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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン1-ノモシア編-
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第六話 サポート要員にお勧めな従姉妹




繁が定めたカタル・ティゾルでの活動は、主人公にあるまじきものだった。

しかしその内には彼なりの真意があり……

―前回より―


「で、どうだった?私の貸した資料、役に立った?」

「愚問だな。大助かりだ」

「そう、それは良かった」

 昨晩、繁は香織に私物の資料――学生用の教科書や図鑑から各大陸の観光ガイド、更にはローカル情報誌など。何れも今は亡き薬屋の老婆とその弟子である香織が収集したもの――を貸りていた。カタル・ティゾルについてのより詳しい情報と、今後の活動に於ける目標を探す為である。

「準備物の目星もつけてある」

 繁は香織にリストを差し出す。表記されている文字はカタル・ティゾルで最もスタンダードな言語のものであった。

「凄いね、もう読み書き覚えたんだ」

「紋章に触った時、全部流れ込んできた。読もう書こうと思うと勝手に頭の底の方から湧き出て来やがる」

「流石はヴァーミンの有資格者。私だって全部の言語覚えるのに半年かかったのに」

「俺もよくわからん。何にせよ言葉が余裕で通じるのは助かる」

「召還魔法の影響だね。喋る分にはどこでも問題ないよ」

「素晴らしい。ややこしいモンは全部ご都合主義でどうにかなる。まさに異世界ファンタジーって奴だ。で、どうだ?この世界で三年も暮らしてきたお前から見て、そのリストに何か問題点はあるか?」

「別に無いと思うけど、繁はどこか不安なの?」

 予想を外れた香織の答えに、繁は淡々と返す。

「予算面が予想以上に高くついちまったってのと、リストの最後に入れた『兆眼紫円陣(ちょうがんしえんじん)』……」

「あぁ、これね」

「今回、ソレがどうしても要るんだ……が、だ。そいつは去年の法案改正の所為で今じゃ生産停止の上、製造法も現存品諸共お上の押収喰らってると来た。だからどうしたもんかなぁと、思ってた所でな」

 兆眼紫円陣とは、指定した無生物を至る所へ、そこに在るべき姿で転送する布状の魔術道具である。転送先に距離は関係なく、異なる世界にすら送り届けることが出来るという奇跡のような代物だった。繁は資料でこれの情報を目にした時即リストに追加したものの、後になって入手はほぼ不可能と知って落胆していた。

 しかし、そんな繁に対する香織の返答は、またも彼の予想を上回るものだった。


「それなら心配ないよ」

「どういう事だ?」

「だってこれ、うちにあるもん」

「……何?」

「いやだからさぁ、これうちにあるんだって。押収されたのは二十年前の魔術具売買に関する法案改正で導入された『購入証』付きの奴と、一部の公的機関・高所得者が持ってたのだけだから」

 カタル・ティゾルにて一般向けに流通する機材・道具類には、性能に応じて格付けがなされる。この格付けで上位に分類された魔術具は、売買にあたりややこしい法的制限が課せられ、更に購入者はそれを証明するための『購入証』なる書類を所持しなければならならず、ある一定の状況下(購入証を提示出来ない状態で魔術道具を使う、違法行為に使用する、所持権利を失ってなお手放そうとしない等)に於いては、政府によって該当の品を押収されてしまう。

 法改正の結果、兆眼紫円陣はその数量こそ少ないものの性能が高すぎると判断され、殆どの所有者が政府によって該当の魔術道具を押収されてしまっていた。但し購入証導入以前から所持していた物についてはこの限りではなく、香織の恩師であった老婆の所持していたものは押収対象の定義に当て嵌まらなかった。


「そういえばそうだったな……何分、法律関係はまだ覚えきれて無くてなぁ……」

「仕方ないよ。基本法規に加えて各大陸が独自に法律定めちゃってるからね。まぁ、気楽に覚えていけばいいと思うよ?元々指名手配中の身の上だし、そんなに必死こいて覚え込まなくても」

「それはそうかも知れんがよ、だからって法律完全無視とはいかんだろ。

業に入っては業に従えってな便利な言葉があるわけだしな」

「うん、字が違う。誤字にしては明らかにどうかしてる。でも私は突っ込まない。っていうか、兆眼紫円陣の他にもうちで確保できる物は多いけど……一体これで何を企んでるの?」

「何ってお前、アレだよアレ」


 繁はごく自然に、ぽつりと言った。


「金儲け」

「……金?」

「そう。お前は三年前にこっちへ来てたから知らないだろうから教えてやる。実はあっちの世界の日本じゃ、馬鹿でかい地震の所為で一部都道府県が壊滅的な被害を被っててよ。マグニチュードは8.5かそこらだったかな。観測史上最大、規格外の大地震だったそうだ」

 その言葉を聞いて、香織は口を噤む。まさか自分が姿を消してから、そんな事が起こっていよう等とは予想もしていなかったのだ。

「幸いにも国全体の機能が麻痺する程じゃねぇし、うちの県も無事ではあったんだがな。二年前に政権交代があった所為で内閣の使えなさ感がヤバくてよ」

「じゃあ、被災した人達は…」

「各方面からの支援で暮らしはナンボか楽になってるが、問題は山積みだな。特に、どっかの馬鹿が修理代ケチった所為で原子力発電所がぶっ壊れやがったもんで事態は更におっかなくなってやがる」

「つまり、カタル・ティゾルで稼いだお金を兆眼紫円陣で向こうの世界へ送り込むんだね?」

「その通りだ。このテの境遇に晒された奴は大体辿り着いた世界を救いたがるが、俺は違う。あくまで俺が産まれた世界への愛を示し、俺が育った世界への敬意を示す。それが、俺を産み出し育ててくれた世界への、最大の恩返しであり善行だ。その為には汚ぇ事もしなきゃならんだろうし、最悪死も覚悟してるが……どうする?そこまでするクズ従兄弟に、お前は肩入れする覚悟があるか?運が悪けりゃ、お前も巻き添えだぞ?」

 言い方こそきついが、その言葉には大切な従姉妹への思いやりが含まれていた。そしてその事をちゃんと理解している香織は、自信を持って答える。

「当然。ここで捨てるくらいなら、兵士に追われてるって時点で家に入れてないよ。こんな所で三年も暮らしてると、妙なところで勘も鋭くなっちゃうからね」

「そういうもんか」

「そういうもんだよ。大体、繁の考えたことは面白さという一面ではほぼ外れが無いもん。元の世界にも帰れずにこんな異世界で骨埋めるくらいなら、精々足掻いてみたいと思ってたんだ。情報収集とかなら任せてよ。魔術は実戦で使い物になるようなレベルじゃないと思うからそんな派手に戦ったりは多分出来ないけど、小細工なら自信あるから」

「頼りにしてるぞ」

 かくしてここに、カタル・ティゾルを混沌に陥れる異世界人のコンビが誕生した。

次回、情報収集開始に伴い新キャラ登場!

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