第六十四話 しんうち!
遂にあのコンビが姿を現した!
―前回より―
壮絶な戦いは尚も続いていた。
「えォりあァッ!」
繁の振るう槍の矛先が、中等部歩兵科女生徒の頸動脈を斬り付ける。続いてそこへ斬り掛かってきた兎系禽獣種の女も、香織の魔術によって操られた校舎の一部に叩き飛ばされてしまう。
ヴァーミン保有者・辻原繁と、古式特級魔術の使い手・清水香織。元より姉弟兄妹同然の関係にあったこの二人の連携は秋本の愛人達を悉く圧倒しており、現時点で既に9人を殺害。更に現在も、周囲を取り囲む愛人達を次々と始末していく。その姿は最早人を逸した存在―言ってみれば獣、或いは悪霊か魔物を思わせるものであった。別に繁が破殻化をしていただとか、香織が幻術で愛人を相手に自分達の姿をそう見せていたとかそういう事ではない。
淡々と、しかし猛烈に多くの相手を次々と手にかけていく二人の雰囲気が周囲の目にそう映っていたのである。そして二人が丁度20人を殺害した辺りで、敵兵がぱったりと出てこなくなった。
「……どういう事?」
「連中め、まさか俺らに怖じ気付いて逃げ出したなんて事あ無えだろうし……となると、アレか?」
「アレって?」
「ゲームとかだとよくあるだろ? 長時間の雑魚戦が急に終わって、間を置いてからいきなりボスクラスのデカブツが出てきてガーって」
「あー、そのパターンは出来れば回避したいよね全力で」
「無論同感だ。が……」
繁は不安げに辺りを見回す。
「どうしたの?」
「なぁ香織よ、改めて思うに……この部屋あ妙じゃねえか?」
「え? どこが? 普通の綺麗なアリーナじゃん」
「そう、そこだ。お前、今の今までここいらの死体や血痕を掃除したか?」
「……ッ! そういえば……」
香織ははっとした。彼女が習得している魔術の中には、例えば壁の血痕を綺麗に吸い取るものや、或いは地中・異空間等に死体を運び込むもの等が存在している。しかし香織はツジラジの生放送について、これらを使用する事はなかった。既に場所が割れているし、現場の状況を克明に流す事が目的である。即ち、隠す必要性が無いのである。
「……私達、ひたすら殺しまくってた筈なのに…何で……何で、何で死体が消えてるのっ!?」
香織は辺りを見回して驚愕した。
先程まで一心不乱に愛人達を殺していた筈なのに、死体が見当たらない。血痕さえも、抜け毛の一本や薄皮の切れ端さえも、綺麗さっぱり消えているのである。
香織が呆気に取られていると、咄嗟に繁が叫ぶ。
「伏せろ、香織!」
その瞬間彼女の眼前に巨大な深紅の球体が飛んでくる。必死に避けなければと思い立つ香織だが、突然の事態に驚いた身体は思うように動いてくれない。
「クソッ、怨むなよ!」
その言葉と共に、繁の飛び蹴りが香織を横方向へ大きく突き飛ばす。
球体は香織の背後にあった壁に当たると同時に、壁材の塗料とコンクリートを大きく削り取った。
「!?」
「(クソ……さっきから舌が塩辛い油モン食い過ぎた後みてぇにヒリヒリすると思やぁ……案の定紋章が出てんじゃねえか)」
未だヴァーミンの有資格者としては新参である繁は、紋章の発生する位置が一定でない。道中拾った鏡で、現在紋章が自分の舌に現れていると知った繁は確信した。
――俺含め四人目か……悪くねえ!
「香織……」
「何?」
「この状況下で何だが、嬉しいお知らせだ」
「へぇ、どんなの?」
楽しげに何かを覚ったような香織の問に、繁は同じく楽しげな調子で答える。
「……居るんだよ。……ヴァーミンの保有者がな」
「やっぱり、さっきの奴?」
「どうだかな。もしかしたらさっきのをやった奴のサポートかも知れねぇ」
「そう。……実を言うとね、私も感じてるんだよ……」
「ほう、何をだ?」
「何をって、決まってるじゃん」
これまで以上に恐ろしい脅威たりえるかもしれない存在が眼前に潜んでいる事を覚りながら、香織は尚も楽しげな表情で言う。
「古式特級魔術の使い手だよ。それも前にラビーレマに居た、クェインっていうクブス残党の流体種とは真逆の――つまり私とも真逆の――純粋な攻撃系魔術以外はからっきしの奴がね」
「つまりアレか? お前が潜入中に意気投合したっていう、例のノゼツとかいう」
「いや、あの子じゃない。あの子はあくまで『攻撃系以外が馴染まない家系』の産まれなだけであって、初歩的な奴なら攻撃系以外も扱えたし。私が言ってるのはそういうのじゃなくて、本当にただ攻撃系魔術だけに特化した完全火力型の変わり種だよ」
「成る程、そいつは確かにお前とは真逆だな。まるでジョー○ターとブ○ンドーよろしく、根本から対を成す性質って訳だ」
「ははっ、どっちがどっちよ?」
「そうだな……この流れから言うと、お前がブラ○ドーって所じゃねえか?戦術が変則的だしよ」
「そうかなぁ?私は○ランドーっていうより、ア○ッシーとかメロ○ネとかミュー○ーとかのが似合うと思うんだけど」
「相変わらずモブ扱いのトリッキーな悪役好きだよなお前」
「そりゃ、ああいう奴らこそ輝くべきだと思ってるからね私は。
特にミュ○ラーが好き。あとケ○ゾーとウ○ガロにはもうちょっと頑張って欲しかったかなぁ」
「へへっ、もうラノベのメインヒロインが言う台詞じゃねーって」
「良いじゃん別に。元々メインヒロインとしての自覚なんて在ってないようなもんだし。さて……それはそうと、こっちが隙だらけで待ち伏せしてるんだし、敵さん方もいい加減顔くらい見せたらどうよ?」
「そうだよなぁ。こんな近くで明確に気配が察知できるんだ、隠れた所で無駄ってモンだろうによぉ」
二人の言葉に促されるようにして、アリーナの東端と西端からそれぞれ人影が姿を現した。
東端から現れたのは、生徒と思しき服装の小柄な少女であった。
西端から現れたのは、保険医と思しき服装で長身の女であった。
「よもやここまで簡単に見抜かれるとは、些か予想外だったわ」
白衣を着た食肉目系禽獣種と思しき女が言った。
「あの程度であそこまで察知するなんて、お兄さん達流石だね」
小柄で人に近い妖精のような有角種の少女が言った。
「実にエロそうなケモ保険医に、妖精みたいなロリ学生ってか……」
「学園もんのエロゲやエロ漫画じゃ定番の攻略対象じゃねぇか……」
かくして39名だった秋本軍は、20人が死亡し残すところ19人となった。
次回、突如現れた二人組の実態とは!?
そして小柄な少女に隠された、衝撃の事実が明らかに!




