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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン1-ノモシア編-
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第七話 辻原さんと突然の爆発事故




変装して大陸首都へ向かった繁は、そこで突然の爆発事故に遭遇し……

―前回より―


「さて、どうするかな」

 前回、カタル・ティゾルでの活動方針を確立させた繁は現在、最初の行き先として選んだノモシアの大国・ルタマルス首都圏ジュルノブルの街道にてベンチに座り込んでいた。

 ルタマルスはエクスーシアに次ぐ大陸内第二位の地位に属するノモシアの主要国家が一つであり、実質的にはエクスーシアを遙かに凌ぐ程の国力を誇る。ただ、比較的新しく歴史の浅い国家である為形式上の最上位はエクスーシアとして定められており、かの国の栄華はあくまで形だけのものに過ぎない(しかも当のエクスーシア上層部はこの扱いに全く気付いていない)。

 さて、それはそうとして繁である。彼は指名手配中であるが故に、町中を歩くためには身元を隠す必要があった。その結果彼は"変装"をしていたのだが、その姿というのがまた奇抜の一言だった。

 否、奇抜と言うよりは、怪しい。


 まず、上半身は赤の毛筆書体ででかでかと『致死量』と書かれた黒のTシャツを着込み、その上から白衣を羽織っている。

 下半身は灰色の作業服と爬虫類を思わせる質感のベルトを巻いて、靴の足跡から特定されては困ると黒いゴム長靴を履いていた。

 何より怪しげなのは頭部であり、巨大なバッタ丸々一匹を模したフェイスマスクには特殊な術が施され、頭部と一体化しているようだった。


「さて、そんなこんなでこんな変装―ってか仮装だなこりゃ、まぁ良いや。

何にせよ金儲けの計画を進めねぇと。とりあえずアレだ。ルタマルスはノモシアでも特に異文化交流が盛んな癖に、未だ王政なんて時代遅れな手法に拘る懐古厨だ。だがそれは、こっちからすると好都合だとも考えられる。ぶっちゃけ貴族のが、弄くる上で楽しそうだからな」


 そんな事をぼやきながら、繁は街道を歩いていく。

 作り込まれた装備品は、何れも驚くほどに通気性が良く、繁は強い日差しの下にあって尚涼しげな態度を保てていた。現代社会の街道でこんな格好をしていれば好奇の目で見られ、好ましくないトラブルに発展することもあるだろう。だがしかし、ここは異世界カタル・ティゾル。奇抜な格好をした者が我が物顔で堂々と公道を闊歩するなど日常茶飯事である。

 中には、我々人類と同じだけの知性レベル・言語能力を持つというだけで、人間とはかけ離れた容姿の者も居る。そんな中にあって、仮装した繁の姿というのはさほど目立つわけでもなく、寧ろ逆に隠れ蓑として十分機能する程のものだったのだ。


「さて……地図によるとジュルノブル城はもうすぐなんだが……この道はどう行きゃ良いんだ?大鷲の石像はもう通り過ぎた筈なんだが……」


 城を目指す道中、道に迷い地図と睨み合う繁。そんな彼の熟考を遮るように、事態は急展開を見せた――鋭い爆風と凄まじい爆音が、彼の耳を劈いたのである。

「い、一体何事だ!?」

 慌てながらも、繁は全速力で現場を目指す。野次馬根性と言えばそれまでだが、直感でそこに何かがあるのではと悟った為である。


―現場―


「失礼、何か凄まじい爆風が来ましたが、一体何が起こったんです?」

 繁の問に、野次馬の一人である禽獣種(哺乳類風獣人)の若者は快く答えてくれた。

「爆発事故だよ。あそこの廃倉庫に溜まってた魔ガスが何かの拍子に爆発したんだ」

「よくある事なんですか?」

「いや、滅多にないよ。魔ガスは魔力の集まりで、加工法もかなり特別だからそう簡単に爆発したりはしない筈なんだけどなぁ」

ぼやきながら、若者は何処かへ立ち去ってしまった。

「(魔ガス……確か天然の魔力をエアゾル状に加工したものだったよな?

確かに香織が持ってきてくれた資料にもそんな事があったな……まぁ、世の中何が起こるか判ったもんじゃねぇ。気を付けねぇとな)」

 繁は再び城へ向かって歩き出す。しかしそんな時、倉庫内部が更に大きく爆発した。しかも今度のそれは以前と比べてかなり大規模なもので、強烈な爆発は小振りな倉庫一つを丸々吹き飛ばすに十分すぎた。

 野次馬達は予想外の出来事にパニックを起こし逃げ惑う。しかし一方繁は彼自身でも信じられない程に冷静で、指先から溶解液の霧や弾を放っては周囲に飛んできた瓦礫を打ち消していく。

 その動きはまるで一般人とは思えない機敏さであり、当の繁本人も別の誰かに動かされているように感じている始末だった。

 瞬く間に瓦礫の殆どを打ち消した繁は、野次馬達が逃げ去ったのを確認するとそそくさとその場から立ち去ろうとする。

 あれほどの爆発が起きたのに消防・救急に相当する機関が動かなかった事を疑問に思ったがしかし、それが逆に繁にとっては好都合でもあった。

 しかしそんな中、彼を呼び止める者が居た。

「ねぇ、お兄さん」

「?」

見れば繁を呼び止めたのは、白衣を着たクリーム色の長髪を棚引かせる若い女だった。

側頭部や腰から生えた狐のような耳や尾は、彼女が禽獣種――先程も述べたが、要するに哺乳類を基礎とした亜人型種族――の血を引く存在である事を証明していた。

「さっきの、凄かったじゃない。何をどうやったの?」

「手元から溶解液の弾を飛ばしただけですよ。別に大したことじゃない」

「いやいや、凄いことだよ。ここいらの連中は誰も彼も中途半端に身勝手な奴と流されやすい奴ばっかりでさ。それに引き替えお兄さんは凄いよ。最後まで始末付けちゃうんだもん」

「そんな最後まで始末付けた覚えは無いんですけどねぇ。所々外してますし」

「外す外さないは関係無いでしょ。その場に留まり続けたって事がそもそも評価に値するんだし」

 等と、通りすがりの名も知らぬ女と適当な雑談を繰り広げた繁は、女に別れを告げて城を目指す。そしてその場に一人取り残された狐女は佇んだまま、遠くを見据えていた。

「それにしても…何がどうなってこんなに吹き飛んだのかしらね…」

 等と呟きながら女が倉庫の跡地に足を踏み入れ、辛うじて爆発に耐え抜いた柱に触れようとした、その時。

 柱の根元が鈍い音を立てて折れ曲がり、女は倒れてきた柱に上の下敷きになってしまった。


 女はその一撃で絶命し、二度と起き上がることはなかった――



――と、思われた。


 しかし、それから二分ほどして。


「―――不覚、だったわ」


 そんな声を伴い、下敷きになった女の手足が蠢く。

 かと思えば女は両手で柱をずらし、未だ身体の正面に深手を負っているにもかかわらず、何事もなかったかのように歩き出した。

 更に柱によって重傷を負っていた女の身体は、一歩、また一歩と女が歩む度に治癒・再生していく。倉庫を出る頃には、女の身体には傷一つ見られなくなっていた。


「幾ら不老不死だからって、やたらめったら危ない事しちゃ駄目よねぇ。それにしても彼……何でジュルノブル城なんかに向かったのかしら?」


 繁に興味を持ち始めた女は、密かに彼を追うことにした。

 女の名はニコラ・フォックス。ルタマルスの首都圏に住まう、"元"開業医である。

次回、元開業医ニコラの真実が明らかに!

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