第四十一話 さんどおーしゃん☆しっぷす
第三シーズン遂にスタート!
次の舞台となるのは、義理人情の根付く砂漠の軍事主義文化圏・イスキュロン!
―前回より―
次なる便りからイスキュロンへ向かった三人は、港街で別行動を取っていた。というのも、このイスキュロンという大陸、ノモシアやラビーレマとは勝手が違う。
乾燥帯の軍事主義社会という表現こそ簡単だが、大国デザルテリアを始めとする主要諸国を除いた大陸の殆どは粒子の極めて細かい砂からなる砂漠で成り立っている。
この砂はまるで液体のようであり温度も高い為、並大抵の生物に歩行を許さなかった。そこで砂漠のオアシスを拠点とする原始イスキュロン民は、海上の小島が如し隔離のされたオアシス間を移動するため、砂上船という船による独自の移動手段を確立させた。動力も人力や風力の他、砂中に棲息する動物を飼い馴らしたものから、学術や魔術に起因するものへと変化していった。
時代が進みノモシアやラビーレマを始めとする他の文化圏との交易が始まるにつれてそうした傾向はより強まり、同時に大陸そのものも高度な文明を持ち、独自の崇高な哲学と国民の性質を重んじる思想を根底に据えた軍事主義社会へと成長を遂げていたのである。
現時点で三人がそれぞれ担当する事柄をまとめると、以下のとおりとなる。
ニコラ:移動先での宿泊施設等の確保。今回はかなりの長期戦が予想される為、安価かつ上質な宿の確保が望まれる。
香織:目的地へ向かうための砂上客船と航路情報の確保。生憎メンバー内に砂上船の運転免許を持っている者は居らず、安易に他の方法で移動するのも躊躇われる為、宿同様安価で性能やサービスの安定したもの。
繁:届いた便りの中から、今回放送分で読み上げるものの選定。及び目的地や中継地点に関する情報の確保の他、全体的な活動計画の調整等、全面的な雑用を担当。
この内、仕事が思いのほか速く終わったニコラは早急に繁と合流。仕事を手伝いながら適当な雑談に興じていた。
「それで、今回は何所に行くんだっけ?」
「香織が戻ってきたら色々と買い揃えて、14時には砂上客船でデザルテリアを目指す。遅くて明日の夕方には首都ゴーヴィーで買い物と情報補完だな」
「そういえば今回、長旅にしてはやけに荷物減らしたよね。まぁその分手持ち軽くて助かるんだけど、何で?」
「何でってお前、今回は現場の気候が圧倒的に違うんだぞ? 俺らで用意出来る備品はどれも亜寒帯・温帯での使用を考慮されてた。大学のフィールドワークで砂丘になら行ったが、正直砂漠地帯なんて人生で初めてだ。ネットやハウツー本で情報集めるにしても少しのしくじりが大惨事に繋がらないとは言い切れんだろうが」
「香織ちゃんの魔術でガードしてもらえば?」
「それも出来ない事は無いが、出来れば奴には魔力や体力の消費を抑えていて欲しい。俺達はまだヴァーミンの保有者だが、香織はただの人間に過ぎん。もしかしたら環境に耐え切れず体調を崩したり、毒蛇毒虫の類にやられんとも限らんだろうが。そう考えると、現地で乾燥帯での使用を想定して設計された装備や食料を購入したほうが、安全性は高い」
「なるほど。70年以上生きてる私でもそこまでは知恵が回らなかったよ」
「しゃあねえしゃあねえ。俺みたいなガキは無駄なところで頭が回ったりするんだよ。……っと、香織の奴も戻って来てんな」
「暑いのに普段着でよく走れるよねあの子。しかもあんな笑顔維持したまま」
「昔からそうだったんだよ、あいつは。何か無駄なところで生命力高くてな」
駆け寄って来た香織は、何故か汗をかいた様子が全く見えなかった。
「お待たせ~。船の方確保してきたよ~」
「おう、お疲れさん」
「おっつ~」
「いやぁ、大変だったよ。値段関係なく何処も予約一杯でさ。でも一つ、凄く頑丈な最新型なのにガラガラの船があってね。受付で聞いたら管轄じゃないって言われて、試しに乗組員の人に聞いてみたら無料で乗せてってくれるって」
「おい、それ違法な船じゃねぇのか? 賊とか密猟者とか」
「マフィアとか環境右翼とか、カルト系じゃないの?」
「私も気になって近くの警備隊詰め所で聞いてみたんだけど、街興しの為に組織された民間団体なんだってよ」
「民間団体?」
「そ。砂の海に眠る希少な鉱物資源を採取するのが目的みたい」
「鉱物ねぇ……そんなもん、ヤムタやラビーレマの奴らが採り尽くしてそうなもんだが」
「それで、その団体の名前は?」
「確か、『デゼルト・オルカ』だった筈。丁度2時半頃から船を出して採掘に向かうから、それを手伝ってくれるなら無料で乗せてってくれるって」
「成る程。つまりツルハシ振り回したり、猫車押したりすればいいのね」
「現場の警備とか、負傷者の救護とかな。この辺りは砂の海に適応した動物が多くて、肉食性の奴は人喰いもザラだっつうし」
「いよっし、それじゃ決まりだね。出港はさっき言った通り14時半頃だから、それまではゆっくり出来るよ」
「んじゃ早速、色々買い揃えに行くか。幾ら鉱物採取だろうとこんな装備じゃ、色々と不便だろうしな。軽いのだけでも持って行く価値はあるだろうよ」
かくして準備を済ませた繁達は、民間団体デゼルト・オルカの砂上船に乗り込んだ。
次回、デゼルト・オルカの船で繁達を待つ者とは!?