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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
410/450

第四百十話 戦うゲスト様-迦陵頻伽は美しく啼く-





決着!

―解説―


迦陵頻伽カリョウビンガ』とは、美しい女人の上半身に鳥の腕(翼)と下半身を持つとされる、仏教上の幻獣である。サンスクリットに於けるカラヴィンカ(kalaviṅka)の音訳であり、『阿弥陀経』では共命鳥とともに極楽浄土に棲息するとの記述がある。

 この美しい鳥は卵生であり、受精卵の中で肉体が成された頃から(即ち、目が開くどころか産まれてもいない内から)鳴き声を発するのだという。その声は非常に美しく、仏の声を形容するのに用いられる。この声故"妙音鳥"や"好声鳥"、"逸音鳥"、"妙声鳥"という別名を持つ。また、日本では美しい芸者や花魁おいらん、或いは美声を誇る芸妓の称号としても用いられる。

 一般に迦陵頻伽の描かれた図像は極楽浄土を表すとされ、同時に如来の教えを称えることを意図するという。中国の仏教壁画などには先に述べたような半人半鳥で表されるが、日本の仏教美術では翼を持つ菩薩形の上半身に鳥の下半身という姿で描かれてきた。敦煌の壁画には煌びやかな姿で空を舞う姿や、或いは何らかの楽器で音楽を・・・・・・奏でている姿(・・・・・・)も描かれているという。


―前回より・聖地ロコ・サンクトゥス平原―


「(――……大丈夫、私ならやれる……やるしかないなら、やりきれるッ!)」


 記憶を失った若き音術士は確固たる覚悟と信念の元に弦を爪弾き、奏でられる音色と精神を同調させ秘められた力を研ぎ澄ませていく。

 これを見た上空のパトリオータは最初こそイオタの全身より発せられる"未知のオーラ"に気圧される様子を見せたが、すぐに『勝機がない事を理解し血迷っただけだ。何も恐れる事はない』と判断。何時も通り無限に再生する刃が如し羽根を地上へ降らせるが、それらは全てイオタの放つ音波によって打ち砕かれてしまう。

【エェッ!?何ナノヨアイツ!?私の羽根ヲ地上ヘ到達スル前ニ砕クナンテ、マトモジャナイワ!】

 負けじとパトリオータは降らす羽根の量を増やし続けたが、それらは全てイオタの音波に砕かれ、スプレーマントロプスへと姿を変える性質はおろか武器としての機能さえ失ってしまう。楽天的で状況を軽視しがちなパトリオータがこれに危機感を覚えるのと同時に、イオタの内包する"気"のエネルギーはありありと対外に溢れ出す。激しいオーラとなって一瞬ばかり膨張したそれは次の瞬間彼女の背とギターに収束される。

「……浄土の神鳥騙れ我羽撃かん、浄土の神鳥騙れ羽撃かん……」

 イオタが歌を口ずさむにつれ、集約されたギターは黄金色の光に包まれ一体化。背には青白い光によって成される鋭い翼――よく見ればその形状は符尾はたを外側に向けた状態で向かい合い外側へ45度傾けられた二つの16分音符であった――が生じる。

「……我が左眼サガン開かれん。我が左眼開かれん。我が左眼開かれん――我が左眼へコウ在れッ!」

 その一言と共にイオタは大空へ勢い良く飛び上がる。これぞ彼女の一族・蘭羽家に伝わる対鬼人音術の真髄(と、思われるが情報不足につき詳細不明)・迦陵頻伽カリョウビンガである。

【ナ、何?何ヨ?何ナノヨッ!?アレハ一体何ダッテ言ウノヨッ!】

 名実共に"光り輝く神鳥"或いは桃太郎伝説に於ける"雉"と化し急上昇するイオタの姿を見たパトリオータは取り乱し狼狽するもどうにか平静を保ち、迫り来る少女を迎撃すべく刃の羽根へ弾丸が如し速度をつけて撃つ・・。しかしイオタは白い壁か膜のように降り注ぐそれらを音波によって一枚残らず――仮に放置したとしても自身には当たらず地上へ落ちていくであろうものまで――木端微塵に打ち砕く。

【ヒィィイッ!?アタシ自身デスラ数エ切レナイグライ沢山放ッタ羽根ヲ残ラズ道具モ無シニ粉砕デスッテ!?本当何ナノヨアイツ!只ノ革ジャン着タパンクロッカー気取リダト思ッテタノニ、話ガ違ウジャナイノヨウ!嫌ァァァァン!】

 刃型の羽根さえ通用しないなら、最早自分に何ができよう。敗北を悟ったパトリオータは途端に全速力で逃げ出したが、暫く飛びつづけてふとあることに気付く。

【(チョット待ッテヨ、アタシノ武器ハ何モ羽根ダケジャナイジャナイ。歯ノ生エ揃ッタコノクチバシヤ、三本ノ足ニ生エタ爪ダッテ立派ナ武器ノ筈ヨ……ソウヨ、コレデアイツヲ引キ裂イテヤレバイインダワ!)】

 勝機を見出だしたパトリオータは、逃げるフリをして十分に距離を取り、追ってくるイオタを自らの爪と嘴で迎撃せんとする。

【(サァ、無惨ニブッ壊レテ死ヌガイイワ――)】

 そして上空で向き直って尚直進を続けるイオタ目掛けて、パトリオータは脚の爪を勢い良く振り下ろす――が、しかし。

【アギィァッ!?】

 破壊されたのはイオタではなく、パトリオータ(の脚)であった。それは傷口は内部からの作用によるものであり、桃太郎組の面々はそれが音術によるものであることを即座に理解できた。

【ギ、ヒ、イ゛ッ、ア゛ァ゛……コレシキノ、コトォォォォォ!】

 しかし諦めの悪いパトリオータは残る二本の脚をもイオタ目掛けて振り下ろす。当然それらも音術により破壊され、彼女の脚は三本揃って無惨に破壊されたまま垂れ下がりどくどくと血を垂れ流すだけのものになってしまった。こうなっては最早地上に降り立つ事さえできないのであるが、それより何よりパトリオータにとって重要なのはイオタが無傷であるという、その一点であった。

【(何デアタシガコンナ目ニ……イヤソモソモ、何デコイツガ無事ナノヨ……何デコイツガ……何デコイツガァアアアアアア!)】

 自棄になったパトリオータは、最期の武器である嘴を眼前のイオタ目掛けて振り下ろす――が、それは少女の身を裂きも音術によっての迎撃もされず、ただ虚しく空を切る。

【!?】

 見ればパトリオータの視界にイオタの姿はない。というのも彼女は迦陵頻伽の力を行使した反動から空中で気絶してしまい、現在は光の翼も意識もないまま渡り鳥でも飛ぶのを躊躇うほどの高度より落ちている真っ最中なのである。

「ッ!やばい、麗!早く!」

「任せて!」

【逃ガスモンデスカァ!】

「させんッ!」

 ガリバーハンドに騎乗した麗が、落下するイオタを回収に向かう。脚を失ったパトリオータも苦痛を堪えながら負けじと急降下するが、聖羅が咄嗟に差し向けた浮遊型犬神の群れに妨害され麗に先を越されてしまう。そこに来て地上への長時間降下が自身の不利に直結すること、並びに今ならば羽根を止められる者が居ない事を悟った彼女は再び上空へ舞い上がらんと四枚の翼を羽撃かせる。

「しまった、あのクソ鳥また逃げる気だぞ!」

「ならば仕方ない……麗、イオタを守れ!」

「了☆解」

「犬丸、聖羅と理華を抱えてここに乗れ!」

 そう言って高雄が差し出したのはソレンネ・パッツィーアの両腕であった。聖羅と理華を抱え上げた犬丸が『おっしゃ!』と意気込んでその上に乗りしゃがみ込むと、高雄はそんな彼を抱え、上空へ舞い上がるパトリオータの真下へ移動する。

「え!?何!?何すんの!?」

「安心しろぃ、それほど酷い事にはならん……多分」

「多分!?多分って何!?っていうかこれ――」

 事前に段取りを知らされていない理華は困惑するが、理由を聞く暇もないまま高雄は犬丸を垂直に投げ上げ、同時に犬丸は獣の筋力をフルに活用しソレンネ・パッツィーアの掌を蹴って垂直に跳躍する。

「良し、犬丸!そろそろじゃろう!投げい!」

「よしきた!」

 ある程度跳び上がった所で聖羅からの指示を受けた犬丸は徐に理華の背を掴む。

「ちょっと、聖羅さん!?犬丸!?何やってんの!?一体これはどういうこと!?」

「詳しくは後じゃ。とりあえず今はあの白髪鵲シラガカササギを仕留める事だけ考えい」

「いや詳しい事情があるなら今説明して下さいよ!」

「面倒じゃけえパス。つーか流れから察せい」

「酷い!」

「んじゃ、投げるぞー」

「え、ちょ、っまッ――わぁぁぁぁぁぁああああああ!?」

 かくして上空の犬丸により更に垂直方向へ投げ上げられた理華は、あれこれ考える余裕もないまま上昇を続けるパトリオータと対峙する。

【ハッ!?エ!?何事ォォォォ!?】

「っだぁもう!こうなったらやれるだけやってやる!」

【アンタ、マサカアノ足ガ妙ニ太イ剣士ノ小ムス――「誰が赤毛大根よぉぉぉぉぉ!」――ピョゲラァァァァァッ!?】

 降り抜かれた妖刀"鬼斬"は、パトリオータに『そこまで言ってない』という旨の独白をする余裕すら与えぬまま彼女の身体を両断した。

次回、ウィクトル戦!

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