第四百五十話 ダイジェストですらなくても最終話だと主張したい!
読者さん、最終話ですよ最終話!
―前回より・雪原―
テリャード城での最終決戦の後、二人は雪原に居合わせた数多の者達によって盛大に出迎えられた。元来周囲から大掛かりに誉めそやされ讃えられる事を好まない二人にとってそれは若干不本意でもあったが、自分達に向けられる純粋な好意や感謝の喜ばしさに比べればそんなものはさして気にもならなかった。仲間や嘗ての主要な協力者達と言葉を交わした二人は、開かれた"次元の門"を潜り地球へと帰って行った。
周囲の者達が別れを惜しみ泣き出す中、一切その素振りを見せなかった"元"ツジラジ製作陣の面々は、二人の姿が完全に見えなくなり"次元の門"さえ完全に閉じきった途端一斉に、散々に泣いたという。
一方"次元の門"を通った二人は涙を流す間もなく意識を失い、召喚される前に戻されていく。
―その後の話―
桐生時子の支払った"報酬"により、カタル・ティゾルに残った八人の仲間達はそれぞれの道を歩み始めていた。
王侯貴族に喧嘩を売った為に医者としての立場を失ったニコラは時子の支援を受けて見事に開業医として復帰。医者として患者を救う傍ら、嘗ては書籍として出版していた自殺実験のデータを雑誌やネットにて連載したり、機械や武器を扱う製造業社での製品シミュレートに協力したりとその不死性を存分に活用しての生活を送っている。
権威主義や異物蔑視といった社会的風潮に嫌気がさし、また親族の遺産を狙う魔手から逃れる為に職もなく悪党に肩入れしては裏切る日々を送っていた桃李と羽辰は、支援と努力の甲斐あってその能力を社会に認められるに至り博士号を所得。ラビーレマのさる企業で研究者として活躍中である。
思いがけない出会いにより図らずも互いを苦しめていたリューラとバシロにイスキュロン軍は将官として、エレモスの各研究機関は学者としての道をそれぞれ用意したが、二人は揃って『残念だが最早自分達にその舞台へ立つ資格はない』として申し出を断り、生体災害応戦士を目指し日夜鍛練と労働に励んでいる(後に凄腕として世界的スターにまで成り上がることとなる)。
一方で故郷アクサノに戻った春樹は支援により通い始めた学校で様々な才能を開花させ、後に自身の数奇な半生を綴った自伝を執筆。更にはこれを自らの手でアニメーション化。その後もフルボイス化、コミカライズ化(作画は千堂大樹)、影貴一座により舞台演劇化といった具合に成功を収めていくこととなる。
春樹と同じく故郷ヤムタは麗紅(旧真宝)に戻った璃桜は暫くの間自分の進むべき道を見出だせずに居たが、迷走する最中一人の男と恋に落ちそのまま結婚。侍従時代に培った諸々の技能を活かし、愛する夫(や、後に加わるであろう我が子)の為に専業主婦として日々を過ごしている。
戦いの日々から解放されたケラスもまた先に述べた二人と同様に故郷へ戻り、支援により念願叶って自らの店を持つに至る。そして彼女は熟考の末に一度は敵対までしたハルツと復縁(とは言ってもさほどややこしいものではなかった)。クロコス・サイエンスの敷地内に店を構え、社員達の間で絶大な人気を博すこととなる。
児童養護施設『コチョウラン』にて育った孤児達は林霊教傘下の学校へ入学し、任期を終えたムチャリンダは供米磨男に後を任せ地下施設管理者の座につく。その手腕は確かなものであったが、惜しむらくは時たま彼自身も予期せぬ天然ぶりが妙な騒動を引き起こすことだとか。
イスハクル家により統治される麗紅の治安や情勢は安泰そのもので、放浪中の一政が戻って来た日には国を上げての祭りが催されているという。十日町邸は相も変わらず騒がしく、その傾向はかのチャットルームに集う面々とネット外で関わるようになってより顕著になったという。秘められた存在であるポクナシリとアフンルパルに変化はないように思われたが、キムンカムイは生き別れた息子と間接的な再会を果たしたとの噂もある。
嘗て大戦争を引き起こしたエレモスの二大組織――中央スカサリ学園とクロコス・サイエンス――はその後も変わらず広大な敷地と豊富な設備を存分に活用し優れた人材や発明を世に送り出していくこととなる。ダンパーの病死や王将とセルジスの結婚等、連日悲喜を問わず様々な出来事が続発するエレモスだったが、かの戦争に関わった者達は今も変わらず幸せな日々を送っているという。
コリンナの大魔術により消滅したエクスーシア王国は今や再開発により大都市へと生まれ変わり、新政府により統治されるそこは自由都市ソムニウムと呼ばれた。作家ランドルフ・ハーロックの養女・エルディーネとなったセシル・アイトラスは品行方正で心優しく清楚な元々の人格を取り戻し、養父の教育もあり多方面で華々しい活躍を続けている。その他、あの日戦場に居合わせ生存した面々は何れも自分達なりの幸福を手にしており、不幸と言えば彼等の殆どが今だ独身のままであるということぐらいである。
―某年某日・ある民家の一室―
「……!」
目覚めた時、彼女――清水香織の目に映ったのは、もう三年以上もの間目にしておらず、また一時はもう二度と目にしないであろうとさえ思っていた平面――則ち実家にある自室の壁と天井――であった。起き上がって辺りを見渡した香織は、すぐさまあることに気付く。
「私の、部屋……そっか。私、帰って来れたんだ……」
香織は改めて自分の置かれている状況を確認する。窓の向こうも、時刻も、服装も、部屋の中の物の配置も、全てがかつて何の前触れもなく異界に飛ばされたあの日のままであった。
「……」
紛れも無いその事情を改めて認識した香織の中へ色々なものが込み上げて来る。それらを抑え切れなくなった彼女は、自室のベッドにて一人静かに涙を流す。当然ながら、そんな涙を一気に吹き飛ばすような出来事が待ち構えていようなどとは知る由もなく、予想さえできていなかった。
―某年某日・ある都市にて―
「――っ!」
目覚めた時、彼――辻原繁の脳内にある情報が流れとなってざっと三年分流れ込んできた。それは新規の情報ではなく、過去に記憶しているものに大掛かりな修正の加えられたものであった。続いて視界に懐かしい町並みが映り込み、彼は自身の置かれた状況と脳内に起こった異変の原因を理解するに至る。
「……帰って来た、って事か……んで、攫われる直前に引き戻されたことで記憶に香織の存在が加わった、と……」
どうにかそこまでを理解した繁は、携帯電話を取り出しある番号へ連絡を入れる。
『もしもし、繁?』
「おう、俺だ香織。何か妙な言い方になるが――待たせたな。今戻った」
『うん。お帰り、繁。とりあえず話したい事あるからそっち行ってもいい?』
「ん、別に構わんが――『ありがと。んじゃ、すぐ行くから』
「へ?おい、何を――「お待たせ」――!?」
つい先程まで自宅に居たであろう従姉妹兼恋人が瞬時に目の前へ姿を現すという信じがたい出来事に、繁は思わず絶句した。
「お、おまっ、何でそんな、まるで魔術みてぇに――「口頭じゃ話せないから脳へ直に送るわ。いい?」
「んあ?あぁ――はぁ?」
香織は念話で繁の脳内へ情報を送り込んだ。その情報を大まかに箇条書で記すと以下の通りである。
・グラーフは二人を地球に転送する際、戻ってからも苦労せずに済むようにと考えを巡らせる余り『都合が良すぎる故に矛盾点だらけの結末』を想定してしまっていた。
・然し妥協を拒んだ彼は自身の力と権限を用い万物と宇宙の根源へ強引ながら巧みに介入。試行錯誤の末、俗に言う『並行世界』の存在を見出だすに至る。
・そして彼はその流れを改竄し『複数の平行世界に於ける同一存在を一つに統合、その他諸々のあれこれを調整する』という手法で、特定の存在に異なる歴史を同時進行で問題なく歩ませることに成功する。これにより一応全て丸く収まった(つもりらしい)。
・また、カタル・ティゾルから地球への転送の際二人が図らずも持ち帰ってしまったカドム武器は何の因果かそれぞれの体内へ取り込まれてしまったそうである(訓練すれば出し入れも可能)。
・同様の原理で魔術や異能もそっくりそのまま持ち帰られてしまった。
・以上のことは全て、グラーフから突如何の脈絡もなく入った"至極軽薄なノリの一方的な念話"から分かったことである。
「成る程な。然しあのグラーフってのも無茶しやがる。普通に帰しゃよかったものを」
「そこで妥協できないのがグラーフなんじゃないの。――んじゃ、私これから用があるから」
「おぅ、またな」
香織が転移にて姿を消した後、一人取り残された繁の視界にあるものが映り込む。それはかつて出来上がるより前に異界へ転送された為に食べ損ねてしまっていた、インスタントのうどんであった。
「……そういやあったな。そろそろ頃合いだろうし、食うか」
麺を口に含み、噛み締める。
「(……ん、チト固えか)」
とは言え食べるのには問題のない固さだったために問題なく完食した繁は、近くのゴミ箱に諸々のゴミを纏めて投げ込み意気揚々と歩き出す。
「さて……そろそろ行くか」
はい、そんなわけで何とか完結しました『ヴァーミンズ・クロニクル』。
連載二年五ヶ月ちょいにしてようやっと完結ですよ。どうしてこんなに長引いたんだか自分でもよくわからないぐらい長引きやがりました。ラビーレマ編書いてた頃は1シーズン20話で六大陸と最終決戦やるから140話ぐらいで行けるだろうぐらいに構えてたんですけどね、甘く見すぎてましたわ。まさかこんな長引くとは……いや、それ言ったら何もかもが甘かったんですけどね?そりゃあもう、ジオスコレオフィルム・クミンシー(糖度が砂糖の3000倍という果実)より更に甘かったんです。でなきゃなに不自由なくヤムタ編時点での想定通り300話ぐらいで完結させられてたんでしょう。でも実際はその1.5倍もかかった。一話ごとの時数が少ないからだなんて言い訳にもなりゃしない。では何故そうなったのか?
あれこれ理由はそれこそ星の数ほどもありますが、一番に言えるのは単純に私の構成力がなかったということでしょう。あとゲスト召喚とか意味もなく余計なことやったってのもあると思います。読者に知り合いの作品やキャラクターを宣伝したかったがためにやったこの企画で調子乗って大人数呼びすぎたのが何よりの問題だったことは火を見るより明らかです。まぁ、その結果多少の繋がりは生じたので(その代わりイラついて暴走したお蔭で一人に縁切られましたがその事も含めて)今回の失敗から学んだことを腹に据えて頑張ろうと思うわけです。それにしたって活動報告のゲスト解説に殆ど誰もコメント寄越さないのは酷いと思いました。
とは言え書いていて学んだことも多いですし、月並みながら楽しかったのでそれはそれで良かったのかな、なんて思いもします。生き残った奴らのその後とか、臨母界のこととか、残る蠅のこととかまだ書けてないこととか色々あるんですけどね、その辺りはまた何時か余裕ができたら書きたいと思っています。(特に"不可能"である確率が高い)不確かなことをさもやるように予告するような真似は(昔自分がそういう手合いの所為で勝手に苦しんだのもあって)あまりしたくないのでね……ええ、期待せずにお待ちください。連載を持つからには読者に対して最低限の責任を取れる創作屋でありたいんです。幾ら才能があろうと、口が上手かろうと、博識で意識が高かろうと、連載を持つ以上継続させ完結させることが最も大事なんです。それができない奴が、どうして人気を得られましょうか。
私はまだ21の若僧ですが、ネット歴は無駄に長くその大半を創作サイト巡りに費やしてきました。故に私は、連載を放置して番外編・外伝・新作・短編・版権二次創作に逃げるような、或いは諸般の事情あって作品を畳まざるを得なくなってしまった創作屋を何人も見てきました。そしてそういった方々に限って本当にいい作品を作っていた。だからこそ自分は、どんなにつまらない、くだらない話だったとしても打ち切らないように、最後までやり通せるよう、あらゆる面に最新の注意を払っていきたいのです。それが単なる自己満足の域を出ない趣味であったとしても、一定の需要があり、期待され、また一部有志から作品に関する贈り物を受けている以上それには職務と同様の責任が生じるものであり、とにかく読者を裏切らないよう必死で頑張ることこそ、創作屋の守るべきルールなのではないかと、私個人は思います。だからこそこうして『ヴァーミンズ・クロニクル』という一つの作品を、一応の完結に導こうと全力を尽くし、そして現に完結させました。この作品の出来がどうあれ『作者である私個人としては全力を以て本作を完結させた』ということだけは、揺ぎ無く断言できる自信が私にはあります。
最後になりますが、本作を飽きずにここまで読んで下さった読者の皆様、また、ファンアート等二次創作を下さった方々、そしてそのどちらでもなくとも私を支えて下さった皆様、ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました。皆様と出会えた私は、本当に幸せ者です。
2014.1/21 14:30 蠱毒成長中