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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
48/450

第四十八話 これは軍人ですか?4.うん、結構曲者っぽいね



過去を語り終えたリューラに告げられる、母校の現状。

そして彼女の感情が高ぶったとき、遂に奴が現れ……

―前回より―


「……とまぁ、こんな事があってな。それ以来私はここで過ごしてる。満足してるかと聞かれても上手く答えられねぇが、そもそも今の私にゃ満足なんて贅沢だと思えば納得が行く」

「……左様で。それとですね、リューラさん」

「何だ?」

「貴女の出身校は、デザルテリア国立陸軍士官学校で間違い在りませんね?」

「あぁ、そうだな。本来は中高一貫だったが、私は特別に高校から入れて貰った。学校としては異例の事態だったそうだ」

「そう、ですか」

「私の出身校がどうかしたのか?」

「いえ……実は風の噂で耳にしたのですが、何でも士官学校の教頭先生が代わられたとか何とかで」

「代わった? 『教頭として学校の敷地に骨を埋める』が口癖の、ディロフ教頭がやめたのか?」

「えぇ。突然食道癌を発症し、療養のためやむなく休養をとられるそうで」

「そういや教頭、学校でも一二を争う飲兵衛だったなぁ……。それで、新任の教頭はどんな奴だ?」

「鼠鮫系鰓鱗種の秋本・九淫隷導・康志という男です。表向きには真面目で博識な人格者として通っています」

「……表向きには?まるで裏の顔があるとでも言いたげだな?」

「えぇ、あるのです。裏の顔が」

「マジか……どんな顔だ?」

「どんな顔だと、思われますか?」

「ヤクザと繋がってるとか」

「違いますな」

「じゃあ違法な品々を影で売り捌くブローカーだとか」

「それも違います」

「ならヤク中」

「外れです」

「ガキとヤりたくてしょうがないキチガイ変態野郎」

「僅かながら近い」

「じゃあガキの所を女に変換」

「性格に於ける本質についてならそれで正解です」

「性格…?どういう事だ?」

「つまり問題は、奴の嗜好などではなく、行動にあるという事です」

「……行動?」

「はい。見境無き好色の秋本には自分より遙かに若い四十八人の愛人が居り、全員が士官学校に潜んでいるのです」

「四十八人……とんでもねぇ人数だな」

「えぇ。ある者は生徒として、またある者は教員、用務員、売店員等職員として、ひと塊にならないようまばらに潜んでいるらしいのです。そして秋本は自ら考え出した校則と愛人共を基軸に、士官学校を独裁的に支配しているそうなのです」

「な、何だとっ!?」

 リューラは驚愕の余り思わず立ち上がった。

「そんな事が、そんな馬鹿な事があってたまるか! あそこは私の第二の家だ! おい、ツジハラ! その秋本って奴は何処にいる!? 野郎、絶対に許さねぇ!」

 怒り狂ったリューラは、繁の襟首を掴みながら大声で言う。

「落ち着いて下さいリューラさん。秋本の所在なら判っていますが、今の貴女では手の出しようもないでしょう? それに、そんなに感情的になって大丈夫なんですか?」

「何のことだ!?」

「いやだから、必要最低限以上に感情が高ぶったりすると――「うおぉぉぉぉおおおあああああっ! 何だとぉぉぉぉぉぉ!」――こ、こいつは一体っ!?」

 突如拘束具に被われていた筈のリューラの肩から、肉食恐竜とも犬とも鮫ともつかない形をした首の長い怪物の頭が現れ、低く嗄れた青年か中年のような声で叫ぶ。途端にリューラは苦しみながら床に倒れ込んだが、隔離病棟収容者とはいえ元軍人、受け身だけは取っているらしい。

「何てこったァ、ちくしょおおおおおおお! うあぁああぁああ~ッ! 俺のッ、俺の命より大切なリューラにとってのッ、大切な母校がぁッ! そんな訳の判らねぇ骨無しのクソ野郎に支配されてやがるだとぉぉぉぉぉーッ!? なんてことだ…なんてことだっ……ひでえ……酷すぎるぜ…畜生…なんてこったぁぁぁぁ~ッ! うぇっへあぁあああああーッ、どうしてなんだぁぁぁぁぁッ! どうしてこうなったあああぁぁぁぁああッ! えひぃぃぃぃ、あぁぁぁあああんまぁぁああありだぁぁぁぁあああっ!」

 怪物は先程まで怒り狂っていたかと思えば、今度は滝のような涙を流して泣き始めた。流石の繁もこれには驚いた。驚かざるを得なかった。リューラに謎の怪物が寄生しているとは聞いたが、まさかこんな性格だとは思っても見なかったからである。

「あぁ、あの、とりあえず涙と鼻水を拭いてはどうでしょう?」

「おぶ、ずばべぇっ(訳:おう、すまねぇっ)」

 繁は恐る恐るポケットティッシュを袋から抜くと、一袋分束で差し出した。怪物は首の真ん中当たりから猿とも虫とも付かない形の腕を出してそれを受け取ると、全体の四分の三近くで涙を拭き、更に残る四分の一で鼻水をかんだ。

「どうです?落ち着きましたか?」

「おう…何とかな。有り難うよ、バッタ面の兄ちゃん」

「いえいえ、幾ら相手が得体の知れぬ生物であろうとも、困ったときはお互い様ですから」

「優しいなあ、兄ちゃんは。リューラ(こいつ)みてぇによう、良い奴だなあ、あんた。こんな『顔に刺青入れた金髪の悪徳科学者みてえな声』した化け物だからって、物投げねぇでちり紙くれるなんてよう」

「何を仰有いますか、貴方の声はどちらかと言えば、『いざというときには愛と大儀の為危機に立ち向かう勇敢な父親のような声』ですよ」

「そうだとしてもだぜ? 声云々以前にこんなんが出てきたらヒいちまわねぇか?」

「まぁ…最初見たときにはかなり驚きましたが、悪い方には見えませんでしたから。自分以外の誰かの為に、あんなに大声で涙を流して泣ける方が悪だなんて、そうそう有り得ませんよ」

「そう思うか?」

「えぇ。万が一悪意を完全に覆い隠してそこまでの演技が出来る者が居たとして、貴方はそうでないと見える。そこまでする程の悪党ならそんなエネルギーを無駄遣いするような真似はせず、早急に私を手にかけている筈です。仮にその先の先の先の、更にその果てまで読み通すような頭脳の持ち主が居たとしても、私が思うにそういった手合いは悪党五千兆人に一人居るか居ないかでしょうし」

「そうなんだよ、俺って不器用な上に積分も出来ねぇ大バカでよう、出てくると何時もこうやってこいつを痛めつけちまうんだよなぁ。俺はただ、こいつの事が好きで好きでたまんねぇだけなんだけどなぁ……」

 怪物の声は渋く、少し嗄れてこそ居るが気迫と威厳を感じさせるものだった。しかしながらその喋りから読みとれる胸中たるや、まるで思い人に上手く胸の内を伝えられず、返って誤解を招き距離を置かれてしまう現状に思い悩む思春期の少年のようであった。

 リューラは思った。

「(私はもしかして、こいつの事を誤解してたのかもしれないな……)」

 そう思った瞬間彼女は、自らの全身を襲う激痛が幽かに和らいだように感じた。

疾患はまさかの思い込み!?

次回、遂に二人の心が通じ合う!

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