第四百四十一話 決戦王宮中枢
遂に対決……なのか?
―前回より・テリャード城中枢部の広大な部屋―
「ちヮァァああッス!三河屋でェェッす!」
「毒空木酒如何ですかぁぁぁぁ!」
テリャード城内部に存在する"ごく一部の限られた者しか入ることのできない特殊な部屋"へ突如として響き渡った二人分の奇声と大型バイクのエンジン音は、世界を滅ぼし作り変える大魔術の発動準備を急いでいたコリンナを大いに驚かせ、彼女の手元を若干ながら狂わせた。そしてこの"若干の狂い"によって術を安定させる手間が余計にかかり術の発動が大幅に遅れたのであるが、今のコリンナの脳内はそんな(本来ならば重要視すべきである)事柄さえもさしてどうでもよく感じてしまう程に衝撃的な事実で占められていた。
それというのは即ち『何故この"ごく一部の限られた者しか入ることのできない特殊な部屋"に、繁と香織が堂々と入り込めているのか』ということであった。彼女の記憶が確かなら(などと曖昧な表記をしたがその実確かに)この部屋に入る為には特定の"手順"を踏まねばならず、そうしなければそもそも視認すらできない筈なのである。そしてその"手順"を踏むことができるのはテリャード家の血筋にある者か、或いはその正式な許可を受けた者か、もしくはそれらから"手順"の情報を得た者に限られる(尚、"手順"の情報を記録することは規則及び現在も機能し続ける城のセキュリティシステムにより不可能となっており、同時に何らかの形で城の外部へ持ち出すことも不可能である)。
「(そうなると可能性はガステ……あいつは代々城に仕える重鎮の家系だから当然ここへ来る方法だって知っている……けど奴らが"禁忌の闇"へ立ち入ることなんてまずできないだろうし、仮に立ち入ってガステを尋問したところで私はあいつの弱みを握って絶対的な優位を勝ち得ているからまず口を割ることもしないはず……もし割ったなら、その時点で私の仕掛けた術が作動してあいつの|難病で死にかけてる彼女はあの世行き……『命じられれば何でもする。死ねと言われてもそうするから彼女にだけは手を出さないでくれ』と必死に懇願してきたくらいだもの。口を割るなんてまずあり得ないわ。でもだとしたらなんであいつらはここがわかったの?……まあいいわ、何にせよあいつ等を始末して術を成功させれば――「おい」「ちょっと」――!?」
コリンナの長ったらしい上に穴だらけの独白は、侵入者二人の乱入によって中断された。
「な、何よ!?びっくりするじゃない!」
「いや、びっくりするってあんたねぇ……」
「自分に殺意を向けた敵が来てんのにその反応はおかしいだろ。何を妄想してたのかはともかくとして」
「いやそれは確かにそうだけどその字は納得行かないわ!何よ妄想って!?妄想なんかしてないわよ!っていうかここはあんた達みたいなクズが来ていい場所じゃないのよ!?それなのにあんた達は――「黙れ」――わひゃぃっ!?――「喋れ」――いやどっちよそれぅっ!?」
自身の顔面を狙って放たれた溶解液と光弾を、コリンナは何とも間抜けかつ滑稽な動作でどうにか回避し、どこまでも自分を愚弄したクズ二人への凄まじい怒りを言葉ではなく、叫びに伴う魔力の波動という形で爆発させる。
―同時刻・戦争の終結したエクスーシア王国―
「……ふむ、敵勢の連合軍は殆ど全滅したようですね」
「アァ。コチラノ死傷者ガホボ皆無デアル一方敵勢力ノ人員ハ殆ド死ニ絶エ、連合軍ヲ成ス各組織ノトップモ軒並ミ死亡ガ確認サレテイル」
「死体は防衛隊やイスハクル家の私設兵団、中央スカサリ学園、クロコス・サイエンスとかの処理班が合同で片付けるとよ」
何処からか取り出した除雪用スコップで地面を覆う雪を取り除けながら語らうのは、林霊教神官・供米磨男と元英傑のヌグ及びクンビーラであった。
「敵の生存者はいるのですか?」
「大概瀕死だが、雀の涙程は居るようだな。まぁ防衛隊員が残らず取っ捕まえたらしいし、落ち着いたら裁判かけて投獄でもしときゃいいだろ」
「ソコハ政府ヤ裁判所ノ仕事ダ。我々護衛ガ口ヲ挟ムハ野暮デアロウ」
「言えてらァ。ところで神官さん、そろそろ詳しく教えてくんねぇかい。俺ら三人、こうして雪掻きなんてしてるその理由をよ」
「おっと、そういえば言い忘れておりましたな。我々が今こうして雪掻きをしているのは、辻原殿と清水殿を地球に帰還させる術を発動する為です」
「ホウ……ツマリハ下準備トイウコトカ」
「そうなりますね。辻原殿曰く、彼の樋野ダリアがカタル・ティゾルから地球へ向かう為に用いようとした大魔術"次元の門"は発動にかなりの面積を要するとの事でしてな。雪や落ち葉に覆われているような土地は適さんのだそうです」
「成る程な。それで雪掻きって訳だ」
「えぇ。雪掻きの方はそろそろ終わりそうですし、もう少ししたら本格的な術の準備にかかることになるでしょう。まずは熱湯で地表面の雪を完全に取り除き、地表に円陣状の魔術式を描き――」
「ソシテ、例ノアレラヲ使ウノダナ?」
「えぇ、その通りで御座います。術式の基礎を組み上げた所へ我がセルヴァグル地方自治体が極秘裏に保管していたヒメミコゴロモの蛹表面に形成される"蛹結石"と、お二人が今現在採りに向かっておられる王族級純血神性種の大脳という二つの"源"を配すれば術は完成し"次元の門"が開かれます」
次回、曖昧な二つの歯車がまさかの噛み合いを見せる(かもよ)!?




