第五十五話 これは軍人ですか?11.おう、やっぱ俺こういうの柄じゃねーわ
遂に試合開始!
―前回より―
試合開始に伴いアリーナへ集った四人。F組代表の財田と輝実に、D組代表の男女二人。
「御機嫌よう、財田さん。それとそちらの方は……」
「転入生の中村です。以後宜しく」
「初めまして。私はデザルテリア国立士官学校高等部諜報科のエリートこと、トルバ・リナラブ。伝説的狙撃手として名高きウィゼル・リナラブの孫娘ですわ」
金属光沢を放つ青い訓練服に身を包んだトルバの自己紹介には、根底から相手を見下すような傲慢さが見て取れた。
「初めまして、中村クン。僕はラモル・マカラ。祖母は軍事魔術の天才と名高きイルミネル・マカラ博士だ」
トルバとは対照的に深紅の訓練服に身を包んだラモルの目つきには、言い様のない怪しさが漂っている。
「それにしても、貴方が噂に聞いた転入生ですのね。ラビーレマの東ゾイロスから来たと聞いたのでどんな方かと思えば……ッハ、外殻種だなんて! てんでお笑いですわ!」
「おいおいトルバ、幾ら揺るぎようのない真実だからって相手へ直に言うのは失礼というものだよ。ラビーレマは只でさえ低俗な、無節操と卑怯者の多い汚らわしい学術者共の地。統領キラマを始めとする忌まわしき悪魔ハタム一家の力を受け継ぐ情報弱者共だからと行って、露骨な中傷は可哀想というものだよ」
「そうですわね。反面私たちの大陸イスキュロンは、誇り高きミガサ・コルト様の力を受け継ぐ絶対強者の地! そして私達は、そのイスキュロンの中でも特に選ばれた選民の血を引き継ぐエリートの中のエリート! 虱まみれの落ち零れ羽毛種や、地を這う事しか出来ない外殻種如き、私たちの敵ではありませんのよ!」
「その通りさトルバ! 軍人の家系にある僕達は無敵だ! そうとも、僕等は――「凄いですねえ、財田さんッ!」――は?」
二人の話を聞いていた輝実は、突如大声で財田に話を振った。
「な、何が?」
「何って、決まってるじゃありませんか! 彼らですよッ! 無節操で汚らわしく卑怯な情報弱者の虫螻である私には到底知り得ない世界の話ですがッ! 彼らの祖父母は相当な力の持ち主だそうでッ!」
「えぇ、そうらしいわね」
財田は覚った。おそらくこの男は、二人をおちょくる為にこんな事を言っているのだと。
「つまり彼らも相当な実力者という事ッ! しかも凄いのは彼らの祖父母の専門ッ! リナラブ様は狙撃手、マカラ様は魔術師だと言うじゃありませんかッ!」
「結構有名よ? あんたは転入生で他大陸出身だから知らないのも無理はないけど」
「そうでしょうそうでしょうッ! 彼らはそれらの天才でしょうッ! しかしながらそれだというのに彼らの所属は諜報科ッ! 祖父母の形質を濃く引き継ぐ選民のエリートであるならばッ! 狙撃手の孫は狙撃科にッ! 魔術師の孫は軍用魔術コースに向かうのが普通と見えるッ! しかし彼らは態々諜報科に入学したッ!」
「そ……そうよね! つまり彼らは、本来目立つべきであろう自らの運命を諦め、進んで――「お黙りなさいッ!」
「黙れェッ!」
「おや」
「さっきから黙って聞いていれば何ですの!?」
「お前達、僕等をバカにしてるだろう!?」
怒り心頭で怒鳴り散らす二人に、輝実は言う。
「何です? もしや今さらお気づきになられたんです? おめー等のバカ丸出しの長ったらしい前口上は、バカにして下さいって言ってるようなもんだろうによォ。あぁ、悪い悪い。もうちょっと簡単に説明すべきだったか? 悪いな、バカ相手にすんのも辛くっ――「黙れこの虫野郎がァァァァァァァ!」
度重なる輝実による長髪で怒り狂ったラモルが、遂に彼目掛けて掴みかかってきた。しかし輝実はそれを無駄に華麗な動作で回避。結果、壁にぶつかって仰向けに倒れてしまう。ノびている彼の耳へ、輝実の更なる罵倒が飛び込んでくる。
「おいおいどうしたぁ!? エリートってな、そんなモンかぁ!?」
「だ、ま、れ、と、言ってるだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!」
更なる怒りを胸に、ラモルは再び突進を繰り出す。挑発の為に近付いた輝実も流石にこれを避けるには至らなかったが、この程度の相手に掴まれるような彼でもない。
「んじゃ財田さん、あとは任せました」
「ひょ?」
財田が自分の立場に気付いた時にはもう遅かった。近くに居たが為、輝実によってラモルの攻撃を防御する盾にされた彼女は、理性を失い暴走したラモルに掴まれ、そのまま怒濤の間接技連携『狂戦士の魂』を凄まじい勢いで喰らい続けた。
一ヵ所、
「ガッ!」
二ヶ所、
「イ゛っ!」
三ヶ所、
「ェあッ!」
四ヶ所、五ヶ所、
「ゥお、あぐッ!」
六ヶ所
「ん゛ッ!」
更に骨――
「げあェッッ!」
関節技『狂戦士の魂』を受けた財田は試合開始五分もせずに敗北判定を受けた。しかも受けたのが訓練用の武器攻撃ではなく本気の関節攻撃だったので訓練服越しに凄まじいダメージを受けてしまっている。そして敗北判定が下っても尚攻撃をやめないラモルは、既にガールフレンドであるトルバの言葉さえ耳に入っていないようだった。そんな戸惑うトルバの隙を突き、輝実は槍で彼女の手元を殴り銃を叩き上げる。
「わ、私のライフルがっ!?」
そして背に備わった翅で飛び上がると、宙を舞う銃を取り、未だ技をかけ続けるラモルの背目掛けて銃口が前を向くように投げつける。そしてそれを追うようにして天上を蹴り、飛び蹴りの姿勢を取る。
そして、僅か二秒後。
輝実の飛び蹴りによって推進力が増し加わったライフルの銃口がラモルの背へと突き刺さり、その身体が逆方向へ角を成して折れ曲がった。
※このあと輝実は突如姿を消し、それと同時に彼は士官学校どころかこの世界にあえ「存在しないこと」になった。また、輝実によって脊椎を直角にへし折られたラモルは病院へ搬送されるも死亡。現場に居合わせたトルバはショックで精神に異常を来し、隔離病棟暮らしを余儀なくされる事となる。試合に参加した中で唯一生存した財田は、全身に複雑骨折を負いながらも療養を続けているという。




