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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
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第七十一話 異形教員タカ




殺害不可能に近い敵を相手に一行はどう戦うのか?

―前回より―


「そんで学者先生よー」

「何だ?」

「あのバケモンの正体がアンタの後輩だってのは判った。だがバシロ曰く不完全体なりに安定傾向にある奴には、唯一弱点の水銀さえも怯ませる程度の効果しか無いらしいじゃねぇか。なぁ、バシロ?」

「そうだな。俺ら自体、さしたる弱点の無ぇ存在として設計してたんだ。不完全体の水銀はあくまで非常時に数時間黙らせる程度、しかも口に相当する部分から飲み込ませねぇと無意味だからな。まあ寄生する宿主がなきゃ寿命はガリガリ削れてくだろうが、多分それを待ってる暇もねえだろう」

「と、こう言ってる訳だが……どうやって奴を始末するつもりだ?」

 リューラの問いかけに、九条はあくまでいつもの調子を崩さずに答えた。

「始末、か。確かにその点は考慮すべきだろうな。今の奴には、ヒトであった頃の知性も理性も愛嬌さえも残されては居ない。しかしだからと言って、この場でお前さん方の手を煩わせてまでカーマインに引導を渡すつもりは元より毛頭ない」

『どういう事です?』

「単刀直入に言うと、今の九条にカーマインを殺すつもりはないと言うことだ」

「それは言及されるまでもなく分かり切っています。しかし問題はその先ですよ」

「先とは?」

『殺さないとして、彼を如何為さるおつもりかという事です。まさかあのまま校内に放置するわけではないでしょう?』

「当然だ」

「じゃあどうするんですか?」

「どうするか……か。決まっているだろう? 撃退するんだよ」

「撃退?」

「そう、撃退だ。ところでジゴール、完全体であるお前達の種族には弱点が無いそうだが、所謂ゲーム的な表現で言うところの物理的なダメージはどう扱われるんだ?やはり効かないのか?」

「素早く再生するようになってるが、ダメージ自体は感じるな。あと生き物な分、完全に死なねぇって訳でもねぇ」

「再生の速度や度合いは?」

「個体によりけりだが、大概はとんでもなく早ぇ。但しあの手合いなら、痛みには弱いはずだ」

「では何らかの方法で記憶を呼び覚まさせ、精神的な揺さぶりをかけるというのは?」

「安定の度合いに依存することになるが、奴が不安定ならそれもまた有効だろうな」

「情報提供どうも。と言うわけで、以上の事柄を踏まえて早速作戦を立案する。尚、撃退後我々はここを離れて奴を追うと共に、安全に始末出来る場所へ誘導しそこで決着を付ける。よって我々は秋本・九淫隷導・康志との決戦に加勢する事が出来ないが、異論はないか?」


 九条の発言に異を唱える者は誰一人として居なかった。


―二分後―


「それで、作戦が固まったのは良いんだが」

 広々とした講堂の中央で、繁はぽつりと切り出した。

「どうやって奴をおびき寄せる? 俺は大学のフィールドワークで虫取りをした事ならあるが、あんな図鑑に先ず載らないような虫の捕まえ方は知らんぞ?」

「心配はいらん。此方から何をしないでも、先程の動向からして奴は恐らく我々の気配を察知して真っ先にここへやって来るだろう」

「だと良いが……もしあの状態で逃げ出していたとしたら――な、何だッ!?」

「辻原さん、奴です! カーマインが天井からッ!」

 桃李の指差す方向では、確かに突き破られたコンクリートの天上から、異形と成り果てたカーマインが這い出してきていた。天上や壁面に鋭い節足を突き立てて走り回っているカーマインだったが、その胴体は以前見たより明らかに細くなっているようだった。

「(この短時間で痩せただと……? まぁいい)九条、奴が出たぞ!」

「解っている。奴とは普通に戦って構わん。但しこの部屋からは出すな!」

「了解だぁ!」

 かくして繁一行とカーマインとの激戦が始まった。まず先陣を切ってリューラとバシロが飛び掛かり、変幻自在の肉体と軍隊式格闘術を織り交ぜた凶暴な猛攻でタールのような黒い身体に打撃や斬撃、刺突などを叩き込んでいく。しかし対するカーマインは、悲鳴や絶叫で自身に降りかかる苦痛を主張するものの傷そのものは一切負っていないかのようだった。

「クソ、やっぱ駄目だっ! 不完全体の癖に再生能力が無駄に高ぇっ!」

「つーかこいつ、痩せた分だけ素早くなってねぇか!? そもそもこの短時間でここまで痩せる生き物って存在するのか!?」

「鬼が付くほど高燃費な粗悪品だからな。そもそもが粗悪な術式で変異させられた上に、多分ロクな管理下に置かれてなかったんだろうぜッ!」

 バシロの読みは当たっていた。若い上に元よりそれほど魔術向きでない所を無理矢理薬物で補って発動した三沢の術は一般的なそれより遙かに粗悪なものであり、これはカーマインから理性や知性を奪う結果となった。

 更にその保存場所や餌の与え方も、元来強い生命力を持つ割に所々繊細な存在である黒い人造生命体を管理するには些か不向きな場所であった。かくして斯様に不具合が重なった結果、異形化したカーマインの燃費は極めて高くなっており、絶食状態では肉眼視が可能なほどに衰弱が早くなってしまっていたのである。

「オォアアアアアッ!」

「「ぐごあっ!」」

 しかし衰弱して尚その力は健在なようであり、節足でリューラとバシロを強く叩き飛ばす。吹き飛ばされた二人に代わり、続けざまに羽辰の連続技と破殻化した桃李の火炎攻撃と、それを纏ったニコラの蛾型弾幕が襲い掛かる。


「ッギェアェェェェッ!」


 それらの攻撃全てを正面から受けたカーマインは、壁に潜って逃げようとする。しかしそれは香織の操る古式特級魔術によって防がれ、そこへ更に馬乗りになった繁の手甲鉤や、ジェット噴射で飛び回るティタヌスの重火器などを受け、苦痛に悶え悲鳴を上げる。

 しかしやはりその身体は依然として傷一つ付いて居ない。否、付いたとしてもすぐに治ってしまうのである。


 かくして開始された高志・カーマイン撃退作戦。この激しい勝負の行く末は、作者でもまだ解らない。

次回、遂に決着!(すると思う)

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