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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
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第四十七話 これは軍人ですか? 3.いえ、彼女は深手を負いました




昔話調で語られる、リューラの過去とは!?

―以下、リューラ自らが語った内容―


 よっしゃ。んじゃあちょっと昔話っぽくしてみるか。


***


 昔々―等と言ってもほんの二十年程前の事ですが―砂漠の大陸イスキュロンの田舎の国に、リューラという女の子が住んでいました。リューラは昔から元気で明るく正義感が強いとよく言われ、少し怒りっぽくて融通の利かない所もありましたが、それでもみんなの人気者だと評判でした。


 遊び相手は男の子が多く、女の子らしい事なんてしたことがありません。

 そもそも彼女は元より風変わりな生まれで、女性の身体に男性としての特徴を併せ持つ『両性具有』という体質でした。

 これは身体だけでなく心にも言える事でした。即ち、男女の本能が入り交じっている彼女はバイセクシャリストだったのです。

 心身がそれほどに奇怪ならいじめや差別の標的になっても良さそうなものでしたが、昔から人望のあったリューラにそんな事をしようという奴は、どうやら居なかったようです。むしろそれが珍しかったこともあり、リューラの周りには人がどんどん集まっていきました。

 しかし、リューラの人望と正義感が常に良い方向に動くとは限りません。

運動も勉強もそれなりに出来たリューラは、少しばかり不器用でもありました。直情的で熱くなりやすい彼女は、友達や全く無関係の人をも助けようと度々暴力事件を起こしては相手に重傷を負わせて補導される事が何度もありました。

 周りはそんな彼女を咎めますが、リューラはいつも『困っている奴を助けて何が悪い』と開き直ってばかり。両親はそんな娘を咎めつつも許し、どんなときでも支えてくれました。


 ある日、リューラの両親は言いました。

『リューラ、よく聞きなさい。正当な理由無く相手に暴力を振るうのは良くないことだけど、お前の持つ正義の心は本物だ。進むべき道を間違えないよう、優しさと思いやりの心を忘れずに生きなさい』

 リューラはこの言葉を心に留め、感情的になる事を控え、物事を一歩下がって考えるようになりました。


 その頃地元の公立中学に通っていたリューラは、精神的に成長を遂げた結果あらゆる方面で華々しい成績を修めるようになりました。そしてその成績と人格を担任の先生に見込まれ、何とデザルテリアにある国軍の士官学校へと入試出来るチャンスを与えられたのです。

 更に面接での彼女を見て、将来有望な軍人になるであろうと踏んだ士官学校の校長先生は、あるとんでもない決断を下します。リューラの秘められた能力を見込んだ校長先生は、特別な手順を踏んで彼女を特待生にしたのです。

 特待生とは選ばれたごく僅かな人間だけがなることが出来る選ばれし学生の事で、学費免除を初めとして破格の優遇措置を得ることが出来るのです。更にそれが名門中の名門とされるデザルテリア国立軍事士官学校ともなれば、大陸全土と言えども選りすぐりの精鋭という事に他なりません。


 それでもリューラはその肩書きに酔うことなく、今まで通り庶民的な正義感と善意に従って生きる事にしました。そして特待生の名に恥じないよう、無理をしない程度に全力で努力を続けました。

 そうしてリューラが三年生になった頃、彼女の元にまたも素晴らしい話が舞い込んできたのです。士官学校へ視察に来ていたイスキュロン陸軍の将校が訓練中のリューラの活躍を見てたいそう気に入ったので、卒業後自分の部隊に配属したいと申し出たのです。

 その頃将来何をすべきかで悩んでいたリューラはこれを喜んで受け入れ、両親を初めとする身の回りの大勢の人達が彼女を祝福してくれました。

 卒業後陸軍に配属されたリューラの活躍は素晴らしく、若くして多くの武勲を打ち立てた彼女は21歳にして少佐の地位にまで上り詰め、その華麗な活躍から何時しか『砂塵の豹』と呼ばれるようになっていました。

 国民的英雄になったリューラは、テレビ番組に出演したり、アニメ映画の吹き替えをしたり、自伝を出版したりしました。でも彼女はその事を一切誇らず、自分はあくまで軍人であり国を守ることが仕事なのだと主張し続けました。軍人以外の仕事で稼いだ金は全て寄付したり、両親の仕送りに注ぎ込みました。

 軍人でない自分自身の稼いだ金を自分のために使うのは、彼女自身の哲学が良しとしなかったからです。


 そうこうしている内に時は巡り、リューラが23歳の頃。故郷でノモシア民魔術師による戦乱が起こり、急遽リューラ率いる大隊が駆り出されることになりました。部下達と共に故郷へ向かったリューラが見たのは、無茶苦茶に破壊されて変わり果てた故郷の姿でした。

 リューラは部下達を率い、時に現地の人々を助け、時に敵の魔術師達と壮絶な戦いを繰り広げました。


 リューラは大勢の魔術師を殺しましたが、敵の魔術師も負けじとリューラの部下達や生き残った人々を殺していきました。それでもリューラはぐっと涙を堪え、生き残った人々と共に必死で戦い抜きました。

 そして二十日間に及ぶ激闘の末、敵をあと一人という所まで追い詰めたのです。敵の魔術師は魔力も体力も使い果たしており、抵抗はほぼ不可能でした。


 リューラはその魔術師に『投降して罪を償うのなら助けよう』と交渉を申し出ます。無抵抗の相手を殺すのは、彼女の哲学が許さなかったからです。

しかし相手の魔術師はそれを頑なに拒み続け、遂に抱えていた硝子瓶を叩き割ると、自ら舌を噛み切って死んでしまいました。

 こうして全てが終わったかに思えたのですが、事態はまだ終わってなど居ませんでした。硝子瓶の中に入っていたタールのようなものが唐突に動き出したかと思うと、それがリューラの右半身にへばりついたのです。

 タールは服の下へと潜り込み、肌へと直に染み込んでいきます。リューラはそれを必死に食い止めようとしますが、強く抵抗すればするほど全身に激痛が走り、立つ事さえままならなくなってしまいます。

 タールの染み込んだ場所はそれと同じような色に染まり、彼女の右半身を恐ろしい怪物に変えて行きます。

「やったぜ! 遂にやったんだぁッ!」

 右肩から硬い軍服を突き破って飛び出た蛇とも魚ともつかない不気味な怪物の頭が、低く(しわが)れたような恐ろしい声で叫びます。

「俺は助かったんだ! こいつだ! この女だ! ああ、最高だ! この女とならやっていける! この女の為なら何だって出来る! 俺は生きてぇんだ! あんな生活はもうご免なんだ!」

 更に怪物は長い首を曲げてリューラの方へ向き直り、言いました。

「すまねぇな、姉ちゃん。痛かったかい?だが怨まねぇでおくれよ、仕方が無かったんだ」

「仕方……ない、だ…と? どの、口が…ッ…」

「おいおい、落ち着けよ。身体の力を抜いてリラックスするんだ。そうすりゃあ痛みも消える」

「……」

「だからよォ、そう睨むなっての。俺ァアンタの敵じゃねえよ。獲って喰うだの取り憑いて操るだの、んな真似はしねぇから安心しな」

 等と宣う怪物でしたが、小さい頃から男性向けの漫画やアニメが大好きだったリューラは、その影響からか怪物の言うことを信用できません。

「黙れ……お前の言うことなんて誰が信じるか…ッ…」

「…はぁ……判ってねぇなぁ……俺ァアンタが好きなんだ。餌としてとかカモとしてとかじゃなく、純粋に友達として好意を向けてんだよ。いきなり飛びついちまったのは悪いと思ってる。けど仕方無かったんだ。あのままだと死んで――「悪いお化けめ! 少佐のお姉ちゃんから出てけっ!」

 近くに居た子供が投げつけた水銀体温計が、怪物の口の中へ入りました。それに驚いた怪物は思わず体温計を噛み砕いてしまいます。


「ッぐぇあぉうあがぎげっ! かッ! 馬鹿なッ! てめえ、不完全体の俺の唯一の弱点が水銀だと何故解ったァ!?」

 水銀にを飲まされた怪物は、萎みながらも吐き捨てます。

「頼む……俺を拒絶しねぇでくれっ……! 俺にはもう、お前しか居ねぇんだよ……頼む…」

 そう言って怪物は姿を消しました。しかし、リューラの右半身は依然として元に戻る気配を見せませんでした。デザルテリアの本部に戻ったリューラはそこで様々な治療を受けましたが、どれも効果はありません。

 あまつさえ感情が高ぶると、その隙に付け入って怪物の声が頭の中へ響き渡り全身に激痛が走ります。リューラはこの事から、最早まともな生活は送れないと思い、自ら志願し隔離病棟に収容される道を選んだのでした。


 彼女は表向きには戦死扱いとなり、多くの人々がそれを悲しみました。


 しかし、一部でまことしやかに信じられている都市伝説にはこんなものがあるのです。


 リューラ・フォスコドルは生きている。

 彼女は戦場で秘めた力に目覚め、その力を制御出来ないが為に国立病院の隔離病棟で生かされているのだ。



 そして今日も、リューラの一日は無色に過ぎ去って行くのです。


怪物の真意とは一体何なのか?リューラの結末は?繁はどう動く?

全ては次回、きっと明らかに!(多分!)

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