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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第七十五話 インポッシブル・ウェイストマンション




シーズン4・アクサノ編、遂に始動!

―前回より―


 時は溯り、ツジラジ第二回が終了した日のアクサノにて、夕暮れ時の熱帯雨林を往く六つの影があった。一見人型を乖離したような外観のそれらは、何れも歴としたヒト――この場合、文明を扱うに値する知性と言語能力を併せ持つ種族に属するもの――である。


「ねぇアニキ、あとどのくらい?」

「確かこの辺りに古いお屋敷がある筈だから、多分もうすぐだよ」

「うやー!」

 地面を這うように歩く胴長の獣の問いかけに、その側を歩く二足歩行の熊が答える。気怠そうな胴長の獣に対し、熊の側に付き添って歩く幼い兎は心底乗り気なようだった。

「しっかし、『青く光る真珠の垂れ幕』か……未だに信じられへんなぁ」

「この辺りは電気が通ってないから、考えられる可能性としては魔術だけれど……」

「これ程辺鄙な場所でそんな真似をする意図が見えないな……儀式か何かとも思って調べてみたがそんな記録は無いし……」

 等と言うのは順番に、紅い(クチバシ)と青く長い尾羽が特徴的な鴉ほどの大きさの鳥、それより小柄で繊細な印象のある白い鳥、そして鱗に覆われたトカゲともアリクイともつかない獣であった。先ほどの二匹と一羽を含む彼ら三匹三羽は現在、世話になっている猿系禽獣種の老人から聞いた『青く光る真珠の垂れ幕』を探していた。

 老人曰く『青く光る真珠の垂れ幕』は、熱帯雨林の奥深くにある巨大な廃洋館の全体に掛かるもので、その光は見る者全てを虜にする程に魅力的であるという。話を聞いてその光を是非とも見てみたいと思った彼らであったが、その旨を保護者である熊猫系禽獣種の男に伝えたとしても『夜の熱帯雨林は危険だから』の一言で即時却下されると考え、覚えたての召還系魔術『ミチオシエ』で召喚した甲虫――その名の通り、召喚者の思い描くものへの道を探り当てその場へ導く能力を持つハンミョウらしきもの――の案内を頼りに森の中を進んでいた。

 そうして歩くこと数分後。六名は遂にお目当ての廃洋館へと辿り着いた。

しかしそこは、話に聞いたような光を放っては居らず、ただただ月明かりに照らされているだけだった。


「光って……ない、ね」

「何だ、あの話嘘じゃん……」

「うゆー」

「何やつまらん、早よ帰ろ」

「そうね。あんまり長居するとあとが怖いし」

「興味深かったんだけど……致し方無し、か」

 そう言いながら、六名はそそくさと帰り始めた。しかし、その時。

「うわあああああああっ!」


最後尾を歩いていた胴長の獣の悲鳴が、夜の熱帯雨林に響き渡った。

「トト!?」

「トト君!?」

「どないしたんや!?」

「みみみみ、皆逃げてぇっ! あ、あっああっ、アガ、アガガガガっ!」

 胴長のこと、麝香猫系禽獣種の少年・トトは恐怖心で酷く取り乱しているらしく、腰が抜けていた。仕方なく思った熊のような獣こと、トトの兄貴分である熊猫系禽獣種の少年・ハピが回収し頭の上に乗せる。

「落ち着いてトト。アガって何の事?」

「アガっ、アガっ、アガシュラが居るぅっ!」

「「「「「アガシュラぁっ!?」」」」」

「んきゃぁぁぁ!?」

 その名を聞いて、一同は思わず絶叫した。

 アガシュラ。正式名称をツリーフォーク・ボア、或いはオオツノニシキヘビとも呼ばれるこの巨大な夜行性の爬虫類は、アクサノ本土を初めとする熱帯地域の湿潤な森林地帯に棲息している。無性生殖であるため一個体での繁殖が可能であり、一度に産み落とされる子供の数は70~100と極めて多い。貪欲であり環境の変化にも強いため生きた状態での輸出入は全面的に禁止。大陸内でも生きた状態での展示・飼育は原則不可能である。

 しかし狩猟に関してはこの限りでなく、近寄ることが極めて困難かつ危険という理由から賞金がかけられているほどである。

 そんなアガシュラの頭を目の前にして、一同は死を覚悟した――のだが、何かがおかしかった。一般的なアガシュラならば、動くものが目に入りそれを獲物と認識し無差別に襲い掛かってくるはずである。

 しかし今現在、アガシュラはピクリとも動かない。大口を開けたまま、一切動こうとしない。

「……あれ?」

 不審に思ったハピは恐る恐るアガシュラに近付いてみるが、アガシュラは一向に動く気配を見せようとしない。続いてハピは、思い切ってアガシュラの頭へ小枝を投げつけてみた。小枝はアガシュラの頭に当たったが、それでも尚アガシュラは全く動かない。

「……こりゃあ、どういうこっちゃねん…?」

 独特な言い回しで喋る青い鳥こと山鵲サンジャク系羽毛種のガッザは、上空から恐る恐るアガシュラの頭を観察し、ある事を理解した。

「このアガシュラ、死んでんで」

「「「「え!?」」」」」

「うゃ?」

「だってホレ、こっち来て見てみぃや。このアガシュラ、首から後ろが何かに食いちぎられてんねや」

「何だって? それじゃ、このアガシュラは……」

「見間違い、だな」

「何だ……びっくりしたわ……トト君の過剰反応じゃない……」

「ホンマ傍迷惑な奴やで。まぁでも、本物やのうて良かったわ」

「そうだね。それじゃ早く帰ろうか」

「うやー」

 かくして一同が帰ろうかという時になって、依然としてアガシュラの死体から動こうとしない者が居た。トカゲともアリクイともつかない獣―センザンコウ系禽獣種のマニスである。

「マニス、何してんのや? はよ帰んで。抜け出した事がバレたら神官のおっさんに大目玉や」

「おっと、すまない。アガシュラの死体を見ていて、少し不可解な点があったものでね……」

 ガッザに促されたマニスは、素早く駆け寄りながら言った。

「不可解な点?」

「あぁ。あのアガシュラの死体、大体脊椎7~10個くらい以降から先が無かったろう?」

「えぇ、そうね。でもそれって、そんなに珍しいことじゃないわよね? アガシュラは確かに比類無き捕食動物だけど、だからといって無敵というわけでもないし」

「ワイバーンとか、ドラゴンとか、数は少ないけどあれより大きな動物が居ないって訳じゃないもんね」

「確かにそうなんだが、これはそんな安易な話じゃない……」

「どういう事?」

 ハピの問いかけに、マニスはあくまで冷静に答える。

「アガシュラの胴体にあった傷口についてなんだが……僕の記憶と知識が確かなら、こんな傷跡を残せる構造を身体に持った生物は、アクサノどころかカタル・ティゾルにも居はしないんだ」

 博識なマニスの発言に、一同は度肝を抜かれた。

「ええっ!?」

「マニス君、それって……」

「どういうこっちゃねん!?」

「うやっ!?」

「それじゃあ、一体何がこんな事を……」

「解らない。最初は魔術や機械なんじゃないかとも思ったが、それらしい痕跡さえ全く無い……これは間違いなく、生き物の歯形に相当するものだ」

「それやったらこのアガシュラをこないにしてもうたんは一体何やねん!?」

「解らない。少なくとも僕の理解の範疇を超えた存在だ……。改めて思う。皆、早く逃げよう。ここには僕等が知ってはいけない何かの住処なn――

『ゴゥォエアァァァァァァァァァァァァァァッ!』

「な、何だっ!?」

 マニスが言い終えるより先に、突如地面を突き破って巨大な何かが現れた。辺りが暗くその姿を肉眼視する事は出来ないが、何物とも思えない奇妙で恐ろしげな鳴き声から、大概ろくでもない存在であろう事は確かであった。

「皆逃げろーっ! 早くーっっ!」

「うああああああああああああ!」

「きゃあああああああああああ!」

「んきゃああああああああああ!」

「わああああああああああああ!」

「コレぁどないな設定やねーん!」


 かくして少年少女幼児達はその場から全速力で逃げ出した。そして当然ながら、彼らは戻った矢先保護者である神官にこっぴどく絞られたのだが、それはまた別の話。重要なのは彼らの証言を聞いた神官が廃洋館についての情報を得るに至ったという事であり、話を聞いて不審に思った彼は早速力自慢で知られる傭兵団を雇い入れ、洋館へ調査に向かわせた。

 しかし傭兵団からの通信は調査開始一日を待たずして途絶え、三日後にただ一人生き残った団員が山中で救護された。

 団員は何らかのショックにより錯乱状態に陥っていたが、現地の医師やシャーマンの治療が功を奏しまともな会話が可能な段階にまで回復。調査に向かった中で唯一生存した彼は、こう証言した。



『私は最初、この仕事を見くびっていた。だが今となってはそれが致命的な過ちだったと痛感している。団長を含め仲間達は、皆総じてあの洋館に潜む何らかのものに食われてしまったのだ。私は見た。仲間達を食っていたあれらとは、この世に住まうあらゆる存在とは全く異なるものだ。だが、私はあれらを見て一つだけ確信できたことがある』


 それは何かと訪ねられた男は、表情を変えずにこう言った。



『あれが、神だということだ』

次回、この事件に繁達はどう挑む!?

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