第四百三十三話 ちじんを・さもんだ!~凄腕の二頭と一鉢~
続々参戦!
―前回より・雪原と化したエクスーシア王国―
「俺は隊長だぞ!?司令官だぞ!?ならてめえら能無しのカスどもは黙ってこの俺に従ってりゃあいいんだよ!なのにてめえらと来たら生意気に――」
刹那、雪原に低い銃声が木霊したかと思えば、何処からとも無く飛来したライフル銃の弾丸がガーノの眉間に突き刺さり頭蓋骨の上半分とその中身を完全に破壊した。一切の活力を失った死体は雪原に倒れ込み、粗い傷口からは高温故凍りつかない鮮血がどくどくと流れ出て白い雪を染めていく。
「ふゥ……ざっとこんなモンか……」
銃声のした方角から歩み寄ってきたのは、皮製のコートを羽織り大口径の大型ライフルを担いだ長身痩躯の男であった。種族は山羊系禽獣種であろうか、濃い灰色の毛皮は傭兵か生体災害応戦士を思わせる身なりに大変マッチしている。
「よゥ、お二人さン。怪我とか無エかい?」
「あ、えぇ……私達はこの通り大丈夫です」
「助けていただいて有難う御座います」
「いやァ、礼には及ばんよ。戦場てなァ、助け合いが基本だろ?ほい、名刺」
「あ、こりゃ語丁寧にどうも」
そう言って山羊系禽獣種の男は懐から名刺を取り出し二人に差し出した。
「イラストレーターのショーン・バレーさん、ですか」
「おゥ、普段は小説の挿絵とか描いてんだ。まぁ趣味と自衛を兼ねたこの格好の所為で『最も絵師らしからぬ絵師』とか言われて色々ネタにされもするが」
「へへぇ……然しそんなバレーさんが何故こんな戦場に?」
「あァ、仲間の作家に誘われてな。『噂に名高いバカ王女の軍隊を娑婆の為にブン殴んねえか』ってよ。何かお前さんの中継とか見たっぽくて」
「え、あ、有り難うございますっ」
「然しその仲間の方ってのはどんな作家で――「こんな、作家だぁぁああ!」――ぅをっ!?」
「「ヴェゲ!」」
「「ヌナァ!」」
遥か上空から雄々しく陽気な叫び声がしたかと思うと、凄まじいエネルギーを秘めた何かによってニックの背後に忍び寄っていたカニス・セルウスとスプレーマントロプス・フルーメンを細切れにしてしまった。
「……っびっくりしたぁ、一体何なんだ?」
「ま、要するに来たって事たよ。件の"作家"がな……おゥいランドルフ!こっちだ!」
「おぉ、ショーン!そこに居たか!」
豪快な足取りでやって来たのは、漆黒の防寒服に身を包んだ白い翼と大剣の印象的な竜属種の男であった。
「おう、今来た所だ」
「そちらのお二方は?」
「初めまして。フリーのジャーナリストとアナウンサーをやっております、リベン・ルゼです」
「友人の芸術家でニック・ノーザンです。以後宜しく」
「おぉ、貴殿があの中継の。いやぁ、お会いできて光栄です。俺はランドルフ・ハーロックといいます」
「ら、ランドルフ・ハーロック!?」
「まさか、『地平の旅人』の……」
「如何にも。まぁあの作品の大ヒットは――「「シゲェァアアアアアアアアア!」「クガァァァアァァァァ!」――おっといかん」
不穏な気配を察知したランドルフが手に持った大剣を塵でも払うように振り抜くと、背後から彼に襲い掛からんとしていた二頭の"ヴェロキニクス・ダンパル"が骨ごと両断された。
「全く、他人に割って入るんじゃない。そのくらい守って当然のマナーじゃあ――「ヴォゴガァァァアア!」――……やれやれ、またか」
ヴェロキニクス・ダンパルに続いてランドルフを狙い現れたのは(竜属種としては平均を僅かに下回る程度ながら)大柄な彼を遥かに上回る毛むくじゃらの巨人"オリバー・クラッカー"であった。
「……流石にこれは俺でも全身の骨が内側に折れるな」
「それはお前よりオリバー・クラッカーに相応しいんじゃねェか?ともかく何とかしねェと――「ゥゴォォォォオオオ!」――影山ァ、千堂ォ、仕事だぜッ!」
振り下ろされた拳を回避けながら、ショーンは二人の仲間に連絡を入れた。
連絡を受けたらしい二人の仲間が戦場に似つかわしくないのんびりとした返答を返したのと同時に、何処からか現れた金属製の巨大な蟹か蜘蛛のようなものがオリバー・クラッカーの上半身へ飛び掛かり、内側から飛び出した電極や刃物等を巧みに使い瞬く間にその息の根を止めて見せた。
金属製の蟹か蜘蛛らしき物体は、オリバー・クラッカーの死体が雪原へ倒れ込むより前にそれから飛び降りる。それは一見只の無人ロボット兵器にしか見えず、事実リベンとニックも『先程名を呼ばれた影山や千堂という奴が送り込んだものだろう』ぐらいに考えていた――が、そんな二人の予想は思わぬ形で裏切られる事となる。というのも、ロボットの中枢部は半球型の操縦室になっており、その中には緑色(より厳密には若草色)の何かが乗り込んでいたのである。
「いやぁ、間に合って良かった。出遅れたらどうしようかと思っちゃったよ」
操縦席が開き中から出て来た"緑色の何か"――もとい"空中浮遊するギャグ漫画チックな面構えの鉢植えサボテン"の喋りは、見た目に違わず何とものんびりしたものであった。
「えっと、あれってもしかして……」
「サボテン……だよな?」
余りにもシュールな光景に、思わず二人は面食らう。
「よくやってくれたなァ、千堂。助かったぜ」
「ニック殿にリベン殿、紹介しよう。彼の名は千堂大樹。俺が今回の戦いに誘った仲間で、仙人掌系葉脈種の漫画家だ」
「『蒼面-ブルーフェイス-』って言やァ理解るかい?」
「初めまして。『白樹液のひげサボテン』こと千堂大樹だよー。宜しくねー」
漫画『蒼面-ブルーフェイス-』と言えば『地平の旅人』程ではないにせよカタル・ティゾルの六大陸に広く知られる作品であり、二人も名前と大まかな内容くらいは知っていた。
故に、二人の口が暫く開いたまま塞がらなかったのは言うまでもない。
次回、知人モデルの増援があと三人出ます!