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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン3-イスキュロン編-
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第四十三話 だから私は彼を信じたい



大砂漠の激戦!

―前回より―


 砂の海を舞台にした人と獣との戦いは第二段階へと突入していた。

 それまで船上から遠距離攻撃を行っていた機銃班・砲撃班・魔術班を下がらせ、船に接近してきたテイオウスナハンザキの背目掛けて近接班と採掘班が飛び乗っていく。


 近接班がおのおのの武器でテイオウスナハンザキを攻撃し、その隙に採掘班は外皮に発生した岩石や透き通った塊を採取していく。

 それら「砂漠の鉱物資源」の産出場所は、例えば体の表面であったり、外皮と化した砂岩の中であったりする。


 砂岩からなる硬い外皮を鈍器で打ち割り引きはがすと、スナハンザキ本来の強靭かつ柔軟な皮膚が露出する。

 変態に伴って発生する砂岩の外皮は繊維質の粘液により固定され、以降成長するにつれて発生する隙間を新たなる砂と粘液が補うように形成される。しかしその内部には両生類特有の柔肌が未だに残されており、ゴムの様な弾力と強度を誇ってこそいたが、乾燥と刃物には滅法弱いのであった。


「せェア! ッラぁ! ウェイォアッ!」


 近接班として背中に乗る繁もまた、先程の攻撃で砂岩が砕けて露出したテイオウスナハンザキの柔肌十数箇所を不規則かつ的確に切り付けていた。両手甲鉤の素早さと槍の長いリーチを巧みに織り交ぜた連携に一々無駄に軽快なステップが加わり、本来なら切り傷程度ものの数秒で完治してしまう筈の再生力が追い付いていなかった。

 というのも、繁の溶解液がその再生を妨害していたからなのではあるが(しかも溶かし方がまた繁らしくて不快極まりない)。

 暫く経ち、テイオウスナハンザキがその丸太型の身体を大きく縦にうねらせる。幾人かは背中に貼り付いたり各々翼や飛行装置などで空中に逃げる事でどうにか逃げおおせるが、船員の殆どは砂の海に放り出されてしまう。


「アンカー射出!」

「間に合って!」

 逢天の指示を受けた船員達が砂漠に落ちた近接班・採取班に向けて特殊な救助用アンカーを放ち、それらを手早く釣り上げる。あぶれた何人かは香織の魔術で救い出され、結果的に死傷者は皆無であった。

 逢天はすぐさまテイオウスナハンザキの動きが妙である事に感付き、船外の船員達に船へと戻るよう指示する。繁もそれに続いて飛行装置で戻ろうとする(ヴァーミンの有資格者である事を明かすと不要なトラブルを招きそうで嫌だった為破殻化はしたくなかった)が、ほんの一瞬出遅れてしまう。

 そして次の瞬間、テイオウスナハンザキの筋肉が素早く脈打ち、繁は空中高くへ跳ね上げられてしまう。


 逢天が自ら救助用アンカーを放ち、香織が救助用の魔術を放った刹那――ヒゲクジラのように大きく砂中から跳び上がったテイオウスナハンザキの口が大きく開き、繁を丸飲みにした。


「!!」


 逢天他、船員達やニコラまでもが絶句する中、半ば無関心とも取れる表情を浮かべるのは他の誰でもない、繁の従姉妹にして相方の清水香織ただ一人。

 あまつさえ、

「何やってんのよあのバカ……頭良い癖にバカなんだからもう。

二十歳になってもあのバカは……」

 等と言い出す始末。

そんな事をはっきりと言ってしまったものであるから、当然反感を買わないはずがない。

「ちょっと待って香織ちゃん! それは流石に洒落とか冗談ってレベルじゃ済まされないよね!? イトコ同士とはいえ人としてどうなの!?」

 ニコラを皮切りに、群集心理に乗せられた船員達は口々に香織を罵り始めた。その罵り言葉というのは殆どが『人間のクズ』だの『死ね』だの『自分が今生きていることに恥や罪を感じたことはないのか』だのと、感情任せかつ支離滅裂なものであり、その事に馬鹿馬鹿しくなったニコラすら怒るのをやめてしまうほどだった。

 しかしそれでも船員達の勢いは静まるところを知らず、遂に船員の一人がこんな事を言い出した。

「そうだ! こんな人でなしは船から放り出してやろうぜ! 大いなるミガサ・コルト様も、こんな薄情者の魔術師には裁きを下されるはずだ!」

 この発言で完全に一致団結した船員達は、早速香織を縛り上げようとする。流石のニコラもこれは当然止めに入ったが、同罪にされて逆に捕らえられ、香織共々船から放り出されそうになる。

 完全に縛り上げたところで、言い出しっぺの男が言う。

「よぉぉぉぉぉおおおおっし! 縛り上げたか!? それじゃ早速この根性無しの卑怯者共を――「いい加減にしなよあんた等ぁっ!」

 船員達の暴挙を見かねた逢天の怒号が、その場の空気を一変させた。

「その内自分達の愚かさに気付いて自然消滅するだろうと信じていたのに、黙って見てりゃあ一体何だね!? 感情任せに喚き散らしたかと思ったら、今度は法廷の裁判官気取りとは! あんた等それでも義と愛と哲学に生きる誇り高きイスキュロン民かい!? このデゼルト・オルカの一員としての自覚が、ミガサ・コルト号のクルーとしての覚悟があんのかね!? 何が大いなるミガサ・コルト様か! 非力な女を寄って集って縄で縛り上げ、この灼熱の砂漠に放り出そうなんてそんな卑劣な行いが、ミガサ・コルト様の御心に叶うとでも思ってんのかい!? 馬鹿を言うんじゃないよ! 確かにその女の言ったことは酷いだろう! 死人を罵るなんて人として最低だ! だけどもね、その女が何を言おうが何をしようが、今ここであんた等がその女をあんた等の独断で裁いて良いなんて事は決してないんだ! 例えその女がこの場で私を殺そうとも、それをあんた等が独断と感情に任せて裁いて良いわけはないんだよ! あんた等は法官でもなければ政治家でもないし、ましてや天上の神でもない、只の私の部下だろうに! 身の程を弁えな! 身の程を! 何時も言っているだろう! 『何にしても下手に出なさい。自分が一番下だと思って努力しなさい』と! 何で船の操縦や機関銃の扱いが判ってそれが理解できないかね!? そもそもその女だけならまだしもあんた等、最初は見方だった筈の女医先生まで最終的に悪者にして殺そうとしたろう! 何て馬鹿なんだい! 感情に流されすぎなんだよ! 第一女医先生がその女に言ったのは、冷静な視点からの説教だったけれど、あんた等のは揃いも揃って馬鹿丸出しの暴言だったじゃないか! あんた等みたいのが居るから、ヤムタの貴族共やなんかからイスキュロンは脳味噌が豚肉で出来たような馬鹿共の集まりだなんて言われるんだよ!」

「しかし、船長――「お黙り! 兎も角あんた等は他人の話を聞かなさすぎる! あと状況の判断も遅い! 何時も何時も感情任せに突っ走って歯止めが利かなくなって、そうして事を荒立てたりするんだ! ……これは別にあんた等が嫌いで言ってるんじゃあ無いんだよ。嫌いなら説教なんてせずに撃ち殺してるさ。それもこれも全て、あんた等が大切だから言ってる事なんだ。その辺り、判っておくれよ」

 説教を終えた逢天は、船員の一人に香織とニコラの縄を解くように命じ、香織に聞いた。

「ところで香織さん、見て話した所じゃあんたは年の割にかなり賢そうだ。

さっきの言葉だって、深い意味も無く思ったとおりに言ったなんて事は無いんだろう?」

「はい。私は彼の従姉妹ですから、付き合いももうかれこれ10年以上になります。だから私は、あの辻原繁という男がどんな人物なのか、この場では他の誰よりも理解しているつもりです」

「そうだろうと思ったよ。それじゃあ、聞かせてくれないかね? さっきの言葉の、真相って奴をさ」

次回、垣間見える二人の絆!

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