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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
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第六十七話 ヒルがサシガメを追う理由




尚も続く壮絶な戦い!

―前回より―


「さて、どうしたもんか……」

 魔術で異空間の中へ退避した香織は、窓の向こうにて繰り広げられる激戦を眺めつつ頭を抱えていた。

「外では二人が交戦中。しかも基軸になる能力はどっちも破壊力がとんでもないから、巻き添えを喰らうと明らかに死ぬんだよね。かと言って下手に動けば繁の邪魔になる上にそれこそ下手したら即死だし……ああもう、どうしたら良いかな……」

 香織は考えた。最も楽な選択肢としては、このまま異空間に隠れ潜んだまま繁を見守るというものがある。

しかしながら、香織はその考えを思い立ち次第即刻却下した。それは余りにも手抜きが過ぎると思ったからだ。

 かくして香織は尚も思考展開を続けるが、中々適切な策が思い浮かばず悩み続ける。


―同時刻・外部―


 蛭のヴァーミンを持つ神子音の破殻化した姿は、それが元々少女と見まごう程に華憐で線の細い尖耳種の美少年である事を忘れさせるようなものであった。それは差詰め色取り取りの蛭が群れを無し一つの生物であるかのように振る舞って生きるようであり、尖耳種としての意匠はおろか、人型さえも保っていない。

 日本の有名なアニメ映画に登場する、祟りによっておぞましい化け物に成り果てた巨獣のような姿のそれには、当然目や鼻といった顔のパーツは何も見受けられない。しかしそれでも尚、神子音は何処から声を出しているのであろうか、明確にまともな言葉を喋ったりする。

 しかも問題はその攻撃方法であった。破殻化前の神子音の攻撃と言えば、能力による球体の連射のみであったが、ここにきてそのレパートリーが増えたのである。というのは、身体を構成する蛭数匹が本体を離れ巨大化し床や壁を砕いて掘り進みながら突進を始めたのである。

 しかもその動きは無差別なようで不規則ながら、本体である神子音を守りながら繁を狙うという芸当を的確にやってのけるので尚のこと厄介極まりない。


「(でェい、クソッ! しかもコイツ等、幾ら殺しても次の奴が来るんじゃあキリが無ぇッ!)」


 繁は巨大蛭の猛攻を回避しながら打開策を練っていた。


「(だが打開策が無いとは限らねぇ……そうだ! 打開策は多分どっかにある! そう信じよう! だが何だ?相手は繁殖力・再生力に優れた馬鹿でかいヒルの集まりだ。見る限りじゃパワーやスピードも連中の方が圧倒的に上回ってると見て間違いあるめぇ。問題は奴が如何にして俺を追ってきてるかだが……少なくともこれまでの事から考えて視覚は使えないと見て間違い無ぇだろう。環形動物に目玉はねーからな……となりゃあとは聴覚・嗅覚か空気の振動、温度、二酸化炭素を基準にからこっちを探ってるかだが……)」

 繁は巨大蛭の猛攻をかいくぐって静かに着地すると、そのまま破殻化を解除し動きを止めた。

「(これで奴が聴覚に依存して俺の位置を探ってるならまだ打開策はありそうなもんだろうが……さてどうだ……?)」

 繁が暫く待っていると、巨大蛭達は途端に目標を見失って迷いだした。更に蛭の聴覚は曖昧なのか、呼吸音や足音などは聞き取れないらしい。

「(良し……これなら行ける……)」

 繁は再び破殻化で姿を変え、動きを止める。しかしそれを皮切りに、突如巨大蛭達が一斉に襲い掛かり始めた。


「(クソッ、どういう事だ!? 破殻化の音ってそんな大きくなかったよな!?)」


 繁が混乱しながらも避け続けていると、蛭の塊である神子音が声を張り上げた。


「成る程、破殻化状態の僕が音で貴方を察知していると判断したわけですか。しかし考えが甘いですね。元々耳に自身のない僕がまさか音で敵を探る訳がないでしょう? 寧ろ耳は目玉共々破殻化と共に封印してしまいますからね、僕は音に頼らない」

「(そういう事か……だがだとすれば、何を手掛かりに俺を探ってるんだ? まず嗅覚・二酸化炭素軸だとすると、止まってた俺を察知できなかった事と矛盾が発生する。破殻化すると寧ろ体温下がるんだから熱軸も有り得ねぇ。となりゃ残るは振動軸だが……やってみる価値はあるか……)」

 繁は携帯電話を取り出し、空を飛びつつ異空間の香織に連絡する。彼が持つ携帯電話は少々特殊で、相手の許可があれば如何なる隔たりをも超えて通信が可能という代物だった。

「香織、聞こえるか!?」

『し、繁!? 聞こえてるけど、どうしたの?』

「奴はエネルギー消費を懸念してか、破殻化以降能力と視聴覚の使用を放棄したらしい。だが奴の妥協案ってのがまたかなり厄介でな。かく乱の必要性がある。手伝ってくれ」

『そりゃ大歓迎だけど、どうやって手伝えばいいの?』

「簡単だ。『ビートエア-C3』をアリーナ中に放ってくれりゃいい! 俺がやめろと言うまでだ!」

『解った!』

 通話が終わり次第、香織の放った魔術によってアリーナに充満した大気が振動した。これで巨大蛭が空気振動や大気の流れを頼りに繁を察知しているのなら、混乱する筈である。

「良し、これでどうにか――!?」

 しかし、現実は違った。空気が振動し気流が大きく乱れる中にあって、巨大蛭は尚も凄まじい勢いで繁目掛けて向かってきたのである。

「ば、馬鹿な!? っがぉぁっ!」

 繁は巨大蛭の噛み付き攻撃を何とか回避しようとするが、密集して突進する太い柱となった巨体に叩き飛ばされ、意に反して破殻化が解除されてしまう。人の姿で落ちていく繁を、巨大蛭は再び察知できなくなる。香織はその隙を突いて空間を歪め、異空間の私室に繁を退避させた。


―異空間―


「繁、大丈夫?」

「あぁ。お前が山積みになった掛け布団で受け止めてくれたお陰で、人の身体であの高さからアリーナの床に転落なんて事にはならずに済んだ。有り難うよ、香織」

「良いって良いって。元より助け合うのが従兄弟じゃん」

「そうだったな……しかしありゃあ何なんだ? 聴覚でも嗅覚でも熱探知でもなく、ましてや空気振動や気流から探知してるわけでもねぇとは……」

 繁は頭を抱えた。仮に秋本と奴以外の愛人を皆殺しにしようとも、奴一人生き延びればそれだけでこれから先自分達の脅威になるであろう事は容易に予想が付く。何より只でさえ強力なヴァーミンだが、それらは保有者に合わせて更なる成長を遂げる。今でこそ死体を吸収しエネルギーを確保しなければ撃てないという弱点を抱えた神子音の球体も、何れその制約から解き放たれた真の姿へと成長を遂げないとも限らないのだ。

 否、有資格者である神子音が生き続ける限り、リーチは何時か必ずその成長を完了させるであろう。そしてヴァーミンの有資格者が背負う宿命に従い、今とは比べ物にならないほどの力を得た神子音は必ず繁達の前に立ちはだかるに違いない。


「(となりゃここで一度殺しておくのが吉……と、考えるのが手っ取り早い。あの性格と和解なんて出来るはずねぇし、ましてや結託なんて夢のまた夢―それこそ例外中の例外の可能性だろう。だがどうする?奴の攻撃をどうにか止めねぇ限り、勝ち目はねぇぞ……)」


 繁は考えた。香織も考えた。お互い意見を出し合って話し合いもした。そして様々な仮説を飛び交わす中、二人は遂にある結論を出すに至る。そして一介の仮説に過ぎないその結論が正しいという前提の元、二人は最適な作戦をも練り上げた。


「そうと決まりゃあ……」

「早速、作戦開始だね」


 繁は再び破殻化して外へと繰り出し、香織は安全確認も兼ねて離れ離れになっているニコラ、桃李、リューラの携帯電話にもメールを送信する。

次回、ヒルVSサシガメの地味な吸血害虫対決遂に決着か!?

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