第四百四十九話 Q.これで決着ですか?E.はい、随分ショボいですが一応。
決着!
―前回より・テリャード城内―
グラーフより授かった"力"の本領により繁と香織が変じた"邪善悪義虫"の力は、帰天臨世によりこの世ならざるものに由来する強大な力を得た筈のコリンナをこれでもかと言わんばかりに圧倒していた。
{っぐぁあ!何故、何故こんなことになってるのよぅっ!?っく、これでも食らって死になさいっ!}
コリンナは苦し紛れに四本の腕を機関銃らしきものに変化させ無数の弾丸を放つ。然しそれら弾幕にもまるで怯まない邪善悪義虫――もとい、繁と香織――は滞空したまま一切動かない。
《《――壁》》
その一言に伴い邪善悪義虫の口から緑色をした溶解液――無論アサシンバグの異能によるもの――が霧状に吹き出され、瞬く間に半球型の膜を成す。
{っ!しまった!}
膜を見た途端コリンナの表示は曇り、彼女は邪善悪義虫から距離を取りつつ四本の腕を盾に変化させようとする(回避より防御の構えを優先するのは、そうする方が幾分かマシなのだと理解していた為である)。放たれた無数の弾丸は膜に触れる度に消滅していき、その度に邪善悪義虫の傍らへ透き通った樹脂のような質感の宙に浮く正四面体が傍らにストックされていく。弾丸が全て消滅するのと同時に膜も崩れて消え去り、邪善悪義虫はストックされた正四面体を辺りへバラ撒く。無作為に飛散するだけだったそれらは一定のタイミングで鋭角をある一方へ向け空中にて静止する。そして――
《《――射》》
その一言により正四面体の内部から先程消滅した筈の弾丸が飛び出し、出遅れた為に未だ盾を成せていないコリンナ目掛けて一斉に降り注いだ。自身の体組織より生み出された弾丸はその鋭さによって彼女の表皮を凹ませていき、それはやがて穴となってより深刻な傷になっていく。"溶解液により物体を溶かし消し去ると同時に存在そのものを丸ごと取り込み、消失直前の状態で外部に吐き出す"というアサシンバグの二次能力によって成せるこの技はコリンナにとってかなりの脅威と化していた。
だがこのような技さえもまだほんの序の口に過ぎない事は言うまでもない。邪善悪義虫とは単なるアサシンバグの強化形態ではないのである。
{っは、ぁっ……と、とにかく、攻撃をっ……抵抗しなきゃ、殺られるだけ……なら徹底して、抗うま――《《諸手に来たれ、剣二振り》》――でぇっ!?}
瞬時に傷を再生させすぐさま反撃に転じようとしたコリンナは、そこで思わず間抜けな声を上げてしまった。邪善悪義虫の手元に突如として二本の美しい西洋剣が現れたかと思うと、その外骨格が一気に赤青金という三色で彩られた甲冑のように変貌したのである。
{な、何?何なのよあれっ!?いきなり虫の色が変わっ――たぁあああああ!?}
間髪入れず振るわれた刀をコリンナは何とか躱し反撃に打って出ようとするが、剣が一度振るわれる度に目視可能なエネルギー塊となって飛んでくるのでどうしようもない。その後も邪善悪義虫はまるで衣装を着替えるかのようにその姿を変えていき、その度に武器も槍や弓になったり、或いは使い魔の召喚等特殊な能力を使えるようになったりもする――と、ここまで書けば邪善悪義虫が"単なるアサシンバグの強化版"でないことの確証たる能力が何であるのか、察しのいい読者ならばお分かり頂けるかと思う。
邪善悪義虫に秘められた能力――それは則ち『"列王の輪"の固有効果に準えた各形態に変身しその能力を行使する』というものである。攻撃のみならず防御・妨害にも適する様々な異能はコリンナをとことん追い詰めていく。
{ひッ!?こ、こんな馬鹿なぁ!何で!?どうして私がこんな目にっ!}
未だ状況がよく飲み込めず狼狽するばかりのコリンナはそれでも戦意を捨てなかったが、身体の方は既に限界が近付きつつあり、どうにか浮遊するのがやっとの状態であった。それを悟ってか悟らずか、邪善悪義虫は更なる追い撃ちをかけるべく行動を開始する。
《《来たれ、影の群れよ》》
まず発動したのは"オンブラ・アッサシーノ"の固有効果に準えた能力。滞空する虫の影は幾つかに分裂を始め、やがてそれぞれが小振りな黒い邪善悪義虫に姿を変えコリンナを取り囲む。
《《変われ、影の群れよ》》
続いて発動したのは"コンクイスタ・ガヴァリエーレ"の固有効果に準えた能力。これにより黒い虫達はかつて香織が呼び寄せてきた異界民の中でも取り分け代表的な者達に準えた姿と能力を獲得するに至る。《《行け、猛者の影よ》》
命じられるまま、姿を変えた黒い虫達はそれぞれが得た能力を最大限に活用した奥義をコリンナ目掛けて放つ。それらは追い詰められていた彼女に追い撃ちをかけた。結果帰天臨世の術は急激かつ中途半端に弱まってしまい、コリンナは変異前と変異後の形質が混濁したような、半端で惨めな姿になってしまった。
{っは!?そんな、馬鹿な……帰天臨世が、消えかかって――ァがっ!?}
邪善悪義虫はその隙を逃すことなく八本ある節足の内七本で頭と首及び両手足の付け根を掴み完全に拘束する。力を込めればそれだけで帰天臨世を維持しうる生命力は無くなり、コリンナの姿は変異前の脆弱なものへと逆戻りしてしまう。
{……こんな……馬鹿な……私は、神性種……なのに゛っ!?」
コリンナの胸を邪善悪義虫の節足が素早く刺し貫き、心臓を掴み握り潰す。少女の口から血が吹き出し、節足が抜かれるのと同時に華奢で脆弱な身体は全てが途切れ終わったかのように、静かに崩れ落ちる。
コリンナ・テリャード絶命の瞬間である。
同時にグラーフの授けた力は役目を終え、邪善悪義虫は辻原繁と清水香織に戻る。
「……終わったな」
「……終わったね」
最低限の言葉を交わした二人はコリンナの亡骸から頭部を切り取り、溶解液で脳を取り囲む骨肉を取り除いた後魔術にて保存。テリャード城を後にした。
次回、遂に最終話!何が何でも最終話!予め言っておくが感動は保障しない!
但し余りの残念ぶりに泣けてくる可能性があるのでハンカチなりちり紙(言い方古っ!)は用意しといた方がいいかもよっ!?