第四百三話 戦うゲスト様-同時多発対巨大戦、開幕!-
開幕そのものは前回終盤でしてるけどな!
―前回より・聖地平原―
「哀れなもんじゃのぅ、スミロドゥスよ。現代SF小説の帝王と呼ばれる名作『地平の旅人』……その主人公であるギルティア・ループリングより種小名を授かりながら、斯様なまでに落ちぶれようとは……嘆かわしき事よな。最早笑い話にもならん」
一人息子の鬼王と部下のエスカ及び遥の三名を連れ、辿晃により蘇生された(際の追加強化によりフォルティドラコネム同様その気になればヒトの言語も話せるようになった)雌の肉食獣スミロドゥス・ギルティアの眼前に立ちはだかり高圧的に言い放つ。若返りの所為か些か迫力には欠けていたが、外見や声量に依存しない確かな威圧感はスミロドゥスにも届いているようだった。
【何が言いたいのです、矮小なる白竜よ。私のどこが哀れであると?『我が生は義と使命に在り』……この世に生を受け、こうして生まれ変わって尚その揺るぎなき信念を貫く私の生き様は、まさしくかのループリングそのものではありませんか】
「根源の小細工により我等と同じ言葉を解すまでに至ったか……しかし、そうか……ふんむ。確かにお前の言い分も解らんことはないし、ある意味では正論なんじゃろう」
【彼女は最早"根源"などという名ではありません。呼ぶのなら己天辿晃様とお呼びなさい】
「そうじゃったかのう」
【それで本題ですが、あっさり正論なのだと認めるのですね。しかもその口振り、最初から論破される事を想定済みなようですね?ならば何故私の生き様を"落ちぶれた"などと――「おう、勘違いすんなアホ猫」――何?】
「儂は確かにお前の意見を正論とは言った。が、それの正論とはあくまで頭に"ある意味では"がつく方のじゃ。完全な正論とは言ってねえし、まして論破なんぞされたつもりはねえ。お前は確かに落ちぶれとる。その落ちぶれっぷり、最早ギルティアとは名ばかり……例えるならばヴェルゼンとでも言おうかのう」
自らもまた『地平の旅人』の熱心なファンである月光は、小説に登場する代表的な敵役の一人を挙げた。
【ヴェルゼン?この私が?まさか。馬鹿げた妄言も大概になさい、矮小白竜。私はスミロドゥス・ギルティア……義と使命のまま、確かな信念に従い戦い続ける孤高の獣……忠臣ぶって歪んだ忠義に支配される余り蛮行に走り己の身を滅ぼした、かの哀れな羽虫などとは格が違うッ!】
「うむ、そうじゃのう。指摘されて初めて気付いたわい。お前は確かにヴェルゼンなんぞじゃあねえ。あれとはまるで別格じゃ」
【何です。『論破などされていない』と宣いながら、またも私の返答を受けて自らの間違いに―――「お前は最早、ヴェルゼン以下じゃ」
【なッ!?】
信じがたい月光の言葉にスミロドゥスは絶句し、暫くして急激に沸き上がってきた怒りと不快感の余り、髭や毛がわなわなと震え出す。
【どういう、事です……私があれ以下などと、そんな、わけが……そんなわけが……】
「理由が知りたいか?ならかかって来たらええ。儂らと戦ってみりゃあ、嫌でも理解る事じゃろう。それでもし理解らんようなら、儂が直々に教えてやらんでもねえ」
【望むところです。かかって来なさい……この私、スミロドゥス・ギルティアに真っ向から勝負を挑んだこと、後悔させて差し上げますッ!】
◆◇◆◇◆◇◆◇
【受ケヨ!我ガ浄化ノ炎ヲッ!】
タウル骨格の筋骨隆々な竜種とでも言うべき姿をしたサルワートルの大口から、切断用ガスバーナーのそれを何万倍にもしたような青い火炎ブレスが噴射される。その火力はロコ・サンクトゥス平原の大地を抉り、熱量は河川全域の水位を小魚も泳げない程にまで下げてしまう。更にブレスそのものの噴射後も暫くの間周囲は凄まじい熱気に満たされており、常人には接近さえ許さない。
ともすればこの化け物と相対する面々―けいむ市民六名と刑事二名の計八名―は距離を取って戦わざるを得ず、それぞれ図抜けた起動力、優れた炎熱耐性、熱気を遮断する技術を持つが故辛うじて接近が可能な高宮や真壁及びアリシスでさえ攻撃が可能な位置へ長時間留まる事さえできずにいた。結果として接近戦を封じられたに等しい彼等が取れた戦術は、熱気を帯びブレスを吐きながら力任せに突進するサルワートルから逃げつつ隙を見て飛び道具で攻撃するというものになってしまっていた。
「(駄目だ、このままじゃ何時か限界が来て皆あいつにやられちゃう……ここは私が何とかしなきゃ……)」
危機的状況故強い使命感に駆られたアリシスは、戦況を変える打開策を考えるべく思考を巡らせる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【ンフフフフフッ!ヤッパリ空モ飛ベナイ生キ物ナンテ大シタ事ハナイワネェ!ソゥラ、喰ライナサイッ!】
空高く舞い上がったパトリオータが一度軽く羽撃けば、彼女の身体から生える羽毛型をした白磁のような質感の薄く鋭い刃が無数に降り注ぐ。
「糞ッ!またこれかッ!」
「よくもまぁ飽きずに同じ技ばかりを……!」
《皆早く!私達の下に隠れて!》
雨のように降り注ぐ上に触れれば大抵のものを確実に切り裂くそれらから身を守るべく(ある事情で別行動中の源玲を除く)対鬼人特殊部隊桃太郎組の隊士達は高雄の操縦するソレンネ・パッツィーアの鎧の下へ隠れ逃げ延びる。暫くして羽根型刃の散布が止まるのと同時に、桃組の面々は足元の刃に気を付けながら外へ出て(或いは防御の構えを解き)上空を見上げる。
「はぁ……降り注ぐ度に逃げてるんじゃキリがないよ……」
「そうは言うけどしょうがないでしょ。あの漂白カラス、隙だらけの動きの癖に攻撃が全く当たらないんだもの」
「滞空……羽根降らし……地上に来て爪で引っ掻いて……また上に戻る……隙だらけっていうか、単純な動作の繰り返し……なのに攻撃が当たらない……」
「どう見てもアクションゲームのボスキャラよね。こういう手合いは普通降りてきた隙に攻撃するか、飛び道具を使うものだけど……」
「"降りてきた隙"に攻撃しようが飛び道具使おうがあのトリ公は避けやがる。マジで俺等をナメたような態度で、わざとらしくなァ……ッッ!」
「落ち着け犬丸。感情的になれば益々奴の思う壺だぞ」
「然しどうするんじゃ?手も足も出んとなったら―――「ヌナァァァァァァ!」―うをっっ!?」
突如不意打ち同然に振るわれる、白い音速の拳。星羅はそれをすんでの所で回避し、拳の主を見据え毒づく。
「くそぅ、そういや忘れとったわい。あの羽根はただの武器などではなく、あれらの"種"でもあったんじゃった!」
星羅の言う"あれら"とは、辿晃の放った光に吸収されアポストルス達の素材となって一匹残らず消滅した筈のスプレーマントロプス・フルーメンであった。パトリオータの羽根型刃は地に落ちると膨張・変形し、劣化版のスプレーマントロプスへと変化するという側面も持ち合わせているのである。
「ええいクソッ!あのクソ鳥をどう料理するかって話は後だ!今はとりあえずこいつら掃除すっきゃねえ!」
苛立ちを隠せない犬丸の叫びは、図らずもその場で戦う桃太郎組メンバー六名(並びに二柱の精霊)の総意となっていた。
次回、戦いは更に激化!