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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
最終シーズン-決戦編-
420/450

第四百二十話 翌日に清水誘拐(サラワレル)




翌日、買い物を済ませ家路を急ぐ香織だったが……

―前回より・翌日の昼前・雪の雑木林―


「女を 分け隔て無く 敬う紳士でも~壁の染みは~迷わず拭き取~るだろう~♪

男を 立てる淑やかで 清楚な乙女でも~きっと河豚の内臓~は綺麗さっぱり棄てるさ~♪」


 今夜開かれる送別会の為にとあれこれ買い込んだ香織は、よく判らない歌詞の歌を口ずさみつつ大振りな買い物袋を提げながら家路を急いでいた。冬場の寒帯故木の葉は枯れ落ち地面には向こう臑に達しようかという程雪が積もっており、リブ生地縦線セーターの上から防寒コートを羽織りロングスカートにスノーブーツという、それなりに本格的な防寒ルックの香織も(元々温暖で冬場雪の殆ど降らない南西地方出身故か)時折寒さに身を震わせていた。


「(っぅーさッぶー……暖房とか日差しとか警戒して少し薄着で来ちゃったけど、やっぱ厚着した方が良かったかな……兎に角早く家に戻って暖まんないと……地球に戻ってからだって色々やることあるんだし)」

 凍えながら家路を急ぐ香織の目の前に、身内にしか通じない自宅への目印である、何故か折れて垂れ下がったまま何年もその状態を維持している木の枝が現れる。着実に自宅へ近付いている事に少し心を躍らせながら徐々にペースを速めていく。

「あっと少し……あと少しで家に、家に……家――……に?」

 それから少し歩いた香織は、自宅まであと50mという所で俄には信じがたい光景を目の当たりにし、思わず絶句。咄嗟に"それら"の視界に写り込まぬよう、魔術を使うことも忘れて音もなく近くの適当な茂みへと隠れる。

「(何なのよ、あいつら……服装からして軍か警察の特殊部隊みたいな格好だけど……)」

 香織が独白モノローグで述べた通り、"それら"――もとい、彼女の自宅を取り囲む数人の人影は、軍部の特殊部隊らしき身なりをしていた。ともすればそれが公的機関の手の者であることは想像に難くない。だが問題はそこから先――彼らが何故香織の自宅を取り囲んでいるのかという事であった。

「(考えられる仮説は……ああ、一つしか思い浮かばない。やっぱり派手にやりすぎた所為でどっかから足がついて住所特定された?となると他の皆はもう逮捕さパクられてる?それで問答無用に牢屋へぶち込まれて拷問とかされたりしちゃうわけ!?エロ同人みたいに!?或いは抜きゲーか、よくモバイルサイトの端っこにあるウザい広告で宣伝してる漫画みたいに!?)」

 香織は不安の余り慌てふためき困惑するもどうにか冷静さを保ち、何とかその場から離れようとする。

「(兎に角この場をどうにか切り抜けない――とッッッ!?」

 が、その時点で彼女は既に出遅れていた。香織が擬態の魔術を発動しようとした瞬間、彼女の肩へ先端に細く鋭い針を備えた透明な樹脂管が突き刺さったのである。

「な……これ――って……まさ、か……」

 細い針は厚手のコートからセーター、インナーに至るまでの衣類を容易く、しかし無理なく貫通し、圧縮ガスの力で樹脂管内部の液体を香織の体内へ注射していく。その物体を見た瞬間液体の正体をも見抜いていた香織だったが、それに対処できなかったばかりに意識を失った。


―同時刻・某所・人気のない山道に停められたトラックの車内―


「班長、NEb-57に反応がありました」

「よし、確認に向かわせろ。ターゲットならば即刻確保だ」

「はッ――野外官制室より各班。NEb-57に反応あり。近隣の班は確認を急げ」

『E6班より野外官制室。了解。至急現場へ急行します』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「E6班より野外官制室。確認完了しました。照合の結果がリストにあるターゲットの一人と合致」

『でかした。即刻ターゲットを回収、本部へ帰還せよ。丁重に扱え、傷一つ付けるな』

「了解」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「野外官制室より各班。作戦は終了。至急本部へ帰還せよ。繰り返す。作戦は終了。至急本部へ帰還せよ」


―目覚め―


「……っ……ん……」


 目が覚めると、そこは病室らしきベッドの上だった。一先ず起き上がった香織は手始めに自身と自身の周囲を見渡す。


「ここ……どこ……」


 朧げな意識がはっきりしてくるにつれ、彼女の能内に眠る記憶が呼び起こされる。


「……――!そうだ、自宅うちの周りを特殊部隊みたいな奴らが取り囲んでて、やばそうだから魔術で隠れて逃げようとしたら肩に対人麻酔弾喰らっ――……!?」

 そこで改めて自身の身なりを確認した香織は一瞬ながら思わず絶句した。彼女の着ていた衣類はいつの間にか――防寒着からインナー、更には下着までも――根こそぎ剥ぎ取られており、現在の彼女は全裸に薄手の病衣一枚という出で立ちだったのである。

「は、え、ちょ、服ッ!何でこんなッ!?」

 麻酔で眠らされている内に全裸に剥かれていたという事情は香織を混乱させるに十分であった。そして彼女の脳裏に、こういった状況で最も失うべきでないある持ち物の存在が浮かぶ。


「てか、"輪"っ!"列王の輪"は!?精霊の皆は無事!?」


 もしあれを奪われていたとしたら、洒落にならない弱体化を強いられてしまうだろう。必要最低限の自衛能力は備わっていようが、未知の場所である以上何が待ち受けていても不思議ではない。

「っていうか精霊達が可哀相だって……」

 香織は慌てて床の中に埋まった足を引き寄せる。もし奪われていたら一大事も一大事、戦闘能力以前に心細くてやっていられない(そしてまた、それは精霊達も同じであろう)。だが幸いなことにそれは所謂杞憂というものであった。"列王の輪"は、奪われることなく彼女の足首に装着されていたのである。

「良かった……でも念のため、列王十四精霊みんなと交信しとこ……」

 香織は足首に装着された"列王の輪"に意識を集中させ、精霊達との意志疎通を計る。

「以下に名を述べる者よ、我が前に来たれ。

蒼剣の騎士、アルトゥーロ。

覚醒せし獣、クーラン。

信念の献身、諏訪部。

悲哀の魔女、メーディエイ。

聡明なる賢蛇ケンダ、ラーミャ。

入り混じる巨躯、ヘルクル及び巨躯の導き手、マイタ。

折れざる刃、ミキシ。

猛る支配者、クラダイウス。

霧をも貫く槍、グライト・ヴァンリー。

真龍帝、アメイウス。

荒ぶる深淵子爵、ディゴーン。

覇道王道の体現、アレクス。

万物を戟とする手、ロット及び手傷の癒し手シンガ。

幾千幾万の影、アダーラ。

以上の者よ、我が呼び声に応じ賜え……」

 危機的状況だというのにやたらめったら長ったらしい香織の詠唱が届いたのか、精霊達との意志疎通は無事成功。香織が最悪の事態を乗り切った事に安心する一方、クラダイウス以外の十五名は口を揃えて『さっきの無駄に長い詠唱じみたものは何だよ?あれ別に要らんかったろ』という旨の突っ込みを入れたという。

次回、香織を攫った人物の正体とは!?

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