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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
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第七十話 黒のヒミツ




バシロの口から語られる衝撃の真相!

―前回より―


「バシロさん、これで良いですか?」

 壁や床を冷やしたローチスリックで固めた桃李が、バシロに問う。

「オウ、大丈夫だ。奴らは生物的エネルギーの気配と記憶を頼りに獲物を探す。だがどうしてだかヴァーミン関連のブツは奴の探知を遮断する効果があってよ、どんなにエネルギッシュな奴だろうと、ヴァーミンの保有者だとか、ヴァーミンの関連物で覆われてるってだけで見向きもしねぇのさ。これで視覚がありゃ別だっただろうが、あの動きを見るにそれも無さそうだしな」

 バシロのレクチャーに従い用務員の詰め所に隠れた一行は、そこでバシロからの説明を受けていた。

「何故そんな事が解る? まるでお前自身の事を語っているかのような口ぶりだな」

 雰囲気こそ軽かったものの九条の一言は妙な重みを持っており、それに反応したリューラが言い返す。

「おいおい学者先生、まさかうちの相方があのバケモンと同じモンだって言いてぇのか?」

「そうは言っとらんさ。ただ、彼があれについて詳しいことが不思議でならんだけだ。他意はない」

「そうか……突っ掛かったりして悪かったな」

「此方こそすまない。学術を扱う者は総じて疑り深くてね」

「いやいや、イスキュロン民はどうも感情的になりがちでよ。……で、バシロ。あのイモムシの化け物は一体何者なんだ?」

「そういえば、奴の正体についてまだ話してなかったな」

 バシロはリューラの肩に空いたファスナーの穴から西洋神話の怪物を思わせるデザインの上半身に似た姿を取って、腕組みをしながら語り出した。

「奴の正体について語るには、先ず予備知識ってモンが要るだろう。だから少しばかり昔の話をしようと思うぜ」

「おう」

「事の起こりはそこそこ昔、六大陸の片隅に居たある研究チームが『純然たる生命の人造』を思い立った所から始まった。チームの対応分野は、魔術と学術を併用した技術の雛形だったと思やいい。チームの連中はその頃確立されていた魔術論や生命科学の粋を凝らし様々な理論を立てて必死で研究を続けたが、どうやっても思うような結果は得られなかった。命を成すまでもなく死んじまったり、命を成したとしても何かの拍子で溶けて死んじまうんだ。だがある日、大勢居た個体の中で一匹だけ生き残る奴が現れた。黒いスライムみたいなんだったが、歴とした生物だったのさ。研究者達は歓喜し、その生命の秘密を探る事に昼夜も忘れて没頭した」

『それで、真相は一体何だったんです?』

「それがな、製造の途中で材料ん中にショウジョウバエが巻き込まれてたらしいんだよ」

「ショウジョウバエ?」

「そうだ。そこからヒントを得た研究者達は、完成した材料の中へ生きた鼠を入れて錬成する事を思い付いた。結果、その生命はマトモに動き回る事が証明された。外部から生命エネルギーを注入して安定させてやる必要があったのさ。当初の予定とは違うが、研究次第じゃ幾らでも発展の可能性はあるだろうと研究者達は考えた。更に研究が進み、黒い流体状の人造生命体は特定の生物に寄生しなきゃ直ぐに死んじまう事や、寄生する宿主にも相性ってモンがあるんだとか、色々な事が判明した。魔術を使って材料を生物に馴染ませるなんて方法も考案されたな、そういえば。そうやってそのまま研究が進みゃあ良かったんだが、トラブルは唐突に起こった」

「トラブル、とは?」

「研究チームの一人が、焦って馬鹿げた事を抜かしやがったのさ。『材料としてヒトを使えば、知性や言語能力を獲得し擬似人造生命体が出来る筈だ』ってな。勿論他の研究者共は猛反対したが、言い出しっぺは聞きやしねぇ。散々暴れた挙げ句、終いにゃトチ狂って、チームリーダー一人を残して全員射殺しちまった」

「……何でそいつはリーダーを殺さなかったの?」

「『恩があったから殺すのは惜しい』だとか抜かしやがって、確かにそいつはリーダーを殺しこそしなかった。だがだからってそいつがそれで反省したなんて事はねぇ、リーダーを罠にハメて材料の溜まった容器の中へ突き落としてそのまま錬成。リーダーだった奴はそれで、黒いドロみてぇな化け物に姿を変えちまった」

「そうだったのか……」

「それから暫くの間反逆者はいい気になって取り繕うように生きてたんだが、素人の悪行だ。バレねぇ方が可笑しいってもんでよ。結果として政府機関に追い回される事になっちまった反逆者は、元々リーダーだった化け物を魔術で瓶詰めにし、大陸外へ亡命した。手始めでノモシアで現地に居た不良魔術師共を実力でねじ伏せ子分にした反逆者は、何を思ったかそのままイスキュロンの片田舎へ渡り、そこで無意味に紛争なんぞ引き起こしやがった。

んで、そこへ駆けつけてきたイスキュロン軍と二十日間に渡り交戦した反逆者の一団は――

「ちょっと待てバシロ」

 その話について心当たりの有りすぎるリューラは、バシロを遮るように言った。

「どうした?」

「話を遮って悪いが、その話の続きはこうだろ? 反逆者の一団は、首謀者を残し全員が死亡。残る反逆者自身もイスキュロン軍少佐(・・・・・・・・・)から投降を言い渡される(・・・・・・・・・)がそれを良しとせず、研究成果の瓶を破壊(・・・・)自殺した(・・・・)。違うか?」

 一同は驚愕した。まさかバシロの語る話がそんな結末に行き着こうなど、考えようもなかったからである。

「……流石だな、リューラ……俺の目に狂いは無かったって事か。そうだ。瓶から這い出た化け物ってのはつまり|俺(●)――北エレモス理科大学大学院理学部生命科学科内部に在籍していた私立研究集団『ウボ・サトゥラ』のリーダーだった男……バシロ・ジゴールだ」

「……まさかバシロがそんな奴だったとはな」

「すまねぇ、リューラ。お前には何時か話そうとは思ってたんだ。だが俺ァ、ただ自分の過去を語るって行為如きに意味もなく躊躇っちまっててよ……」

「いや、いいさ。言い出しにくい事の一つや二つ、誰しも持ってるもんだろうからな」

「その通りだ。リューラを純粋に愛し傷付けまいとしたお前にとって、それは恥じることなんかじゃない。……しかし、そうだとすればバシロよ」

「何だ?」

「お前と同じように変異した『奴』に知性が見受けられなかったのは何故だ?」

「解らねぇ。だが恐らく、術者の施した術が未熟だったからかもな。あとあの状態じゃ、唯一の弱点たる水銀も精々怯ませる程度にしかなんねぇ。流石に素体になった奴が何処の誰かは解んねぇが――

「その件ならば私が答えよう」

 話を切り出したのはラビーレマの工学者・九条チエだった。

「先程我々を襲撃し、挙げ句私を喰らおうとしたかの怪物の正体だが……あれは大学時代私の後輩だった男だ」


 その言葉を聞かされた一同に動揺が広まる。


「まぁ落ち着け。慌てたくなる気持ちも解るが、ひとまず落ち着け。あれの正体――というか、あれが真っ当なヒトであった頃の名は高志・カーマインと言ってな。部屋に残されていたレコーダーの音声記録から、魔術か何かによってヒトならざる存在へと変異したことだけは解っていたのだ。しかしそうか……あの計画によって産み出された術だったのか……」

「何だ、詳しそうだな?」

「いや、別にお前さんよりその人造生命について詳しいと言うことはないさ。私の専門は工学だしな。ただ、ここにいる他の誰よりも我々二人の方が確実に詳しいであろうモノは他にあるがね」

「……?」

「おいおいティタヌス、気付かないのか? 我々二人がこの七人より詳しいと断言できるモノと言えばあれしか無いだろう?」

「あぁ……あれか」

「そうだ。我々二人が君らより確実に詳しいもの……それは『奴』――高志・カーマインそのものだ」

 そう言い放つ九条の浮かべる笑みは、根拠の見えない自信に満ち溢れていた。

次回、一行は如何にしてカーマインと決着を付けるのか!?

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