第四百三十四話 ちじんを・さもんだ!~それでは皆様よいお年を~
年内完結ならず……然し諦めはしない!
―前回より・雪原と化したエクスーシア王国上空―
「そろそろ頃合かな……皆、出るよ。支度して」
未だ激戦の続く戦場の遥か上空に浮かぶ超大型飛行船にて部下達にそう告げるのは、少女のような外見でありながら我々(ホモ・サピエンス)からすればかなりの高齢である尖耳種の女・影山貴美。ショーンや大樹と同様にランドルフの仲間である彼女は、劇団『影貴一座』を率いる座長にして、劇団の名物である美魔女スナミ・レーマリーを初めとする劇団員達を一介の孤児或いは俳優志望者から一流の舞台俳優に育て上げた、言わば団員達の義母にして義姉、師にして長たる存在であった。
そんな一人四役を常に演じる貴美の指示を受けた劇団員達は一斉に動き出し、特有の素早い動きで装備を整え整列する。全員が欠員無く揃ったのを確認した彼女は、そんな彼ら一人一人に言葉をかけていく。
「フィスタリア、何をやっても悪く言われてばかりだったあんたの特技が漸く社会の役に立つ時が来たわ。思いっきり暴れなさい。
キシメテ、優秀なあんたなら公私の区別はつくから注意するまでもないでしょうけど、幾ら可愛いからって敵兵口説いちゃ駄目よ。っていうかナンパ禁止。
ユキノ、冬のエクスーシアはあんたにとって最高のステージの筈よ。存分に舞い踊りなさい。
セシリイラ、荒事は得意じゃないかもしれないけどこれも人々の為と思って生き抜いて。
サラ、今こそ日頃から溜め込んでる鬱憤とかイライラを晴らすのには絶好の日よ。頑張って。
フカリにラミノール、今までは演出のための偽者しか使わせてこなかったけど、今日は特別に"本物"の使用を許可するわ。
セシラン、いつもドジばかりのあんたを周囲は落ちこぼれと言うけれど、血筋に恥じない魔術師になろとするあんたの努力は絶対に実る筈よ。ラシス、兄としてセシランを精一杯助けてあげなさい。
科凛、生きて帰ってきたらお給金今の二倍にしてあげるから頑張るのよ。
スナミ、顔役のあんたに死なれたら一座は終わりよ。くれぐれも細心の注意を払って、なおかつ手を抜かずに戦いなさい。クーリー、スナミを頼むわ。この娘、そう言ったっていつもどこかで無茶しちゃうから……それじゃ、行くわよ皆。準備はいいわね?影貴一座一世一代の大舞台、全員生きて華々しいフィナーレを飾りましょう!」
かくして『武闘派劇団』として名高き影貴一座の面々は戦場に降り立つ。
―同時刻・地上―
「己が身を粉にし尚も駆け抜けるよ」
「何故貴方はそれほどまでに」
「きっとそれが自分の運命だから」
「凶相の下に隠れてる優しさ」
戦場に展開されたステージの上で二人の男女が寒空の中で歌を熱唱し、周囲では演奏家達が各種楽器を力強く演奏する。そしてそれを周囲から数人のカメラマンらしき者達が撮影し、彼らに襲い来る弾丸や敵兵を地面から生えた無数の触手が退けていく。
「嗚呼、素晴らしいわ皆……これぞまさしく戦場に咲く一輪の花――いえ、戦場へ根を下ろし豊かに実をつける大樹だわっ!有り難うございます阿佐東さん、本当にもう何とお礼をしたらいいやら……」
嬉々として触手に頭を下げるのは、先程より戦場にて音楽を奏でる者達――もとい、さる大学に在籍する軽音楽部の面々――を指揮する顧問の大学講師・成宮鈴香であった。本来なば戦と無縁である筈の彼女(及び軽音楽部の面々)が戦場などに来ているのには、あるやむにやまれぬ理由があった。その詳細は、彼女が頭を下げている陽気な触手塊・阿佐東法一(国籍・種族・性別・年齢・職業等一切不明でその名も偽名)に説明させることとしよう。
「イイってことよ。困ってる女性を助けるのは紳士として当然だし、あんたン所の理事長とかいう奴も許せねーしなァ。何度も何度も言いがかりやでっち上げで潰しに来るなんて、公人のすることじゃねーよ。そんなんまさしく筋モン、それも義理人情や仁義とは程遠いクズのやることだ。まぁお天道様の下もまともに歩けねえようなヤクザもんなのは俺もだけどよ、誓った約束も守らず反故にし続けて、挙句堅気に戦場でMV撮影してこいなんてふざけてるっての。ま、部員達もまとめて俺が守るから安心しなよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「さぁお次のゲストはこの方!若くして業界から注目を集める作家にしてプロデューサー、五藤美咲さんです」
「はいどうも。ご紹介に預かりました五藤です」
リベンに紹介されて中継カメラの前に身を躍らせるのは、四肢の他に背へ翼を供えた小柄な羽毛種の女であった。
「五藤さんは地龍種八名と有鱗種二名からなる人気絶頂の音楽グループ『ストロングザドラゴン』をプロデュースする傍ら作家としても活躍なされており、特にヴァーミン保有者やツジラジに関する書籍で人気を博しておられます。本日はどうぞ宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
「さて五藤さん。早速本題なんですが、今回のお目当てはやはり……」
「はい、勿論ツジラジ製作陣です。この戦争の中心に居るのが彼らだという噂を聞きつけましてね。彼らを追い求め、あわよくば取材を成功させるべくここへ来ました。ぶっちゃけ命がけですけど、よくよく考えたら逆に今まで仕事を口実に取材のチャンスを掴もうともしなかった私がなんだか惨めに思えてきまして」
「でも皆さん反対されたんじゃないですか?」
「そりゃ猛反対でしたよ。でもあの子達だって色々無茶してますし、そのこと言って何分か説得して納得させました。ともかく取材をしないことには帰れませんよ。これもある意味"戦い"ですから」
次回、歴代の強敵達を次々なぎ倒す!