第四百四十話 とある術者の無機屍術
いざ、城の中へ!
―解説―
単に"屍術"と言えば基本的には『死体へ生前の情報を伴う擬似的な生命エネルギーを与え起動屍として蘇生・使役する魔術』を意味するが、本来の定義としては『死体や霊魂を扱う魔術全般』を指す。これ故本来の屍術とはそのイメージに反して多種多様であり、その分類基準も――未だはっきりと定まっているわけではないが――当然一つではない。代表的なものには『死体か霊魂か』とか『起動屍に自我を与えるか否か』等というものがある。そしてそれら複数ある『屍術の分類基準』の中には――定義が曖昧故未だ暫定的ではあるものの――操作・使役する対象物の成分組成に由来するものがあり、それらは専門用語で『有機屍術』と『無機屍術』という二種類に分類される(また、読者諸君は当然知っていることと思うが、この場合に於ける"機"の字が意味するものは"炭素"である)。
即ち『有機屍術』とは、例えば死者を起動屍として蘇生・使役するなど有機物(主には死体)を操る屍術であり、対する『無機屍術』とは、例えば従属させた霊魂を器物など無機物(或いは無生物)に憑依させ操る屍術である。この内無機屍術は霊魂という『情報を有する生命エネルギー』を機械類の動力源に使えるのではとのことから学術分野の専門家達も注目しており、研究の初歩段階として生み出された無機屍術用の機械人形というものは広く出回っていたりもするのである。
―前回より・テリャード城・城内通路―
「さォララララララァーッ!退けやロボ共ォ!」
「退かなきゃ死ぬよ!てか壊れるよ!」
「まあ退こうが退くまいがブッ壊すけどなぁ!」
城内へ突入した繁と香織を待ち受けていたのはそんな無機屍術用機械人形の大群であった。雪原にて戦死しガステにより戦場から引っ掻き集められ彼の支配下に下った蘇生者達の霊魂を動力源とするこれらの機械類、一口に人形と言ってもその形態は多種多様であり、中には自走機構を持たない固定砲台や城の建材と一体化した罠のようなもの、見上げる程に巨大なもの、逆に掌や指先に乗る程小さなものなど多岐に渡った。然し如何なる型にせよテリャード城に備えられた機体は総じて博物館の展示品として高値がつくような旧式であり、その上魔術文化園ノモシアの(歴史的には一応)由緒正しき大国(だと王族達は思っている)エクスーシアが中枢テリャード城の所有物であるにもかかわらず防護魔術の類が一切施されていない。
ともすれば凡そ殆どの物体に対して一撃必殺クラスの破壊力を発揮するアサシンバグの溶解液で無機屍術用機械人形群を破壊することは容易く、その上壁も溶解液の一撃(時に二撃)で突破できるためか、見取り図さえ持たず手当たり次第の行き当たりばったりな道筋を進んでいた割に二人の走りは軽やかなものであった。
そして城内の機械人形がほぼ全て動かなくなった頃、二人は図らずも"彼"と遭遇する。
―暫くして・テリャード城内地下・通称"禁忌の闇"―
「(やはりあんな人形で足止めなんて無理だったな……まあいい、ともかくコリンナ様の元へ行きさえしなければそれで――ぉおう!?」
何やら準備を進めるガステの眼前に、突如として二人の男女――もとい、繁と香織――を乗せた大型バイクが現れた。身の危険を悟ったガステは咄嗟に逃げようとするが、片脚を等打槍に貫かれその場に高速されてしまう。
「ィよう兄ちゃん、手荒な真似してごめんな?」
「ァぐ、がぁッ……なん、の――用だッ!?」
「ちょっと急ぎの用事があってね、聞きたいことがあるのよ」
「問いに答えてくれりゃあ見逃してやるし、刺した脚も治そう。その代わり答えねえんなら容赦なく殺す。幾ら広えっつっても探しゃあ見付かるだろうからな……」
「……問いとは何だ?内容にもよるが」
そこで繁はガステに『王女コリンナ・テリャードはどこに居るのか』と聞いた。その問い掛けに対しガステは痛みを堪えながらも『そんなことお前達なんかに教えるものか』と抵抗したが、繁が舌を変化させた太い針のようなサシガメの口吻をちらつかせ、『これがあれば生物の頭蓋骨に穴を穿ち脳を吸うことでその記憶をも頂くことができる』と脅しをかける。てっきり普通に殺されるものだと思っていたガステは急に死ぬのが怖くなり『待ってくれ。知ってる事なら何でも話すから殺さないでくれ』と、必死になって命乞いを始めた。
そしてその直後、生物の肉を棒状の物体が通り抜ける音とガステの悲鳴が響き渡った。
次回、遂にコリンナと対決!ついでに地球への帰還方法も言及できたらいいけどどうなるかな……