第四十九話 これは軍人ですか? 5.ああ、奴らは実に面白い
リューラと怪物、遂に和解か!?
―前回より―
「それで、そのクソ野郎を兄ちゃんはどうするつもりなんだ!?」
「実を言うと、既に対応のために動き出している組織がありましてね。何でも士官学校に潜入し、内部から教頭と愛人共を叩きのめすのだとか」
「ほう、そいつぁマジか!? すげえぜ! やったなぁ!」
繁と怪物の会話に花が咲く中、リューラは密かに考え込んでいた。
「(私はガキの頃から漫画やアニメが大好きだった。色々派手に戦う奴が特に。んで、そういうのには幾つかお約束ってのがあって、そういうのは基本的に現実でも同じだったんだ。お約束の中でも特に印象的だったのは『身体に寄生してくる奴は危ない。そいつが喋るとなると尚更』って奴だったなぁ。そうだ。だから私はあの時、こいつの存在を拒絶しちまったんだ。こいつに騙されそうになってるんだ、受け入れたら殺されるんだと勝手に思い込んで。こいつの話をろくに聞こうともせずに……聞いた上で拒否るんならまだしも、聞かずに拒否るなんてな……バカじゃねえのか、私は。フタ開けて見りゃあ、こいついい奴じゃんよ……そうだよなぁ)」
考えを改める内に、リューラの激痛はどんどん治まっていく。
そして痛みが完全に消えたとき、リューラは怪物に言った。
「嫌ったりして悪かったな。お前、本当に私が好きだったんだろ?」
「おお! そうだよ! やっと判ってくれたか! 俺ぁ嬉しいぜ!」
「こっちこそ、許してくれとは言わねぇからさ……やり直そうぜ?」
「許さねぇ訳ねーだろ! そもそも許すもクソもありゃしねえよ! お前と分かり合えた! それが一番価値のある事なんだ!」
「そうか…嬉しい事言ってくれやがる。そういやそうだがお前、名前は?」
「俺か?俺ァバシロってんだ」
「バシロ……『王』って意味だな。堂々としたお前にピッタリだな」
「ハハハ、止せよ。俺ァ王なんて器じゃねえ。良くて足軽だ。ま、お前が女王だってんなら考えねぇでもねぇがな」
「いやいや、それこそ柄じゃねぇさ。こうして話しててもわかるんだ。お前と私は案外似てるってな」
「そうかよ! こいつぁ一本取られたね! だが似たもの同士ってか! 益々嬉しくなっちゃうぜぇ!」
和解後、暫く談笑し合っていた二人だったが、リューラはふと繁を見て言った。
「なぁ、ツジハラ」
「何でしょう?」
「お前さっき、秋本をブチのめす為に暗躍しようとしてる組織があるって言ってたよな? その組織の奴に会わせてくれねぇか? 母校を独裁支配なんてしやがるクソ野郎は、許しておけねぇんだ」
「俺も同感だぜ。リューラは俺に生きる意味をくれた。だから俺には、リューラが守りたいモンを一緒に守る義務がある! 頼むぜ兄ちゃん、組織のヤツと話をつけてくれ!」
頼み込む二人に、繁は笑みを交えて言った。
「あぁ、その件なら大丈夫ですよ。お二人は組織の代表者に気に入られ、恐らく組織にも受け入れられるでしょう」
「マジか!?」
「そいつぁ凄ぇ! だが何故だ!?」
「何故って、貴方達は既に出会っているんですよ。組織の重鎮に」
「何!? 何だと!?」
「何時だ!? 俺達は何時、そんなスゲェ組織の重鎮なんてヤツに出会えてんだ!?」
「何時? おかしな事を聞くんですね」
目を輝かせる二人に、繁はマスクを取りつつ言った。
「組織の重鎮とは私ですよ。改めまして……私めは辻原繁。またの名を『ツジラ・バグテイル』と申します」
「ツジラ……ツジラだと!? まさか、お前があの!?」
「何だバシロ、知ってるのか!?」
「あぁ、お前は毎日俺を押さえつけるのに必死だったから聞きそびれててたんだろうが、チロっと話を聞いたことがあるんだよ。ついこの間、カタル・ティゾルで突如放送が始まった謎のラジオ番組があるってな。『ツジラジ』っつーんだが、メールや投書で寄せられた企画にパーソナリティ共が身体を張って生中継で挑んでいくっつー何とも面白い番組だそうでよ……噂に寄りゃあジュルノブル城の奴らを血祭りに上げ、列甲大関連の高校で暴れ回ってたクブスの生き残りを皆殺しにしたんだそうだ!で、その番組の司会ってのが『ツジラ・バグテイル』……つまり今俺達の目の前にいるこの兄ちゃんて訳だ!」
「な、何だってェ! アイトラスのクズ共に、クブスの変態野郎共の生き残りまで始末したってのか!? おま、バカ! そんな英雄同然の御方にタメ口なんて聞いてんじゃねえ!」
「うへぁっ、そうだった! す、すんませんツジラ様! 俺って奴ぁ不器用バカなもんでつい貴方様に無礼な口を!」
「あぁいえいえ、気にしないで下さい。それに英雄だなんて烏滸がましい、ただの自己満足ですよ!」
「何を仰有いますか! 私ぁガキの頃からアイトラスやクブスにゃ腹が立ってたんです! それを根絶やしにしてくれた貴方様を、英雄と呼ばずして何と呼びましょう!」
「あぁもう、解りました。解りましたから何でも良いですから敬語をやめて下さい。年下相手に畏まってちゃ貴方らしくないですよ」
「いえ! そいつぁ譲れません!」
「そうでさぁ! 俺達ァ腐ってもイスキュロン民です! とどのつまりは愛と義と哲学が俺達の信条! ましてや敬意を忘れてちゃあ、この大陸の基盤をお作りになられた黎明六英傑が一人、ミガサ・コルトの神託騎士たるユウゲン様の名が泣くってもんです!」
「どうしてもと仰有るのでしたらツジラ様、貴方様と対等という事にさせて下せぇ! それでなら納得致します!」
二人の気迫に気圧された繁は、渋々二人の申し出を受け入れることにした。
「……解った。じゃあ俺とお前らはこれから対等だ。これで文句ないか?」
「「勿論!」」
「それは良かった……で、問題はお前らをどうやってここから連れ出すかだが……まぁ良い、俺に任せておけ」
「有り難うよ!」
「恩に切るぜ、繁!」
かくして繁は一度施設を去り、リューラを合法的に病院から連れ出す作戦を考え始めた。
繁の考え出した作戦とは?
次回、リューラがとんでもないことに!