第四百九話 戦うゲスト様-深紅の鬼神、渾身の一撃-
残るアポストルスはあと三匹!
グゴンや辿晃含めるとボス五体!
微妙に多いけどまあ何とかなるって(楽観)!
―前回より・聖地平原―
『ウルァアア゛ア゛ア゛!ガァアアア゛ア゛ア゛!』
【ヌゥン!何トイウ怪力ッ!シカシ私ヲ倒スニハ至ラナ――グボラァアアア!?】
火炎とそれに伴う高熱を操るアポストルスの一匹・サルワートルと激戦を繰り広げるのは、火炎の属性を有する筋骨隆々で全身の皮膚が熱せられた鉄のように赤い鬼が如し外見をした精霊・イフリート。けいむ市民アリシス・エルクロイド率いる精霊軍団の中でも取り分けパワフルで豪快な性格ながら古文書に『草鞋のような面構え』等と書かれてしまう等苦労性でもある彼は今現在、それこそ火炎のように燃え盛る凄まじい闘志に任せ、主達の命を脅かす白磁のような肌のバケモノと格闘戦を繰り広げていた。
「スゲェなあの赤マッチョ。最初はそこいらに居るような鬼頭種と変わりねーとか思ってたが……」
「いざ蓋開けてみれば吃驚仰天、物理的な意味で何処までも暑苦しいあいつの熱気を物ともせずに延々とプロレスやっちゃうんだものねぇ」
【いやぁ高宮さん、あれはプロレスではなくキックボクシングですよ。だってパンチしてるでしょう?】
【いいや違うぞ三入ッ!あれはキックボクシングというより総合格闘技だッ!】
「イフリートはそんな格闘技とかやってないと思うよ?」
【何!?では奴のあの型は我流だというのか!?しかしだとしたら奴は何とも筋がいいなッ!異界民でなく私が存命中であったなら奴をスカウトしていた所だったろうにッッ!】
「つーかあいつに任せっきりでいいのかよ」
「いいも何もあいつに近寄れるのがイフリートだけなんだからしょうがないでしょ」
「だったら他のに加勢すればいいんじゃないの?何で私らここで突っ立って駄弁ってるわけ?」
「すみませんあかりさん。僕としてもそうしたいのは山々なんですが、あの怪物が手強い所為かアリシスも不安定なもので迂闊に動けず、そもそもイフリートさえ何時疲弊で倒れてしまうか解らない状況で――【グォロアァアアアアア!】――!?」
不安がるシルナスの声を遮るように、突如苦しみ悶えるサルワートルの声が響き渡る。見ればイフリートの正拳により腹に大きな亀裂が走っていた。
【ッガ、ハ、ナ、馬鹿ナッ!体温ガ、体温ガ下ガッテッ!マサカ貴様、先程ノ一撃デ私ノ炎熱嚢ヲ――『ッラ゛ァ゛ッ!』――ブボガッ!?】
炎熱嚢なる臓器への度を超したダメージから高熱を生み出す能力を失ったらしいサルワートルの顔面へ、イフリート渾身の助走付き張り手が叩き込まれた。サルワートルが大きくのけ反りバランスを崩すのと同時に力を使い果たした様子のイフリートは満足げな面構えのまま地面に崩れ落ち、赤い光の流れとなってアリシスの元へ戻っていく。
「お疲れ様、イフリート……」
「本当お疲れ様だね……」
「ところであいつはどうなったの?死んだ?」
「いや、まだ死をでなはいみたい。イフリートの話じゃ、あいつのお腹を殴った瞬間辺りから熱気が消え失せたみたいなんだけど、あいつ自身はまだピンピンしてるって」
「つまりアレか、あとは俺らで始末つけろと、そういう事か」
「そういう事だね」
「ふぅん……なら行きましょうか、イフリート君の努力を無駄にしないためにも!」
かくして奮起した八名は炎熱の力を失って尚凄まじい戦闘能力を誇るサルワートルと激闘を繰り広げ、多少苦戦を強いられるもこれを討ち取るに至るのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【クハハハハンッ!マサシク"手モ足モ出ナイ"ッテ奴ヨネェ!可笑シクッテオ腹痛イワァ!】
源玲を除く対鬼人特殊部隊桃太郎組の面々と高い飛行能力を有するアポストルスの一匹・パトリオータとの戦いは、相も変わらず面白がって本気の舐めプ("相手を舐めきった戦法"の意味)を続行するパトリオータが優勢であった。
「クソッタレェェェ!もうこれでこいつら相手にすんの五十回目だぞ!」
「いや犬丸よ、五十回ではないぞ。五十五回じゃ」
「余計酷えわあああああああ!」
「ヌナァァァァ!」
「ニナァァァァ!」
上記のやりとりを見て頂ければご理解頂けると思うが、戦況は相変わらずパトリオータが羽根を降らし、その一枚一枚がスプレーマントロプスとなり、地上に置ける桃組の面々がそれらを駆逐するのと同時にパトリオータが舞い降りて適当に攻撃、また上空に戻るという流れの繰り返しであった。桃太郎組の面々はあらゆる策を練りこれに対応しようとしたが、変わった事と言えば精々スプレーマントロプスを素早く一層できるようになったくらいで、パトリオータへ直に何か影響を及ぼす事は出来ずにいた。
『一刻も早く戦況を変えねば、このままでは全員が疲弊し殺られかねない。だがどうすればいい?』
一同が危機感に駆られ精神的に追い詰められていく中、半ば博打同然の行動を起こすべく覚悟を決めた者が居た。桃太郎組最強候補として名高き謎めいたギタリスト・蘭羽イオタである。
「(鬼が出るか蛇が出るか……こうなったらもう、やるしかないッ!)」
決意を固めたイオタは、視力の失われた自らの左眼を封じている眼帯を取り払いギターを構える。
「い、イオタ?あんた一体何する気?」
「開眼くのよ……迦陵頻伽の隻眼をね」
「「「「「な!?」」」」」
それを聞いた途端、五人は絶句した。
「ちょっとイオタ、正気なの!?アレってまだ完全にコントロールできてない危険な代物じゃない!」
「でもやるしかないでしょうが。あのウザい鳥を仕留めるには、こっちも鳥になるしかない」
「然しなぁ、イオタよ……」
「幾ら何でも伴うリスクが……」
「ましてここは非常識な奴の考えた非常識な世界、下手をすれば恐ろしいことになりかねんぞ……」
「危険であることは百も承知です。ですがここでやらねば私達は全滅しかねません……」
かくしてイオタの確かな決意を聞き入れた一同は、作戦変更に打って出るのである。
次回、第四百十話「戦うゲスト様-迦陵頻伽は美しく啼く-」お楽しみに!