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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
最終シーズン-決戦編-
436/450

第四百三十六話 理系達の決戦:後編




どうだい?やたらあっさりしてるだろう?

―前回より・雪原と化したエクスーシア王国―


「グガ、ア゛ガァ゛……ッ!」

「おやおや、あれだけ息巻いておいて実績はこんなものですか。弱い、弱すぎる……これならまだ、生前の方が幽かにましだったのではとさえ思ってしまいますよ……」


 瀕死のラクラを右手のみで締め上げつつ、桃李は嘲るように言葉を紡ぐ。腕の力を強めるたび、ラクラは知的生物ヒトとも兎ともつかないような耳障りで聞くに堪えない――最後に残った申し訳程度の知性さえ完全にかなぐり捨て、ほぼ唯一の存在意義であった性欲さえ忘れしまったかのような――野獣が如し苦悶の声を上げ精一杯の抵抗を試みる。

 然し彼女の全身は内外揃って傷だらけであり、手足を根元から切り落とされ歯さえも全て叩き折られている為、抵抗らしい抵抗など出来るはずはないのであるが、極限状態にあって尚彼女の身体はただそれだけの意思によって突き動かされていた。


『嗚呼、何と哀れな……愛を拒み嘲ってまで肉を慕い崇めた者の末路がこんなものとは……』

「全くですよ、ねぇ兄さん。裏切り潰す為とはいえ、こんなものに仕えていたとは……嘗ての我々は今以上に滑稽だったのでしょうね」

「――!」

 断末魔の叫びはおろか幽かな声さえも上げさせずラクラを絞め殺しゴミのように投げ捨てる桃李の姿は、幻想体によって得た能力を行使したことにより、言わば"キメラ昆虫型ヒューマノイド"とでも言うべき姿になっていた。


「ぁあ……アスリン……そんな、馬鹿な……糞虫如きの小細工如きでぇっ……」


 一方そんなラクラを見事に操っていた流体種の魔術師ホリェサ・クェインはと言えば、こちらも(幸いラクラ程ではなく、喋ることのできる余裕があっただけまだマシと言えたが)全身穴だらけにされ自立もままならない程の重体であり、生前決死の思いで習得し今の今まで切り札として温存していた一生に二度とは使えない大魔術(即ち前回ラストで全身に文様が浮かび上がるもの)さえ跡形もなく消え失せていた。


「こんな、馬鹿げたことがっ……有り得ん、何故だ……我々は、確かに、死を乗り越え、最強の肉体を得た筈、なのに何故、何故貴様ら糞虫如きにぶらばぁっ!?」

 叫ぶクェインの呼吸器と全身に穿たれた穴という穴からドロドロに溶けた細胞組織が爆ぜるように吹き出した。身体にかかる負荷が限界に達し、刻一刻と死期が迫っているのである。


「おやおや、大丈夫ですか?」

「え゛ッ、ぁ゛う゛っ、お゛お゛ぁ゛っ!」

『……どうやら大丈夫じゃあなさそうですねぇ。見たところもう助かりそうにありませんし、早めに殺してしまった方が良くありませんか』

「んー……それは勿論その通りであり、私個人としても流れとしてもそうしたいのは山々なんですが」

『何か問題でも?』

「えぇ、まぁ、問題という程問題でもないのですが……クェインこいつへのとどめ、どう刺すべきか迷ってしまって……何せこの幻想体、あらゆる昆虫の形質を自身の異能として扱えますから」

『あー……それは確かに迷いますよねぇ』

「ま、蟻かゴミムシ辺りまでは絞り込めてるんですが……さっきの下品な兎ラクラは蟻の怪力で絞め殺しましたし、ゴミムシの炎で吹き飛ばすとしましょうか」

 桃李は両掌を変異させて外骨格から成る噴射口か噴霧器のようなものを成し、それらを並べて瀕死のクェインの頭蓋骨へ近づける。

「3、2、1……発射ファイアッ!」

 掛け声と共に掌から高温のガスが噴射され、クェインの頭蓋骨を周りの細胞組織ごと吹き飛ばし死滅させた。


◆◇◆◇◆◇


「っくぅっ……こんな、ことが……」


 斧を武器とする灰銀色の近接格闘型PS"アルカ・ガルデンヌ"を身に纏う飛姫種セシル・アイトラスは爆生によりミノガ幼虫となったニコラの糸によって地面に拘束されており、言わば彼女の置かれている状況は世辞にも有利とは言い難いものであった。


「ふふん、勝負あったみたいだねぇ。何かいきなり斧で斬り掛かって来られた時はビビったけれど、距離取っちゃえばどうって事はないし、糸で縛り上げでもしたらただの的……あとは十種中飛び道具に関しては右に出るものなしとさえ言われる三番毒蛾タセックモスにかかればPSの防御システムへの突貫でエネルギー切れに持ってくぐらい造作もないのよ」

「……っく……やはり、駄目、ですわ……アスル・ミラグロ……私の専用機でないと真の実力は――「いや、それは違うなぁ」――なっ!?」

 独り言へ割って入ったニコラの一言は、セシルを絶句させた。

「なッ、何を言い出しますのこの雌狐っ!それはつまり私の、或いは飛姫種の実力がその程度であると、そう言いたいのですか!?」

「いや、確かにそれはその通りだけど、私が言いたいのはそういう事じゃなくってさぁ……あんた生前むかしより蘇生後いまのが強いよ。これが初戦はじめてだから断言はできないけど、少なくとも私はそう感じたよ。多分だけどね、何にも胸張れなくたって、そこだけは胸張っていいと思うよ?」

 拘束されたままのセシルにそう告げたニコラは、動けぬ飛姫種に背を向け歩き出す。

「そんな、何を根拠に――って、お待ちなさい!何処へ行こうというのです!?」

「さあ、どこだろうね。とりあえず、苦戦を強いられてる味方の所かな。少なくともここにもう用はないし」

「用はない、ですって?出鱈目を言うのはお止しなさいよ!まだ私は生きてましてよ!?」

「うん、それは言われるまでもなく分かってる。でもだからこそ、もうここに用はないんだよ」

「……まさか、私に情けをかけているつもり?極悪非道の害虫如きが、敵に情けを?……っは、この期に及んで善人ぶるなんて、往生際の悪い畜生ですわね。地獄にも生けない癖に、天に許しを請うだなんて、何とも哀れな雌ですこと」

「……別に、情けをかけるわけでも善人ぶるわけでもないよ。まして天に許しを請うつもりもない。そもそも天は理に従う立場でありながら理を外れた行いに手を出した奴なんて相手にもしないわ。

私があんたを放置するのは、単に殺すまでもないって思ったから。より分かりやすく言うなら、時間がもったいないっていうか、もう面倒なんだよ。あんたを殺すのに放つ弾丸の一つさえ、無尽蔵の筈なのに惜しく感じてしまう。だからいっそあんたを殺そうなんて思わないことにしたの。どうせ私が手を下すまでもなく、勝手に死ぬだろうし。そんじゃね、"元"王女サマ。死ぬまでまだ結構あるだろうし、地獄で悪魔相手の言い訳でも考えてなよ」

 そう言い残したニコラは、瞬時に破殻化しその場から飛び去っていった。一方その場に取り残されたセシルは、言葉を発することを忘れ、考えることもやめ、ただただ拘束されたまま、その場に残され続ける事となる。

さてさて、作者としてはこのラストから何か気づくことがあってほしいんだけどなぁ……

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