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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
最終シーズン-決戦編-
421/450

第四百二十一話 世界の危機よ、ようこそ




脱出しようとしたけれど……

―前回より・謎の一室―


「さて……と。とりあえず脱出――の、ま、え、に……部屋物色してみようか。主に使えそうな物とか、服とか……」

「お召し物をお探しですか」

「えぇまぁ、素っ裸にこんな薄っぺらい病衣一枚じゃ寒いし軽はずみに色々見えるしで色々と問題ありますし、せめてまともな服を着たい所ではありますね。冗談抜きで切実に」

 ベッドから這い出て辺りを物色せんと立ち上がった香織の背後から、成人済みであることは明らかな若い女の声がした。しかし部屋の探索に夢中な香織は図らずも本来驚くべきであろうタイミングでその声へ普通に受け答えをし、会話を成立させてしまう。

「そうですか。それは大変ですね……そうだ、もしよろしければお召し物をお持ちしましょうか?」

「え?いいんですか?」

「勿論です。では少々お待ちを。すぐ転送させますので」

 香織の背後に立った女が何処かへ連絡を入れると、その十数秒後彼女の手元には洗い立ての衣類――下着に肌着インナー、リブ生地の縦筋セーターにロングスカート、防寒コートにハイソックス――とスノーブーツの入ったプラケースが転送されていた。

「どうぞ」

「これはどうも有り難う御座います。履き物までご丁寧にすみません」

「いえ、お礼には及びません。ここの関係者として当然の事をしたまでです」

「へぇ、ここの関係者の方なんですか。それは丁度良かった。ちょっと聞きたいことがあるんですけどー」

「何でしょうか?私に答えられる事ならば大概何でもお答えしますが」

「重ね重ね有り難う御座います。では率直に――あんた何者です?」

「今更それ聞きます!?」

「ええ、今更ですけどね。あと此処が何処かとか、私が何故此処に居るのかとか、家の前を取り囲んでた特殊部隊っぽい奴らは何者かとか、あんたの目的が何なのかとか、その他諸々、前回から起こった諸々の出来事について知ってること洗いざらい吐いて下さい。さもないと――」

「(この状況でメタ発言……この女、やはりただ者ではないな……)さ、さもないと……どうすると?」

「あんたをふんじばってこいつを嗾けます」

 そう言って香織が何処からか(というか異空間から)取り出したのは、今し方急ピッチでディゴーンに用意させた乾麺の束ほどもある数匹の海棲蛭であった。

「……わかりました、お話ししましょう」


 女が話した事を要約し箇条書きにすると以下のようになる。

・腰までの黒いストレートヘアを棚引かせた容姿端麗な20代後半から30代辺りのヤムタ系霊長種と思しきこの女の名は桐生時子キリュウトキコ。何れかの国家または大陸を統括する巨大公的機関が非常用に擁する特殊部隊の指揮者であるという(詳細は機密情報である為明かされず)。また、香織の自宅を取り囲んでいたのは彼女の部下である。

・今香織と時子がいるこの施設はノモシア某所に存在する特殊部隊の総本山である。他のツジラジ製作陣もそれぞれ別室で丁重に保護している。

・彼女の目的はツジラジ勢に一介の視聴者として依頼をすること。投書では確実性に欠ける、機密情報漏洩の危険性がある、上層部へツジラジ製作陣と接触する正当な口実を設けねばならなかった等の諸事情によりこのような手段を取らざるを得なくなってしまったが、時子及び彼女の部下に敵意はない。解放しろというのならそうするが、せめて依頼内容だけでも聞いて欲しい。冷血そうに見えて切実な彼女の口ぶりに何かを感じた香織は、その話に耳を傾ける。

・時子の話によれば、事の発端は二週間前。彼女と同じ公的機関に属する小型無人偵察機がエクスーシアのテリャード城上空より白の屋上にて不穏な動きを見せる王女コリンナの姿を捉らえた。偵察機を見付けた途端慌てて攻撃魔術で撃墜に来た点から彼女を怪しんだ機関は本格的な捜査を開始。結果、テリャード城内部にて着々と準備の進む恐るべき陰謀の存在が判明する。

・コリンナが準備を進めていた陰謀とは『神性種の王族に伝わる禁断の大魔術によりカタル・ティゾルを滅ぼし自らの思うままに作り替え全てを支配下に置く』という、何から何まで常軌を逸したものであった。

・『そんなものは所詮法螺や妄言だろう、一々騒ぎ立てる事などあるまい』とは誰もが思うだろう。然し残念なことに、神性種には一般人ならば法螺妄言で済むような事象をも容易く現実のものとしてしまえる程の魔力と技術を持ち合わせている。それが王族級ともなれば幾ら幼いとは言え(準備にはかなりの時間と手間を要するが)世界規模の大災害を起こす程度の事も決して不可能ではないのである。

・ともすれば世界の危機であり、時子の所属する機関は早急にコリンナを暗殺するなりテリャード城を空爆するなりしてでも陰謀を食い止めねばならないのであるが、役人や公僕の腰が重いこともまた世の常である。時子の所属する機関の上層部もまたその例に漏れず、連日屁理屈をぶつけ合い責任を擦り付け合いの繰り返しで一向に問題解決に動こうとしない。

・そこで時子は決意した。こうなれば自分がどうにかするしかない。然し自分もまた機関の人間である以上下手に動けば立場が危ない。ならば『高い実力を誇り法に縛られない者達』をテリャード城に向かわせればいい。そう、たとえばツジラジとか。

・かくして彼女はツジラジ製作陣という犯罪者の身柄を拘束するという口実により彼らを対人麻酔銃で仕留め、接触を図ったのである。因みに香織が全裸に病衣一枚という出で立ちにされていたのは施設に運び込んだ時点でかなりの汗をかいていた為であり、他意はないとか。


「へぇ、そんなことが……」

「世界は崩壊の危機に瀕しています。上の者が動かず、外部へ情報を流すこともできない以上頼れるのはあなた方のみ……どうかお力添えを……」

「あー、頭上げてください桐生さん。大丈夫ですよ。ちょうど次はテリャード城を攻めようって話になってましたし、少なくとも私は構いません」

「有難う御座います……どうお礼をすればいいものやら……」

「ひとまずこれから着替えますので、他の皆に合わせてくれませんか。報酬は全員揃ってから話し合って考えます」

「わかりました」

 かくして着替えを済ませた香織は、時子に連れられ仲間達と合流することとなる。

次回、全員での話し合いで決めた報酬とは……

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