第四百三十九話 タエル
頭に"(死に)"ってつくよ
―前回より・雪原と化したエクスーシア王国―
「グゴァァァァアア!(ナ、何ァ故ダァ~ッ!?何故コノ我ガココマデ追イ詰メラレネバナランッ!?生前ノ我々(・・)ナラバ兎モ角トシテ、何故我ガッ!)」
あれから後、ジェミン・セ・ゴスタはどうしようもなく危機的で余りにも絶望的な状況に立たされていた。
身体が一つになる前(即ち生前)からの付き合いである眷属達は大勢の敵によって尽く滅ぼされていき、最早まともに戦える戦力など残ってはいない。否、残ってはいるが死に絶えるのも時間の問題であろう。
更に言えば自分自身も断じて"安泰"などとは言えず、寧ろ"傷だらけ"とか"瀕死の重体"とかいう表現のほうが明らかに適切であるような、そんな状態であった。
当然ながら勝機など見出すまでもなくそもそも存在すらしない。逆転など夢のまた夢にすら出まい。
ともすれば選択肢は"諦める"以外になく、熟考の末潔く死を選んだジェミンは、せめて痛みさえ感じないほどに派手な大技で殺される事を心から望んだ。
「(生前ノ我々ハ度ヲ越シテ愚カデアリ、ソノ愚カサガ身ヲ滅ボシタ……故ニ蘇生ノ過程デ"我々"ガ融合シ、想定外ノ過負荷ニヨル二自我ノ対消滅ニ伴いイ"我"トイウ新タナ第三ノ自我ガ生ジタ時、強ク誓ッタノダ……次コソハ道ヲ誤ルマイ、ト……ダガ結果ハコノ有様故、ドウ足掻コウト無駄ダッタノデアロウナ……如何ナル姿ニナロウト我ガ骨ハゴノ・グゴンデアリ、我ガ血肉ハ己天辿晃デアッタノダ……己ヲ忘レ、己デナイ何カニ為ロウトシタ時点デ、己ニスラナレヌ……ソンナ基礎ニ今更気付クトハ……我モ所詮、ソノ程度――
ジェミンのモノローグを遮るようにして、取り囲む者達がその巨体目掛けて思い思いの大技を放つ。
ほぼ同じタイミングに放たれたそれらはジェミンの肉体を思い思いの方法で粉砕した。彼の生涯最初で最後の願いは、無事に叶えられたのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぃ良っし!王城が見えたわ!もう一息よ、踏ん張って!」
「ェおうし!その言葉を待ってたぜィッ!」
仲間達が敵勢と激闘を繰り広げる一方、繁と香織はセルペンテ・ガヴァリエーレの固有効果によって成された大型バイクに乗り猛スピードでテリャード城への直線ルートを急いでいた。
役割としては前方の香織がバイクの運転を担当し、後方の繁が前後左右上下の全全方向から二人の行く手を阻まんと迫り来る敵兵の対処を担当する。時に爪牙虫で切り裂き、時に等打槍で薙ぎ払い(また刺し貫き)、時に溶解液で消し去り、殺害はおろか撃退さえ困難な敵の場合は回避を優先しバイクの運転をラーミャに、敵の対処を何れかの味方に任せて破殻化状態で香織を抱き抱え空に舞い上がる。この一見見た目重視のパフォーマンスめいた動きでありながらその実中々効率的な動作により、二人は着々とテリャード城へ近付いていった。
―同時刻・テリャード城内最奥部・魔術の発動準備が進む部屋にて―
「ガステ、報告を」『はい、コリンナ様。戦況は正直芳しくなく、寧ろ絶望的と言わざるを得ません。蘇生者軍団は最早死ぬものと割り切り使い捨てるべきでしょう。元々余り安定するようなものでもありませんでしたが、ここまでとは……』
「そう。それは仕方ないわねぇ」
『そちらは如何です?』
「順調よ。あと一時間もあれば魔術は完成し、世界は私の思うままに生まれ変わる……世界が私のものになり、終わりなき私の時代が来るのよ……そう、それはまさしく新たなる暦、"神聖王女歴"の始まりなのよっ!」
『いやぁ、素晴らしい。そしてそんなコリンナ様に一つ伝えたいことがありましてですね』
「あら、何かしら?今は気分がいいから何言っても許してあげるわよ」
『はい。では、少々言うのが躊躇われる内容ですが……ほんの一抓み程度ですが、敵兵が蘇生者軍団を突破しながら城に向かっています』
「なっ……!」
『如何なさいますか?』
「徹底的に迎撃なさい。倉庫に無機屍術用の人形があったでしょう?あれに蘇生者どもの魂を引っ掻き集めて向かわせなさい。敵の始末を最優先に、あるものはあるだけ注ぎ込むのよ」
『畏まりました。では――「あ、ちょっと待ちなさい」――何でしょう?』
「その……城に向かってる敵っての、どこの誰だか身元確認できる?」
『それならもう済んでますよ』
「じゃあ教えて頂戴。それは誰なの?」
『誰ってまぁ、コリンナ様もよーくご存知の二人ですよ』
「私がよく知ってる二人……って、まさか……」
『えぇ、まさしくそのまさか――貴女様に召喚されながら、礼も言わないばかりかご好意を踏みにじり恩を仇で返した挙げ句、義賊気取りで各地を荒らし回る稚拙なテログループを率いる二人組です』
次回、城に突入した二人を待ち受けるガステの"無機屍術用"とは!?