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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
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第四十四話 ブレブレな彼は死亡フラグくらい叩き折れますから(笑)




香織の言葉の真意とは!?

―前回より―


「単刀直入に言えば、ですよ」

 香織はボトルの茶を一口飲んで言った。

「彼は生きています。恐らくテイオウスナハンザキの食道から大腸までの何処かしかで」

「何故言い切れるんだい?」

「何故って、彼がそういう男だからですよ。昔からそうでした。私がまだ加減法も満足に出来ない頃からとても頭が良い癖に、余計な所で変なことして死にそうになって、それでも最後には事を荒立てるでもなく嬉々とした表情で無事帰ってくる。私はそんな彼の姿をもう十年以上見てますから、心配すべきかそうでないかは、その都度の仕草とか態度とかを見れば判るんですよ」

「大した自身だねぇ」

「私達二人はイトコ同士というより同い年の兄妹みたいなものでしたから、互いの事は大体理解し合ってるつもりなんです。お互いその事を言い合ったりはしませんけど、少なくとも私はそう思ってます。今までだって、彼が本当に危ない時は何処にいてもそれを薄々感じ取れましたし、彼も私の危機はくまなく感付いていたと聞いてます。ましてや今の彼は身も心も霊長種としての基軸を大きく外れつつありますから、死ににくさには余計磨きが掛かってるでしょうし」

「……皆聞いたね? 十年以上も青年君と姉弟同然の付き合いをしてる彼女がこう言うんだ。信じてやらないでどうするってんだい? まさかあんた等……天下のツジラ・バグテイル(・・・・・・・・・)ともあろう男が、よもやテイオウスナハンザキに丸飲みにされた程度で簡単に死ぬとでも思うのかね!?」

『断じて思いません!』

 逢天のその言葉を聞いて、香織とニコラは驚愕した。

 何故逢天がその名前を知っているのだろうか。事前に繁の指名手配がエクスーシア圏内と周辺諸国に限られていると踏んで本名を名乗り、目的もイスキュロン大陸軍本部の名物軍人へのインタビューだと伝えたはずなのに。

 ツジラ、青色薬剤師という源氏名はおろか、ツジラジに関する情報は一切漏らさないよう徹底していたというのに。


「八坂船長……何故、その事を……?まさか最初から、覚っていたというのですか?」

「いやいや、私はそこまで鋭かないよ。あんた達のラジオはみんな大好きだけどね」

「じゃあ何で――「私達ですよ」――あ、あんたはっ!」

「そんなまさか!?」


 船室から現れた女に、二人は見覚えがあった。

 何せそいつとはほんの数日前まで敵同士であって、ほんの僅かな時間だが共闘した事さえあったのだから。


「お久しぶりです、青色薬剤師様、Dr.フォックス」


 綺麗に畳まれた寝間着らしき衣類の山を抱えながら現れたのは、嘗てラビーレマにてクブス残党のホリェサ・クェインの部下として暗躍、繁達と一戦交えた双子の片割れにしてヴァーミンの有資格者・小樽桃李であった。


「桃李!? 何でアンタがここに居るの!?」

「いやぁ、あの後適当なマフィアか悪徳政治家に媚びてまた小遣い稼ぎついでに組織破壊でもしようかと思ったんですが適切なターゲットが見当たらなくて」

「明確な犯罪行為を海外旅行かゲームみたいに言うもんじゃないわ」

「近頃妙に色々と物騒な事件も多くなった関係上、各国の警察機関も何かピリついてまして。えぇ、恐らく原因の三割くらいはあなた方のラジオ番組なんでしょうけど」

「いや前シーズンのあんた等も十分原因になってるよ」

「兎に角諸事情相俟って以前より迂闊に手出しが出来なくなりまして、当てもなく彷徨い続けその他諸々の紆余曲折を経た結果、デザルト・オルカ様の船内にて寝間着修繕のお仕事を頂いたわけです」

「いやちょっと、色々省略しすぎでしょそれは。あとパジャマ修繕って何?

私らが身体張ってあいつと戦ってて、繁に至っては大概即死の丸飲み攻撃喰らってる最中なのに」

「さっき死んでないって言ったのあなたじゃないですか。それに仕方ないでしょう、ヴァーミン抜きにした普段の私って攻撃力あんまり高くない方ですし。その代わり兄はあのケダモノの腹へ潜って中を調べ回ってますけどね」

「じゃああれの背中がトランポリンみたいに脈打ったのって……」

「恐らく兄の仕業かと。多分中でパスタを茹でて居るんだと思います。海鮮クリームパスタは兄の大好物ですから」

「そうなんだ」

「そもそも海鮮好きなんですよ兄は。特にエビには独特の拘りがありまして、茹でエビはマーリ・アルヌ産の安価な養殖物に限るとか何とか」

「いやそこまで聞いてないし羽辰味覚安っ! マーリ・アルヌって好適環境水使った農業的漁業で天下取ったラビーレマの内陸都市でしょ!?」

「好適環境水……?」

「あら、香織ちゃん知らないの? ヤムタ西部の山間部にある坂道ばっかりの大学が作り上げた画期的な発明品なのよ。それとその大学で人類学教えてるスキンヘッドに眼鏡の男がまた面白い授業やんのよ。そいつんとこのゼミ生も白骨見ただけで男前とか何とか言い出す奴らでね?」

「いや知ってますよ。地球(こっち)にもバリバリありますし」

「あ、そうなの?何か妙なところでシンクロするわねぇ」

「全くで――


 香織の言葉を遮るように、突如船の真横から柱状の何かが飛び出した。

 微細な砂を霧状に撒き散らすそれは、目を凝らしてよく見れば先程のテイオウスナハンザキであった。


 しかもその鳴き声は、名状し難い苦痛だとか、或いは冒涜的な不快感が混じっているようだった。


「全員構えェッ!砲撃用意!」

「ちょっと船長ー!?あん中にまだ二人居るんですけど!?」

「大丈夫ですよニコラさん。二人とも妙にタフですし」

「いやそういう問題じゃ――


 ニコラが突っ込もうとした瞬間、垂直に苦しみ悶えるテイオウスナハンザキの口の中から、マイクで増幅された歌声が響き渡った。


『グダグダかッ☆ッヘェーイ!テレレッテッテレッテーレィ♪テーレーレーレレレッレレー♪テレレッテッテレッテーレィ♪テーレッテーレッターラァィ♪』


 その歌声の主は前奏らしき音楽の部分まで口で歌っていた。


『初手から腐っても♪切り札来なくても♪使い続けてりゃ、何時か応えてくれる♪』


 その場の誰もが、その声に聞き覚えがあった。

 そもそもこんな状況下でこんな人格破綻の大盤振る舞いとでも言うべき歌詞の酷さを誇る歌を歌い出す奴の同定に、時間など掛からない。


 テイオウスナハンザキの口の中から、何処から取り出したのであろう台座のようなものに乗って現れたのは、


 我等が主人公にしてツジラジの司会を務めるDJツジラ・バグテイルこと、辻原繁だった。

読者「どういう事だぁぁぁぁぁぁぁ!?」(ディスプレイに頭突き)

傍目から見てた人「あんたがどういうことだよ!」

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