件概要は追って説明するが、それより今は準備が先決だ。今までと違い、今回は地方自治体のバックアップがついているからちょっとしたバカンスが楽しめるぞ」

「マジか!?」

「あぁ。一度に口頭で説明するのが困難なほどに至れり尽くせりのサービスだ。しかも街は海沿いでな、その海ってのがまた凄まじく綺麗な砂浜つき珊瑚礁だと聞いてる」

「アクサノの海はカタル・ティゾル最高峰と言われますからねぇ」

「そうだ。だからこそあらゆる方面で準備は万端にしていかにゃあならん。

今回は仕事とバカンス兼ねてるからなぁ……」

 そう言って繁は(おもむろ)に重厚な金属製のスーツケースを取り出した。一般的なそれよりは些か薄いような気もしたが、しかしそれでも威圧感は十分だった。

「……そのスーツケース、何?」

 思わず箸を落とした香織は、そのまま訝しげな表情で繁に言った。

「そう身構えんなよ、お前らしくねぇな」

「身構えもするよ。漫画とかドラマとかだと、大体そういうのには洒落になんない額の札束が詰まってるもんでしょ?」

「そうよね。それでその中の札束っていうのは、大体法的にも倫理的にもヤバい金だったりすんのよね」

「定番中の定番ですね」

『まぁ我々ってハッキリ言うと悪役ですし』

「しかしそこまで悪役だったとはな」

「侵略先の若い女手当たり次第犯しまくるとかじゃねぇだけマシだろ」

「皆勘違いしてるようだが、この中に入ってるのは金なんかじゃねぇぞ」

「「「「「「!?」」」」」」

 テーブルの上で開かれたスーツケースの中に入っていたのは、確かに繁の言う通り札束などではなく、ノモシア各地に支店を持つ様々な商店で使用可能なクーポンや商品券、ポイントカードの類であった。

「総額きっかり630万分ある。一人90万やるから、明後日までの間にそれで旅行に必要なモン買いそろえてこい。但しそれが使える店や商品は限られてくる。詳細はこのリストで確認するように」

 繁によって配られたリストには、商品券・ポイントカード類の種類や、それが使える商店や商品についての詳細な情報が記されていた。

「家電、ゲーム機、ゲームソフト、レンタル品、動植物、農業用品の殆ど、中堅以上の魔術具等はそれらの対象外だが、それなりのものは入手可能だろう」

「……あのさ、繁。ちょっと良いかな?」

「どうした香織、金額や対象商品の品目に不満でもあるのか? 品目はどうにもならないが、金額だったら俺の分を――

「いやそうじゃなくて。品目・金額について不満なんてないよ。私が聞きたいのはこれの出所。こんなに沢山の商品券、どこで手に入れたの?」

「あぁ、何だそんな事か。何て事あねえ、イスキュロン行ったときに駅に居た痴漢冤罪のオッサン助けたら」

『その男性の方から助けたお礼にと頂いたというわけですね?』

「それもある。が、そんなもんは全体の一分(いちぶ)程度でな。実はその時、被害者面してオッサンから強請ろうとしてたOLのお姉様(クソスケ)や尻馬に乗ってた民間人の皆さん(くされやじうま)と軽く平和的な交渉をさせて頂いたら、詫びだと言って中身の詰まった財布を突き付けられてな。極めて健全で平和を愛する善良な一般人の俺としては当然、そんなモン受け取る訳にも行かねぇから、中からポイントカードとか商品券だけ抜き取って財布だけは返してやったって訳だ。勿論残る現金とかクレカは全部、最大の被害者であるオッサンに慰謝料として差し上げた。いやぁ、我ながら他に類を見ない健全かつ平和的で善意溢れる解決法だったと思うぜこいつぁ」

「凄いね繁! それでこそツジラジの司会DJだよ!」

「そう言うな香織よ。俺は当然の事をしたまでだ」

 等とあからさまに芝居臭い態度で宣う地球人二人を尻目に、他五名はただただ死んだ眼のままに飯を突き続けたのであった。かくしてエレモス行きが決まった七名は、それぞれ準備のために動き出す。

次回、ヴァクロ女子(←ここ重要)チームの受難!?

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