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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
56/450

第五十六話 これは軍人ですか? 12.いやぁ、それがちょっと微妙な所でして




遅くなったけど続きです。

―前回より―


「と、言うことがあってだな」

「あってっていうか引き起こしたのアンタよね!? ねぇ、アンタなんでしょ!?」

「まぁ、俺だ。それは認めざるを得ん事実と言うか」

『認めざるを得ん事実って何ですか!? 潜入初日に騒動起こした挙げ句殺しまでする必要性が何処にありますかっ!?』

「ここにあった気がする」

「何だその言い訳はァ!? 清水の姉ちゃんはしっかりと情報掴んで来たっつーのにオメェはよー!」

 デザルテリアにあるホテルの一室に怒声が鳴り響く。それらは現在の所、ただ一人の男に向けられていた。その名は辻原繁。異世界カタル・ティゾルの破戒神を目指し奮闘するラジオDJである。そして彼を怒鳴っているのは、不老不死の元開業医ニコラ・フォックス、生物と霊の中間的存在の小樽羽辰、謎の寄生生物バシロの三名。

 怒りの理由については最早詳しく言及するまでもあるまいが、転入生(今井椿姫及び中村輝美)を装い士官学校へ潜入した繁と香織の動向にあった。というのも、あくまで転入生として過ごしながら教頭について調べ続けた香織に対して、繁の行動は前回あったように散々だったからである。あのあとその場から逃げ出した繁は香織に転入生・中村輝美に関する全情報を消させ、以降適当に校内を徘徊した(本人談)。

 これを聞いて怒らない者も多くはあるまい。暫くして、怒鳴り散らす三人をどうにか残る三人が宥めるに至る。そして場が落ち着いた辺りで休憩を挟み、香織が報告する流れとなった。

「そりゃみんなは、繁の事を許せないと思う。だけどそれは、単に繁の言い方に問題があっただけなんだよね」

「どういう事?」

「繁はさ、自覚は無いみたいなんだけど話し方に癖があってね」

『癖、ですか』

「そう、癖。自分のことについて話す時、無駄にネガティブな方向へねじ曲げんの」

「マジ?」

「マジ。だから繁が自分のやった事について話してるのを聞くときは『口ではこう言ってるけど実際はそれほど悪くないんじゃないか?』って思いながら聞くといいよ」

「成る程、覚えとくわ。で、つまりどういう事?」

「一緒に潜入してた私だから言うけども、私が情報収集出来たのは繁が騒ぎを引き起こしてくれたからっていうのもあるんだよね」

 以降、香織が話したことを箇条書きにすると、

・転入生を装い士官学校に潜入するまではどうにかなった。偽造書類の内容は全て嘘八百だったが特に弾かれるでもなくすんなりと通った。

・クラスメイト達も怪しげな新参者をすっかり信頼しきっていた。隣人も人格者そうであり、潜入捜査は上手く行くものと思われた。

・しかし問題はすぐさま発生した。香織がいざ調査開始と思い諜報用の魔術を起動すると、不可視のエネルギーが働いて魔術が打ち消されてしまったのである。

・調べてみた所、これは犯罪防止の為に校内へ設けられたセキュリティシステムであり、専門職員によって解除されない限り生徒は校内で魔術を扱う事が出来ないという。

・だが香織は魔術を用いない諜報活動については上手くやれる自信がなかった。聞き込みでは時間が足りないし、それ以外の方法ではすぐにボロが出そうでならない。

・しかし三限目の序盤辺りで、彼女に転機が訪れる。諜報科の白兵戦実習で死人が出たというのである。

・しかも死んだのは退役軍人の孫で金持ちのエリート株だったようで、ともなれば授業どころではなくなる。

・結果的、魔術実習の授業はセキュリティシステムが解除されたまま放置される羽目に。混乱に乗じて自身と繁の学籍情報を抹消し、ついでに学校関係の情報もある程度搾り取って逃げ帰ってきた。

『成る程……つまり繁さんの大暴れも強ち叱れない、という事ですか』

「っていうか、寧ろ褒められるべき行為だったのね……」

「怒鳴ったりして悪かったな、ツジハラ……おめーすげぇじゃん……」


―事態の収拾がついた数日後・士官学校教頭室へ向かう廊下―


「ちょっと、何なんですか一体!? 僕が一体何をしたってんです!?」

「黙れ。我々が許可しない限りお前に発言権はない」

 教頭室へ向かう廊下を歩く、二人の人影。一人は長身に灰色のスーツという教師らしき出で立ちの食肉目らしき禽獣種の女。

 もう一人は、女に引きずられ無理矢理歩かされている、中等部指令科の制服を着た羽毛種の少年。

 女は教頭室の前で立ち止まると、軽くノックをして反応を待つ。

「どなたです?」

志摩シマです。違反者の男子生徒を連行しました」

 教頭室内からの温厚そうな男の声に、志摩と呼ばれた禽獣種は答える。

「解りました。お入りなさい」

「はい。おい、さっさと来い!」

「わっ、とっ、うぁっ」

 羽毛種の少年は志摩によって投げ出され、広々とした大理石の床に倒れ込む。暫くしていると少年の眼前に流線型の巨体が現れた。背は灰色で腹は白く、尖った鼻先と三角形型の歯が生え揃った口。何処か生気の失われたような虚ろで冷酷な目と、両の首筋には五つのヒダらしきもの。

 デザルテリア国立士官学校現教頭(厳密には教頭代理)の鼠鮫系鰓種鱗種、秋本・九淫隷導クインレイドウ・康志である。

「ほうほう、君ですか……」

「きょ、教頭先生!? これは一体どういう事なんです!?」

「何をした…ですか。おかしな事を聞きますねェ、校則違反を犯したからに決まっているじゃありませんか」

「……校則違反? そんな…一日に三回生徒必携を読む事が日課の僕がそんなっ……」

「生徒必携…ですか。考えが甘いですねぇ君は。毎週の朝礼や配布プリントで事細かに、私の新設した校則について詳細に解説しているというのにそれに気付かないとは……」

「……申し訳御座いません、教頭先生。しかし質問をしても宜しいでしょうか?」

「何です?」

「僕は……僕は一体どんな校則違反を犯したんです? どんな罰則でも受けますが、それだけは教えて頂かないと納得できません!」

「ほう、流石は優等生揃いの指令科ですねェ。歩兵科や狙撃科のバカ共とは頭の出来が違い、かと言って諜報科や軍用理学コースのクズどものような屁理屈での言い逃れもしようとしない……。まことにまことに素晴らしい。君のような生徒はまさしく我が士官学校の鏡です。では、お教えしましょうかね。君の違反事項を」

羽毛種の少年は不安で不安で仕方なかった。そして告げられたのは、衝撃的な内容であった。


「君の違反事項……それは、同時に複数の女子生徒から明確な恋愛感情を抱かれ、好意を寄せられたことです」


 少年は落胆し、絶望した。そんな事が校則違反になるのか? 他人からの感情なんて気付きようがないではないか。ましてやそれがどんな感情かなど、此方にとって知ったことでもあるまい。

「そ、そんなッ! そんな事ですかッ!? 自分に対する他人の思いなんて、気取りようがないじゃありませんか!」

「黙りなさい。兎も角、校則違反である事に変わりはありません。生意気なのですよ……酒も飲めない青二才の分際で、複数の女性から好かれようなんてね。さて、誓い通り君には罰を受けて貰いましょうか……」

「そんな、あんまりです!」

「だから黙れと言ってるでしょうが、取るに足らない鶏ガラ如きが生意気なんですよ。私が教頭である以上、私が士官学校に於ける絶対的な校則であり、倫理なのです」

 そう言って秋本は少年の腹を蹴り上げ黙らせると、周囲に控えていた女達に合図を出す。合図を受けた女の一人が秋本教頭から何かの鍵を受け取り、奥にある金属製の扉の鍵を解除する。扉には『要注意開閉 必要時を除き周囲3m以内に近寄るべからず』との張り紙がある。更に女二人が少年を持ち上げ、扉の前まで運んでいく。

 鍵を解除した女が扉を開けると、途端に内部からおぞましいうめき声や金切り声のようなものが響き渡る。


「ウうェェェェェエエえええええエエアあアァぁぁァぁァ! ッア゛ァヴォオロろろろロロゴゴごッ、ゴゴぁぁあェィッッ! ッえぇェぅぁアおぅッ!」


 その余りにもおぞましい声に思わず目を覚ました少年は、恐怖の余り訳も判らず泣き叫ぶ。


「いいでしょう。投げ入れなさい」


 秋本教頭の指示と共に、二人の女は羽毛種の少年を扉の中目掛けて投げ込んだ。すると次の瞬間、扉の中から砂鉄入りスライムを思わせる流体や触手、節足などが伸ばされ、少年の身体を絡め取る。泣き叫びながら必死で壁の縁にしがみつく少年。しかし、現実とは実に非情であった。


「さっさと行けこの劣等生が!」


 先程の教員らしき禽獣種の女・志摩が少年の両手を全力で蹴り付ける。当然少年は痛みから手を離さざるを得ず、扉の向こうへと飲み込まれてしまった。すかさず扉を開けた女がそれを閉め手早く施錠。かくして扉の向こうに住まう謎の存在は、再び暗闇の中へと封印された。


「ざまあみろ、生意気な態度を自覚せず改めないからそうなるんだ。精々その中で泣いて歯軋りするが良い。その身を貪られ、命が尽き果てるまでなぁ……」


 少年の最後を見届けた秋本教頭は、嘲笑うように呟いた。

遂に明らかになった秋本教頭の凶悪な実態!

この嘗て無いほど強大な敵に対し、繁達はどう立ち向かうのか!?

そして金属製の扉の向こうへ封印された黒い何かの正体とは!?

次回、物語はきっと急展開を見せるに違いない(多分予定上は)!

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