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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
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第六十三話 ねこメカ!




秋本軍相手に優勢かと思われたツジラジメンバーにも、苦戦を強いられている者が居り……

―前回より―


 リューラや桃李が秋本軍を圧倒する中で、珍しく苦戦を強いられている―というより、手も足も出せずに居る者が居た。不死身で名高き元開業医・ニコラである。

 理系魂をくすぐられ、軍用理学コースの理科実験室へと忍び込んだ彼女を待ち受けていたのは秋本の愛人が一人であるカマキリ系外殻種化学教師・真栄田(外観はラズリやニコラなどと同様極めて人間的である)。事故により両足を失った彼女は普段から歩行補助用のパワードスーツを着用していたが、今回ニコラの眼前に現れたそれは完全に軍用の品だった。

「どうした!? 随分と慌ててるみたいだな、嬢さんや!」

 全高4mはあろうかという軍用パワードスーツの中央に乗り込んだ真栄田は、手早い操縦で拳を振り回し、逃げ惑うニコラ目掛けて机や実験器具を投げつける。

「そりゃあ慌てもしまさぁねっ! あたしゃあんたに指一本触れられないんですからねえっ!」

 対するニコラはそれらの猛攻を狐由来の身体の運動能力で素早く避け続けるが、いざタセックモスの蛾型弾丸を放とうにも、狙いを定めたり発生源を設置するより前に鉄の拳や張り手で叩き飛ばされてしまうため攻撃のチャンスが一切無いに等しかった。

「(くっ、こいつはやばいね。私の不死性は『修復』の方は完璧なんだけど、痛覚や疲労は極めてストレートに来ちゃうのよねん。これじゃ狙いも乱射もあったもんじゃないわ。ただ、あの猿女が乗ってるデカブツを止めることが出来たら……)」

 桃李程ではないにせよ、霊長種から見れば機敏な動作でどうにか真栄田を翻弄しようとするニコラ。しかし彼女の思惑に反するように、真栄田はパワードスーツによる打撃を的確に打ち込んでくる。

「(こいつ……多分昔はゲーマーだったんじゃないかしら? それもアクションとかSTGとかFPSとか専門の、あの動作から見ると大方ゲーセン仕込みって所かしらね)」

 ニコラの読みは当たっていた。真栄田は学生時代、天賦の才を持つゲーマーとして地元のゲームセンターで有名になった事があるのだ。

「(はぁ……『ゲームなんぞ出来て将来何になる』とかいうのは不寛容で頭の固い団塊世代のアホが言う世迷い言の代名詞だけど、まんまコントローラを移植したような操縦システムの機械が出来てからはその発言も益々アラだらけになってんのよねぇ。最初は雇用が増えるとか不況も吹っ飛ぶとか思ってたけど、まさかこんな形で苦しめられるとは……)」

 そうこうしている内にニコラも疲労が限界に達し、足首をパワードスーツによって掴まれてしまう。

「(やば!)」

「うルァ!」

 ニコラがそう思ったとしても時既に遅い。真栄田はニコラを壁目掛けて勢い良く投げつける。鈍い音を伴ってコンクリートと骨が砕ける。

「スァラバッ!」

 それでも飽き足らない真栄田は、近付いてニコラに追い打ちをかけ続ける。ニコラの骨が砕け、筋が切れ、内蔵が破壊されていく。しかしそれでもノモシア王族に受け継がれる高純度の魔力からなる呪いは強力で、死なないばかりか徐々にではあるが再生を続けていた。

「さァ! 死ねェ! 我らがッ! 教頭のッ! 栄光のッ! 為にィィィィ!」

 無抵抗のニコラを目一杯乱雑に殴り続ける真栄田。その顔つきは教育者としてのモラルや倫理観、覚悟をもった化学教師たるものではなく、ゲームの中での最強である自分自身に酔いしれる稚拙なゲーマーのそれであった。

「何故!? 何故!? 何故だあああああああっ! 何故死なない!? 何故殺せない!?」

 幾ら殴っても死なないニコラに苛立ちを感じながら、尚も殴ることを止めない真栄田の背後で、唐突に瓦礫が突破されるような音がした。

「さっさと死―どぅおおおおおぉ!?」

 突然の出来事に取り乱した真栄田は振り向きざまに叫ぶ。

「なっななななっなな何者だああ!?何も、なに、何者だぁ!?」

 何処からどう見ても慌てている真栄田の問いかけに答えるものは居らず、真栄田の脳内では焦りばかりが加速していく。そんな中、散らかった理科実験室の床を堂々と歩いてくる二人の人影が彼女の目に入る。

 体格が大きく異なる二人組は、どちらもクリーム色のローブで全身を覆い隠している。

「な、何者だ貴様等!? ここは部外者立ち入り禁止だぞ!?」

 真栄田の叫びは高圧的でこそあったが、明確な焦りや怯えというものが如実に表れていた。そんな彼女に対し、ローブの二人組の内小柄な方が言う。

「いやぁ、これは失礼。正門も窓もロックされていたので屋根の上から突入する他ありませんでな。お許し下され、悪気が会ったわけではないのです」

「御託は良いから名乗れッ!」

「失礼、私どもはしがない旅行者でして、とある筋より本日こちらでツジラジ公開録音の催し物があると聞いて馳せ参じた次第。私も、私の臣下であるこの男もあの番組の大ファンでしてね。特に青色嬢の声が綺麗で可愛らしいとは、職場でも評判なのですよ」

「そんな事はどうでもいい! そのローブを脱ぎ捨てて名を名乗れッ!」

「はあ、畏まりました。おい」

「ああ」

 二人は一斉にローブを脱ぎ捨てつつ、淡々と名乗り挙げた。

「お初にお目に掛かります。ラビーレマは列甲大学にて機械工学を研究しております、研究員の九条チエと申します」

「同じく初めまして。九条の部下兼助手のティタヌスと申します」

 そう、唐突に現れたローブの二人組とは嘗て料亭「傘猫」で繁に協力し秋本軍に挑む事となった二人組―桃色の毛を持った小柄な猫系禽獣種の女・九条チエと、大柄で身体の所々が機械的な角竜系地竜種・ティタヌスであった。

「さて……そうだティタヌスよ、挨拶の印として此方のご婦人にアレをお送りしてはどうだ?」

「何? アレをか? いやぁ、アレはやめておいた方がいいと思うぞ?」

 九条の提案に、ティタヌスは笑い混じりに苦言を呈する。

「何を言っている。彼女を見ろ、両足を失いながらも尚こうして努力を惜しまずパワードスーツを乗り回して弱い者イジメに精を出されているじゃないか」

「弱い者イジメとは何事かっ! これは教員としての職務の一環であるぞ!」

 九条の発言に戦うことも忘れて突っ込む真栄田だったが、党の相手方からは華麗に無視されてしまう。

「確かにそうだなぁ。そう言われてみれば、確かに九条の言うとおりだ」

「何が言う通りかっ! 助手ならば上司の間違い程度訂正せんかっ!」

「そういう訳で御座いますからして、名も知らぬ外殻種のご婦人殿。私どもよりの最大の敬意と挨拶の証で御座いますこれを、どうぞ受け取って下さいませ」

 そう言ってティタヌスが右腕を真栄田に向けると、機械的な意匠の目立つ太い腕が瞬時に変形。終いにはロケットブースター付き弾頭を使用した対戦車仕様の無反動砲を思わせる流線型の弾丸と射出部が露わになった。

「な、何だそれはっ!?」

「愚問ですなご婦人殿。何と言ったら決まっているじゃありませんか」

「我々から貴女様への、敬意と挨拶の証で御座いますよ」

「馬鹿め! そんな形で敬意と挨拶を表明する奴があるかっ! ええい、貴様等など今にこの私が叩き潰して――ッ!? な、何故だ!?間接部が動かん! くそ、こうなれば脱出を――何!? 脱出用ハッチまでビクともしないだと!?」

 気付けばパワードスーツの手足関節部と脱出用ハッチはいつの間にか謎の接着剤らしき物体で固められており、手足を動かすことも脱出することもままならない。

「動かない、という事は……この男の贈り物を正面から受け取って下さるのですね?」

「馬鹿! そんな訳があるかっ! 良いから早くそれを下ろせっ!」

「まぁまぁ、そうご謙遜なさらず。口で何と言われようと、お体の方は正直ですぞ?」

「その風体でアダルト漫画のような言い回しを使うんじゃないこのシロサイの出来損ないが!」

「シロサイの出来損ないとは心外ですな、私はこれでもカスモサウルスですぞ?」

「お前の種族なんぞ聞いとらん! そもそも脊椎動物なんてどれも同じようなものだろうが! 良いから早くそれを下ろせっ! 私を敬っているのなら、早くそのでかぶつを―――」

 言い終わるより早くに、パワードスーツの操縦席が粉々に吹き飛んだ。この間でかなりの再生と疲労回復に成功していたニコラはこれを見て見事な爆発だと感心した。この後九条・ティタヌスと出会ったニコラはお互いの事を話し合い、お互いの事を知るや否や意気投合。新たなる秋本軍の手下を捜しに校内へと繰り出していく。

 かくして40名だった秋本軍は一名減り、残すところ39名となった。

次回、遂にあのコンビの活躍が!

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