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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
最終シーズン-決戦編-
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第四百二十四話 屍術者ガステ





"超屍術者級のバカタレ"の正体とは……

 北西の魔術大陸ノモシアはエクスーシア王国の中央に聳えるテリャード城。その地下深くに広がるのは、暗く広大で簡素な地下室。そこは嘗て古来より王家付きの魔術師や神職者達が儀式や魔術の実験を行う為に用いてきた神聖なる空間であり、同時に王家に仇為す国賊や罪人を収容・処刑する為の簡易牢獄兼処刑場でもあった。然しそれは最早過去の話であり、現在はその存在さえほぼ完全に――まるで最初から存在しなかったかのように――殆どの者から忘れ去られ、存在を知るごく僅かな者さえ多くを語りたがらないという有様であった。

 ならば取り壊すなり埋めるなりしてしまえばいい筈なのだが、生来の信心深さが拗れに拗れた結果未だに"悪霊アクセレタルの祟り"などというものを大真面目に信じてしまっているエクスーシア民が"その昔大勢の罪人が処刑された地下施設"などというものに進んで近付くことはなく、今現在もその地下室はただ存在を徹底して隠蔽されているだけであり、決して消えうせてなどいないのである(因みに悪霊アクセレタルは他大陸どころか他国でさえも"悪漢めいた性格ながら正義の心に目覚め改心し神格となった"との説が一般的であり、現在も悪霊であるとの説が有効なのはカタル・ティゾル広しと言えどエクスーシアだけである)。



―前々回より・テリャード城地下室・通称"禁忌の闇"―


「進み具合はどう?」


 小型の魔力燃料式ランプ以外に明かりのない地下室にて、焼け爛れた顔面を仮面で覆い隠した少女――エクスーシア王国正当王位継承者である王族直系の純血神性種コリンナ・テリャード――は、地下室の床に座り込み作業を続ける配下の屍術者ティキ・ガステ(山椒魚系半水種の青年)に語りかける。


「はい。各工程はさしたる問題も不具合もなく進行中――有り体に言えば順調です。霊界への強制介入におびただしい数の蘇生対象等、不安要素が凝縮されたような計画でしたが、それ故無事成功させられた事を喜ばしく思います」

「素晴らしいわガステ。成功させたばかりかそんな心配までしてくれるだなんて、貴方は本当にいい部下よ」

「勿体無きお言葉にございます」

「でもねガステ、これだけは言っておくわ。私の計画に穴はなく、それ故に失敗なんてないのよ。そう、今回の蘇生魔術だって貴方の才能と私の計画があったからこそできたこと……」

「勿論そのことは承知の上にございます」

「偉いわね、ガステ……それじゃ早く、仕上げにかかりなさい。総てはテリャードの永久なる栄華が為に」

「総てはテリャードの永久なる栄華が為に」


 屍術者ガステと合言葉らしきものを交わしたコリンナは、転移魔術で音もなくその場を後にした。同時に前後上下左右の壁面という壁面を埋め尽くすように描かれた呪文式の円陣や文様が怪しく光りだす。


「呼び掛けに応じいざ降り立て……かの虫螻を憎悪せし魔物達、今こそ再起の機を与えん……」


―同時刻・テリャード城内―


「静かなものね、本当に……ついこの間までの喧騒が嘘みたいだわ」


 自身以外に誰もいない城内を一人彷徨いながら、コリンナは独り言を口にする。


「いいえ、違うわ。寧ろその逆……そう、この間までの喧騒こそ真っ赤な嘘だったのよ。私は図らずも、今まで嘘の中で生きることを強いられてきていたんだわ……」


 魔術で空中を浮遊しながら、コリンナは何やらわけのわからない(或いは俗に言う"中二病"めいた)独り言を口走る。傍目から見れば(この手の作品が総じてそうである事と作者の恣意的な記述も相俟って余計に)痛々しいことこの上ないが、本人はこれで大真面目なのだから仕方がない。


「でももう大丈夫よね……私は今を以て嘘から解放され、真実へとたどり着くことができたんだもの……きっともう二度と、嘘へと戻ることはないわ……そう、私はやっと自由になれた……」


 ただでさえおかしな点だらけの本作そのもの以上に突っ込み所満載なコリンナの言動についてはこの際放置したい。とは言えこいつの痛々しい独り言はまだかなりの間続く上にそれ以外描写することもない為、ここは一先ず殆どの読者が疑問に思っているであろう事柄――則ち、何故テリャード城からコリンナとガステ以外の有機生命体が消えたのかということ――について言及させて頂こうかと思う。


 単刀直入に述べるならば(コリンナとガステ以外の)テリャード城に居た有機生命体はコリンナの仕組んだ魔術によって一瞬にして身体の自由を奪われ、ガステの発動した大魔術を発動する為の莫大な魔力エネルギーの供給源にされ細胞一片はおろか衣類さえ残さず消滅(則ち実質的に死亡)してしまったのである。


 城そのものが(中央スカサリ学園やクロコス・サイエンス程ではないものの)極めて巨大であった為か巻き込まれた被害者の総数も尋常ではない。

 具体的に挙げれば清掃員・調理師・庭師・司書・芸者・技術者・警備員・医師・魔術師・その他雑務担当等の使用人及びそれらを指揮・統括する立場にある諸々の者達からコリンナの教育係にと住み込みで雇われた各種学問・芸術・武術等の専門家、並びに城内で鑑賞や権威誇示を目的として飼育・栽培されていた世界各地の動植物多数(総じて血統書付き最高級品種・国際法規によって保護指定を受けた希少種・天文学的確率でしか産まれ得ない特異個体の何れかであり、その約三分の一は許可なき者の採取・捕獲・飼育や国外持出はおろか生息地への立ち入りさえ禁じられている種)から食用・騎乗用・鑑賞に養殖されていた家畜各種、屋根裏の鼠や調理場のショウジョウバエ、畑や果樹園の作物、花壇の植物郡及びそれらを中心とした生態系を成す――草本から地虫、細菌に至るまでの――あらゆる生命体、空気中及びコリンナの身体に棲息する共生細菌(何故かガステのそれは例外的に術へかからなかった)、そして城に暮らしていたコリンナの親族と、まさに常軌を逸した無数の生命がただの一度きりしか発動できない大魔術の為に失われたのである。


 然し思い出して欲しい。今回発動されたこの魔術とは、コリンナ・テリャードという少女の壮大な企みに於いてまだ下準備の段階に過ぎないということを。

次回、最終決戦開幕――かと思ったら、エクスーシア王国がとんでもない事に!?

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