第四百十七話 戦うゲスト様-決着-
遂に決着!
―前回より・聖地平原―
「チト予定は狂ったが打ち合わせ通りやるぞ!連中の肉片一つさえ残すんじゃねーッ!」
「行くのです貴方達!我が栄光の為に戦いなさい!兄や姉の敵を取るのです!」
前回終盤より勃発した最終決戦は、まさに混沌を極めていた。辿晃は戦力補充として胴体下部に発生した合計二十の管状触手から白い球状の卵らしき物体を次々と放出。まさに受精卵のような物体であったそれらからは、彼女が最高傑作とまで崇めながらその実あっさり殺されていった"アポストルス"の小型版とでも言うべき生命体が次々と孵化。中々に侮れない戦闘能力を誇るこれら生命体の登場は一同の予定を狂わせる事となる。
「邪魔だボケェェェェ!」
「吹っ飛べァアアアアア!」
「……切り刻まれよッ!」
「冥土の土産だ、奇跡を見せてやろう!」
「気分いいワぁ~昔を思い出しちゃうッ!」
「痛みを噛み締めて学べ!」
「命の価値と生の尊さを!」
「学ぶ程の脳が無ければ!」
「「「死して大地に還るがいい!」」」
とは言え予定の狂いは想定の範囲内でもあった。と言うのも鎗屋悪鬼衆やクアル・ハイルの面々、更にはザトラやランゴ、エリヤ、リューラ、バシロ、璃桜といった、地上戦や対多人数戦が得意な者達で十分に対処可能だった為である。一部の面々は力の配分をしくじった為か召喚システムの限界により早くもカタル・ティゾルから消滅してしまっていたが、彼らの残した戦果は消滅の早さに反して凄まじいものであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「はッ!せいッ!」
「ッラァァァッ!」
「へぃやァッ!」
量産され続ける小型アポストルスの駆逐は四方八方から辿晃へと続く"道"を拓く。それを堂々と突き進み道すがら会うあらゆるものを殲滅していくのは、チームさとてん勢や強化人間夫婦等の"対辿晃"として(即興故"意気込み"や"雰囲気"等の至極単純かつ適当な基準により)選ばれた者達である。
然しながら単純かつ適当な基準によって選ばれたとは言えそこはやはり百戦錬磨のセンスを誇る実力者達。その猛攻は辿晃を尽く圧倒しつつあった。
「【激情雷電破陣!】」
「【冥渦孤球突】!」
「ウァバアアァァッ!?」
チームさとてんの代表者・風間大士と参謀・多可聡子による電撃と消滅エネルギーによる凄まじい攻撃が、辿晃の触手によって成された分厚い壁をいとも簡単に突き破る。
「どうだクソババア!思い知ったか!」
「ッ……く……はァっ……!」
どちらも渾身の一撃であった為既に体力は限界に達しており、大士の声は掠れており、聡子に至っては声さえ出せないでいた。
【……ぁ……聡子……ちゃん……】
【……ごめん、大士……私達、今ので限界……】
その疲労は当然ながら二人に力を貸した玲瓏と宵闇にも及んでおり、二人の意識は今にも飛びそうだった。
「気にすんな玲瓏……もうこれで十分だ」「閻魔……殿もだ。あと、は……然るべき……者達に……任せ、よう……」
「そういう訳だから……頼んだぞ、辻原ぁっ!」
全力を尽くした四名は、先に消えていった仲間の後を追うようにカタル・ティゾルから消滅した。
「……任せとけ、必ずカタぁ付けるぜッ!」
破殻化しサシガメの化け物となった繁は、凄まじいスピードで二人の穿った道へ向かう。
「香織、生徒会長の位置に変化はねぇか!?」
「大丈夫!動かそうとは思ったらしいけど、念のためにと臓器内容物固定の魔術かけといたのが役に立ったわ!」
「おっしゃあ!ンなら行くぜ老害グロニートォ!」
「ウァァアアァァ!」
激戦の中、最早ヒトの言葉を話す事さえ忘れた辿晃は迫り来る羽虫を何とか撃墜せんとする。しかし繁の溶解液は触手や腕はおろか光線さえも溶かすというわけのわからない強さで辿晃に一切の抵抗も許すことはなく、そのお蔭か彼の行く手を阻むものはあって精々大気程度のものであった。
「(待ってて下せェ生徒会長、今お助けしますからよって!)」
女体型器官の鼻先数十センチまで接近した繁は翅を閉じ空中で大きく仰け反るように振り被り、辿晃の導体へ彼女の体組織だけを溶かすように――最早塊と言っても差し支えない程に大量の――溶解液を吐きつけた。
「イギア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
溶解液により胴体を大きく抉られたことで如何にも化け物然とした悲鳴を上げる辿晃の傷口から、意識を失った状態でその体組織に埋め込まれているエリスロが姿を現した。それを確認した繁は、すぐさま自身の遥か背後で待ち構えるフォルティドラコネムに叫ぶ。
「今だ!引き寄せろ!」
【来たかッ!】
合図を悟ったフォルティドラコネムは、すぐさまセンチピードの能力を意識のないセルジスに行使し手元に引き寄せようとする。ともすれば辿晃は当然エリスロを捕縛しようと躍起になるわけだが、そうはさせじと繁が妨害。結果的に取り逃がしたことで不死身同然の再生能力を失った彼女を攻撃班が見逃すはずもない。何時消滅するかわからない異界民などは、特に。
「零華、こうなりゃ自棄だ。"アレ"使うぞ……」
「了解……"アレ"ね」
【(何かよくわかんねーけどヤバそうな流れだなオイ……)】
【(二人とも大丈夫かしら……今にも死ににいきますみたいな表情してるけど……)】
【(普段押しの強いガラン様とアイル様が口をつぐんでいる……だと……!?)】
辿晃の足元に立った亜塔と零華は剣(ネタバレ防止につき名前は伏せる。気になるなら『獣道-白ノ刹那-』をプレイするかプレイ動画を見ろ)の切っ先に有りっ丈の力――気のそれというより、自身の生命力そのもの――を込めて身構える。
「曲刀風月流……」
「三の太刀ッッ――」
「「死星ッ!」」
剣士達が技名を口にし剣を振るうのと同時に、建物一つを丸ごと崩壊させかねない凄まじい白光が辺り一面を一瞬のみ昼間同然に照らし、ロコ・サンクトゥス平原の大地をクレーター状に抉り辿晃の胴体を約七割五分以上――周囲に居た小型アポストルス諸共――跡形もなく吹き飛ばし、同時に技の発動者である亜塔と零華もまた――『やった』程度の一言を残す暇もなく――跡形もなく消滅していった。
「お見事……あとは俺達に任せてゆっくりしろや……」
二人の壮絶な最期を見届けた繁は、異界民が残らず消滅したのを確認し仲間や協力者達に呼び掛ける。
「そろそろ仕上げっぞ!」
その一声に集められた一同は、あらゆる力を失い哀れな肉塊生物と成り果てた辿晃目掛けて各々の全力を投じた大技を一斉に放つ。
ともすれば辿晃に残された選択肢は――断末魔の叫びを上げる事さえ許されない程の――確実な"死"の他になく、砕け散った塊は肉片一つ、体液一滴さえ残さず跡形もなく消滅した。
かくして南半球の大陸エレモスで起こった一連の戦乱は一先ずの終幕となったのである。
次回、エレモス編最終話!