第四百二十七話 ミカタクル
ここぞという所で再登場を決めたのは、あの男!
―前回より・雪原と化したエクスーシア王国―
「天雷波!」
獣じみた恐ろしげな叫びに伴って虚空に生じた電撃が海神教の信徒を十数人ばかり焼き殺したのを皮切りに、一同を取り囲んでいた軍勢に混乱が広がった。各軍勢の指導者は取り乱し騒ぎ立てる兵士達を何とか落ち着かせようと奔走するも、それらは却って彼等の混乱を煽り立ててしまい、結果として敵勢は暫しの撤退を余儀なくされることとなる。
「ふむ、ひとまずの危機は去ったか……」
「海神教ノ糞雑巾兵共ガタッタ十五、六人死ンダ程度デ取リ乱シヨッタカ!」
「群れを成す生き物には用心深い種と臆病な種の二通りあるという事だ」
上空にて滞空しながらそう語らうのは、雄々しい声の主である中年男と獣じみた恐ろしげな声の主――もとい、アクサノ大陸はセルヴァグルにて児童養護施設『コチョウラン』を運営する熊猫系禽獣種の林霊教神官・供米磨男と、恩師である彼を背に乗せた巨体の竜属種・ライコーダであった。
「さて、一旦降りるぞライコーダ」
「了解シタ」
―地上―
供米を乗せたライコーダは巨体に見合わぬ素早さで静かに雪原へ降り立つと、彼らは挨拶もそこそこにこれまでの経緯を語り出した。
「いやぁ、実は"例のもの"が予想外に早く用意出来ましてね。その事を念話でお伝えしようとしたのですがまるで繋がりませんでな。最初は術の不調かとも思ったのですが、生まれつき魔力に敏感なうちのネモが『どうにも不自然だ。何かあったに違いない』と言うものですから術で探知をかけたのですよ。生死問わず対象者の現状を確認できる類のものでね」
「ダガ探知ハ成功シナカッタ。ソコデ本格的ニヤバイト察知シタ神官ハ、急遽アル男ヲ頼ルベクヤムタノ大国型月ヘ飛ンダノダ」
「その男ってまさか……」
「そう、かの国が世界に誇るとまで言われた情報機関『ポクナシリ』の創設者であらせられるキムンカムイ総帥です。まぁその場へ直接行く事は叶いませんでしたから、ひとまず彼の知人である十日町晶様の邸宅へ向かったのです」
「ふむ」
「結果から申し上げますれば、交渉は円滑に進行し私は無事総帥との面会を許されました。然し驚かされたのは、そこへ辿り着いていたのが私だけではなかったということです」
「と、言うと?」
「言葉ノ通リダ。神官ガ行ッタ十日町トイウ女ノ家ニハ、既ニ色ンナ奴ガ集ッテタンダヨ。皆、オ前等ヲ心配ガッテタソウダ」
「マジかよ。他の奴らは兎も角俺はそんなタマじゃねえと思ってたんだが……で、具体的にはどんな奴が?」
「それは黙っていてもこれから分かるでしょう。何せその場に居合わせた方々は全員――十日町様と邸宅の侍女二人までも含めて――揃いも揃って総帥から皆様の居場所と事の詳細を聞き出すや否や蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの故郷へ舞い戻り、助太刀に向かうべく諸々の準備に取りかかったのですからな」
「ソレハ俺様達モダロウ、神官ヨ」
「まぁそれはそうだが仕方あるまい。何せ皆様は我等の街を救って下さった恩人であり、そうでなくともこの世の危機だというんだ。馳せ参じねば林霊の名が廃るというものよ」
「ダカラト言ッテアノ桐生トイウ女ニ飛ビ蹴リカマスコトハナイダロ」
「あの時は気が動転しとったんだ。そも、外したのならばノーカウントであろう?」
「つくづく不憫ねあの女……ところで『何れ分かる』とは言いますが、供米神官は教え子のライコーダ君と二人だけですか?」
「いえいえ、そんなことは御座いません。退役済みの前英傑と一部の兵だけですが、防衛隊の方々にもお越し頂いていますよ。我々が先人を切って飛び込む役回りでしたので、もうそろそろ来るかと思いますが――ほら、来たようです」
供米が大空を見上げれば、そこには確かにアクサノ航空防衛隊のものと思しき航空機の影が見えた。更に地上を陸上防衛隊の車両と海上防衛隊のホバークラフトが敵勢の一部を襲撃しているらしいような音も聞こえてくる。
「ふふん、そうか……増援か……こりゃあ一気に心強え。有り難う御座います神官殿、あなた方のお陰で命拾い出来ました!」
「お気になさるな!先程も申し上げましたが、我等はツジラ殿を始め皆様に恩義のある身の上!この場での助太刀は通すべき筋を通しているに過ぎません!」
かくして一同は混乱から立ち直り突撃する敵勢を迎え撃つべく、夜の雪原を走り出す。
次回、愉快なコンビ痛恨のミス!