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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
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第四十六話 これは軍人ですか? 2.そう、彼女は災いを背負う



新キャラ登場!

―前回より―


 デザルテリア首都圏に存在する、イスキュロン陸軍管轄の大病院。

 その深奥には、訳ありの事情を抱えた軍人達の治療に用いられる隔離病棟が存在した。


 一部屋ごとに分厚い鋼鉄の壁で仕切られ、扉のロックは定められた方法以外では開けることが出来ない。

 無理にでも開けようとすれば、患者の首に付けられた首輪から痛覚神経に刺激が下り、居ても立っても居られない程に苦しい(が、しかし決して死ぬことはない)激痛に苛まれ、気力を殺がれてしまう。

 病棟と銘打つだけに患者を生かし続ける事が目的であるため、俗に幻術と呼ばれる、精神・感覚・思考に干渉する魔術の類で彩られた室内は患者に自身が最も理想とする世界を見せ続ける。しかしその実態は全身が白く塗られた無機質で簡素な独房であり、必要最低限の設備が備えられている以外に飾り気は一切無い。

 食事は基本的に全自動で供給されるが、幻術はそれさえも患者の望み通りに変えてしまう。

 そんな隔離病棟の一室に、一人の女が収容されていた。

 ベッドに座り込んだまま動かない女は身長約1.7m、少々広めの肩幅を持ち、長い銀髪を棚引かせている。しかし異質なのは彼女の右半身であり、金属製の鎧か拘束具のようなもので覆われていた。

 その表情は暗く落ち込んでこそいないが、明るく活気に満ち溢れているとも言い切れず、銀髪と白い病衣も相俟って『虚無』を感じさせる。

 即ち今の彼女には『何もない』。

 目的も、欲望も、使命も、本能も、何もかもが感じられない。


 必要最低限の行動を取る以外は、何時もこうしてただ何もせず過ごしているだけ。


 そんな彼女の名は、リューラ・フォスコドル。元々の階級は少佐である。

 若干21才の若さにして数々の武勲を打ち立てた事でその名を馳せた彼女は、数々の活躍から『砂塵の豹』の異名を持つ伝説的な存在であった。

 そんな彼女が何故こんな場所で、生死すらも曖昧に思えるほど無気力かつ不毛な状態で佇んでいるのか。

 その理由と彼女の過去、そして彼女の身に付けている拘束具の意味については、後々述べることとする。


『フォスコドル様、面会をご希望の方がいらしておりますが、如何なさいますか?』

 ふと、部屋に備わったスピーカーフォンからそんなスタッフの声がする。空ろな表情ながらもその声を確定的に聞き取っているリューラは、微動だにせずそれに答える。

「どんな奴だ?」

『はい。本の題材にするのでフォスコドル様にインタビューをしたいと』

「通せ。そしてなるべく丁寧に持て成しな。私の噂を知りながら、こんなに薄暗くて気味悪いだけの場所にまで足を運んで私に面会を申し込む奴の顔が見てみたいんでな」

 その言葉には感情に伴う抑揚というものがまるで感じられず、至極不気味に思えてしまう。聞く方からしてみれば、これならまだ稚児の棒読み音読のほうがましというものであろう。


『畏まりました。では二分後、そちらにご案内致します。面会時間は如何致しますか?』

「相手の気が済むまで、好きなだけ話し相手になってやる」

『畏まりました。相手の方にもそうお伝えします』


―二分後―


 微かに響くノックの音。


「どうぞ」

「失礼致します」


 中に入ってきたのは、我等が主人公・辻原繁ただ一人。シーズン1でも見せたバッタ型マスクに白衣という出で立ちである。他の四人は宿で待機させており、マスク他数カ所に仕掛けた小型カメラからの映像を遠隔送信している。


「初めまして。辻原繁と申します」

「……よろしく、ツジハラ。リューラだ。リューラ・フォスコドル。気軽にリューラと呼んでくれ」

「では、リューラさん。あなたに幾つか質問があります。よろしいですか?」

「いいぜ。答えられる範囲でなら、答えてやる」

「まず、インターネット上で貴女がここへ来る前に、テレビ番組にゲスト出演した際の映像を見させて頂きました。その時の貴女は、とても元気で明るく社交的な方だったように思えます。この事に間違いはありませんか?」

「無い。自分で言うのも何だが、ここに来る前の私は良く言えば明るく、悪く言えば気が荒かった。ガキの頃は男の群れに混じってオアシスの森で虫や魚を追い回したり、格ゲーとかガンシューでハイスコア出しまくったもんだ。喧嘩も散々した。酒や煙草には手を付けなかったし、不良と連む事も無かったが……暴力事件だけはよく起こしてたな」

「有り難う御座います。では……これは担当の方から聞いた話なのですが、この隔離病棟内には常時患者の方を対象とする精神干渉系の強力な魔術が施されているのだとかで……」

「そうだな」

「そしてその魔術の影響により、患者の方々は隔離病棟内を自身の願望を精密に反映した理想空間として感じ取ることが出来る、とも聞いております」

「一介の物書きにしては、随分と博識だな。感心したぞ」

「お褒めに預かり光栄です。そしてここからが本題なのですが……リューラさんの目に映る理想世界とはどのようなものなのでしょう?」

「理想世界……か」

「はい」


 リューラは暫く考え込んでから、繁に言った。


「忘れちまった」


 繁は特に驚くでもなく、淡々と聞き返す。


「忘れてしまった?」

「あぁ。忘れちまった。いや、それしか逃げ道が無かった。ここに来るそもそもの理由になった病の影響でな。ノモシアの魔術師もラビーレマの医者も、アクサノのシャーマンとかドイルドとかいう奴らも、皆お手上げだと泣く泣く匙投げちまってよ」

「左様で……それはそれは、失礼致しました」

「良いんだよ、別に。大概どんな事でも聞くがいいさ。可能な限り答えてやる」

「有り難う御座います。それではあなたの右半身を被うその鎧のようなものは、一体何なのです?」

「あぁ、これか?実を言うと病に感染したのは、私の右半身全部でな。こうしてないと、色々とヤバいんだ」

「ほう……色々、とは?」

「……悪いが、それについては話す気になれねぇ」

「そうですか」

「物書きにしては潔いじゃねぇか。どういう風の吹き回しだ?」

「他意はありません。ただ、その御言葉が聞ければ十分です。無理に聞いてしまっては、リューラさんのお体にもよろしくありませんし」

「優しいんだな、お前」

「……ご冗談を、私は欺き逃げ回る事しか出来ない意気地なしの臆病者ですよ」

「そうか? ……私にはそうは見えんがなぁ」

「そうでしょうかね。では、リューラさん。少々失礼な事をお伺いしても宜しいでしょうか?」

「ああ、どんと来い」

「私の個人的な意見ですが、今ここにいる貴女は大変に無気力で、明るいとか暗いとか、そういった表現以前に『活き活きとしていない』と言いますか……はっきり申し上げれば『傍目から見るに生き物であるように思えない』のですが……それも病の影響ですか?」

 リューラは暫く口を閉ざしていたが、暫し考え込んで言葉を紡ぎ出す。

「病の影響じゃあ、ねぇ。私個人がそうしたことだからな。あと訂正だが、そうするとさっき言った『理想世界を忘れた』ってのも、若干語弊のある言い方だったな」

「と、仰有いますと?」

「さっきも話したとおり、私の病てのはかなり妙でよ。治療不可能なんだよな。で、長いこと苦しめられてる最中に見出した唯一の対処法が……」

「『何も考えないこと』ですか?」

「そうだ。『虚無に近付く』事が私に遺された唯一の逃げ道だったんだよ。

だから今もこうして、自分の感情や欲求なんてもんを限界レベルまで封殺してんだ。ほんの少しなら大丈夫だが、人並みに出すとやべえ事になりやがるからな」

「成る程……では、リューラさん」

「何だ?」

「もし宜しければ、聞かせて頂けませんか?貴女の過去を」


 繁の問いかけに、リューラは幽かな笑みを浮かべて答えた。


「ああ、喜んで」

次回、明かされるリューラの過去!

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