第四百十三話 戦うゲスト様-奇跡の目覚め:前編-
それは唐突に……
―第四百五話以後より・聖地平原の一角にて起こった一連の出来事に関するアンズの独白―
何もかもがいきなりで唐突過ぎました。正直なところ、今も何が起こったのかよく理解出来ないでいます。然しながら確かなことがないわけではありません。
第一に、私達はあのあと信じ難い実力を発揮したゴノ・グゴンによって追い詰められ絶体絶命の危機に陥るも、何らかの奇跡的な出来事が起こったことによって窮地を脱し生き延びることができたということ。
第二に、その"何らかの奇跡的な出来事"によってゴノ・グゴンは一瞬にして惨殺されたということ。
そして第三に――これだけは例外的に不確かかつ私的な推測を含みますが――ゴノ・グゴンを惨死に至らしめた"何らかの奇跡的な出来事"には、我々と戦線を共にし、グゴンと戦っていた"ある人物"が深く関わっているであろうということ。
その人物とは則ち――
―視点交代・対鬼人特殊部隊桃太郎組構成員"次峰の猿"こと源玲―
――ケラス・モノトニン、だっけ?
あの、ハロウィンとかお化け屋敷でコスプレしなくてもよさそうな外見の割におっとりしてて大人しい、紫色した女の人。確かあの黒い奴の妹分だっけ?まだ100パーセント断言できるわけじゃないけど、グゴンが死んだことには間違いなくあの人が絡んでるんだと思う。どうやったのかはまるでわからないけど、でもあの瞬間私は確かに見たの。あの人と向かい合ったグゴンが――
―視点切り替え・筋力特化型強化人間の亜塔―
――真っ裸になる所を、RKに加えて竜の魂を借り受けたお陰でかなり視力の良くなったこの両目でな。それは本当に一瞬の出来事で、零華や俺の撃つ残光のよりもっと強い光で視界を奪われはしたが、俺はそれでも見たんだ。機関銃や大砲、レーザーガンに手下ロボの格納庫まで揃ってる鉄でできた奴のアーマーを根こそぎ引っぺがされて、頭のでかくなりすぎた不細工なツチノコみてぇな姿で地面に叩き付けられる様をな。
それと今思ったんだが、アーマーを"引っぺがす"ってのはニュアンス的に間違いかもしれない。どっちかと言やぁ寧ろ――
―視点切り替え・敏捷性特化型強化人間の零華―
――"吸い取る"って感じだった。まるで塵や埃が掃除機に吸い取られていくように、あいつの身体を覆ってた鎧は単純に剥がされるだけじゃなく、物凄い引力でどこかの"ある一点"へ引き寄せられて収束していくような"吸引"。うちの夫みたいに大きくて抵いようのない――例えるなら、ブラックホールみたいに圧倒的な力。
そしてその"ある一点"に居たのはきっと――
―第四百五話より・聖地平原―
「……は――ぁ――……何――これ……」
未だ夜明けの来ない乾いた大地にて、"ハロウィンやお化け屋敷に仮装が不要そうな外見の割に温厚な女"ことケラス・モノトニンは、困惑の余りただ呆然と立ち尽くしていた。
彼女の眼前には、機械の鎧を失い無力かつ無抵抗な状態で惨殺された無足獣脚類が骨や皮、各種臓物がついた肉塊となって無造作に転がっている。また"傷口"――というよりは"切り口"からは血が流れ出し、空を映す鏡面を成す。それはあまりにも凄惨かつ常軌を逸してショッキングな光景であり、今回が実質的な初陣であり本来は戦闘に不慣れな(がらも、自身を救ってくれたバシロやリューラを、また何ともくだらない動機から先人達の尊い命を奪い、ハルツの心を弄び、クロコス・サイエンスを好き勝手に利用し尽くしたグゴンに対する怒りや敵意を心の支えとすることで精神に余裕を持たせ正気を保っていた)ケラスは、事態の発生が唐突であったこともあり混乱状態に陥ってしまっていた。
「そんな……何が、こんな――どうして、そこまで……嘘、冗談……これは夢――な、わけは――でも、だとしたら――私は、一体……」
混乱の余り支離滅裂な言動を繰り返すケラスを他の者達――特に彼女を実妹のように可愛がっていたバシロ――はどうにか救ってやりたいと心の底から思ったが、同時にそう思う誰もが錯乱し今にも感情を爆発させそうになっているケラスを下手に刺激してしまうことを恐れ手を出せずにいた――と、その時である。
《お気を確かにお嬢様。貴女はもう一人ではありません》
突如ケラスの脳内へ響き渡ったのは、震える彼女に優しく語りかける清楚で丁寧な若い女の声であった。
次回、ケラスに語りかけるこいつは何者なのか!?