第四百十四話 戦うゲスト様-奇跡の目覚め:後編-
力の正体とは……
―前回より・聖地平原―
《お気を確かに御嬢様。貴女様はもう一人ではありません》
突如ケラスの脳内へ響き渡ったのは、震える彼女に優しく語りかける清楚で丁寧な若い女の声であった。しかし、唐突に何処からともなく響き渡った得体の知れない声の存在は彼女の混乱を余計悪化させるばかりであった。
「え、あ、なに、貴女、誰!?」
《おっと、これは失礼。申し遅れました、私貴女様の――「いや、何名前聞いちゃってんの私!いやぁあああああっはあぁ~!何かいるぅぅぅ~!」
《いや、ちょっと――「っ!?お、おいケラス!どうした!?何が起こった!?」
《御嬢様?いいで――「あ!ジゴールさんッ!助けて下さい!何か、どこかからわけわかんない奴の声がするんです!」
意を決したバシロの問いかけに、どうにか混乱状態から立ち直ったらしいケラスは必死で応答する。
《いや、あのですね御嬢様、私は――「どっかからわけわかんねぇ奴の声だと!?」
《あの、他の皆様もよく聞いて下さいまし。私は――「おい、どういう事だ!?私らにゃ何も聞こえねーぞ!なぁお前ら!」
リューラの呼び掛けに、他の殆どの者達が首を縦に振る。ただ一人柵木だけは心当たりがあるらしかったが、記憶が曖昧であった為か面倒臭がって皆に同じ首を縦に振った。
《あれ?おかしいな――「えぇ!?そんなっ!こんなにはっきり聞こえてるのに、まさか幻聴!?無理して戦争に出たショックで頭おかしくなっちゃったの私!?」
「落ち着けケラス!大丈夫だ、お前はどこもおかしくなんかねぇ!」
かくして益々騒ぎは大きくなっていく。そしてここで謎の声の主はある仮説に至る。
《(まさかこの声、御嬢様以外には届いてない?)》
それは紛れもない事実であったが――
《(いやいやまさか、そんなわけないでしょ。ちゃんと設定3にしてあるし、まさか私が自分自身の設定を誤るなんて……でもだとしたら何故こんなことに?やっぱり声が聞こえてないって事なのかしら……)》
暫く考え込んだ声の主は『何らかの不備が生じたのかもしれない』と(いうある意味正解である)結論に至り再び音声機能の設定コマンドを開き、自らがボタンの番号を押し間違えていた事に気付き慌てて修正。漸く当初の目論み通り自身の声をその場へ響き渡らせるに至るが、混乱は余計酷くなる一方で声の主は名乗れもしないまま揃って混乱する初対面の相手を十人以上も宥める作業に追われる事となる。
《さて……何か混乱させてしまってすみませんね。改めて自己紹介をさせて下さい。私の名は丸藤。カドム・イムの一人によって作られし『電脳銀竜鍵』を管理する人工知能です》
その事実は一同――特に当人であり事情へ深く通ずるケラス、リューラ、バシロ及び元クロコス反乱軍の六名といった面々――にとって大変衝撃的なものであったが、以後彼女の語ったこれまでの経緯はその遥か上を行くものであった。
というのも丸藤(の宿った電脳銀竜鍵という武器)は、何と瀕死のケラスを蘇生させるべく執り行われたサイボーグ化手術(厳密にはそれ以前の体組織代替機関製造工程)に際して何らかの手違い(及び、銀色で角張ったボールペンのようなサイズと外見)からサイボーグ化した彼女に組み込まれてしまっていたというのである(そもそも如何にしてサイボーグの体組織代替機関製造工程にカドム・イムの作った武器である電脳銀竜鍵が混入したのかという話であるが、これについて丸藤は記憶がないという)。
かくしてパーツと誤認されサイボーグに組み込まれてしまった電脳銀竜鍵は長きにわたり機能停止に追い込まれ、丸藤はその間ずっとシステム復旧の為奔走していたという。そして努力の甲斐ありシステムは復旧、すんでの所で固有効果を発動しグゴンを始末するに至ったのである。
「成る程。つまりあの時の光は……」
《固有効果を発動する際、色々と余計なものまで動かしてしまったようでして。本来ならああいうことにはならないんですけどねぇ》
「まぁいいじゃねぇか。お前っつう心強い相方ができたんだしよ。なぁ、ケラス?」
「うん。どう足掻いたって私が素人なのには変わりないし、専門的な知識や技術のあるパートナーがついていてくれるっていうのは本当願ったり叶ったりだよ」
《おぉ、それは心強い。作り主より『お前はいつ何時でもお前自身にとって最適の持ち主に巡り合えるだろう』と告げられながらそれを心のどこかで疑っていたのですが、初めての持ち主が貴女で本当に良かった……これからもどうぞよろしくお願いします、御嬢様》
「こっちこそ宜しくね、丸藤さん。武器の扱いとかまだよくわからないから、色々教えてもらわなきゃならないこともたくさんあるだろうし」
かくして新たなる力と頼もしい相方を得たケラスは、戦いを終えてから送るであろう"第三の生涯"について思いを馳せる。
次回、遂に辿晃との最終決戦!
必殺奥義"テヌキフ・ルボッコー"炸裂なるか!?