第四百一話 戦うゲスト様-使徒の名を持つもの:前編-
ラスボスをあと一息って所まで追い詰めた後のお約束と言えば……
"ヴァーミンズ・ジェーシャチ センチピード"
ムカデの象徴を持つ第十のヴァーミンであるこの異能は、四欲の一つ"生命欲"を司り、純粋に"生きたい"という願望の強い者(例えば一秒先を生きることにも必死な戦地の歩兵や浮浪者、資金難に喘ぐ絵描きのゲーマー中年等)の他、生命維持に直結する一次的欲求(食物・繁殖・休息)の何れかが強い(若しくはそれら欲求によって性格の基盤が形成されている)者が有資格者となる。
その能力は有り体に言えば"接合"であり、どんなに離れた位置にある物体をも確実に引き寄せて接合する事ができる。方法や程度、また接合状態の解除等は能力を行使する者の思うままである。また、応用次第では物体の牽引や射出から高速移動や打撃の強化まで行えてしまう。
このように書くと如何にも万能な異能のように思えるかもしれないが、本質はあくまで"接合"である為に軌道が直線であること、力の加減が困難であることなど欠点も多い為、一概に強力とも言い難い。
―前回より・聖地平原―
「……っく、……ぐ……」
【おーおーおーおー、どうしたどうした?まさかあの程度で限界かぁ?んなわけねぇよな?】
フォルティドラコネムに大量の死体を投げつけられ(主に折れた骨や割れた外骨格によって)重傷を負った辿晃は、どうにか傷を再生させ眼前の忌まわしき爬虫類を始末せんとする。最早光線や光弾等の飛び道具が無意味であることは分かり切っている。ならば適当な触手か腕でも生やして格闘戦に持ち込むべきだろう。パワーや頑丈さでは確かにグゴンやこの爬虫類にさえ劣るが、その分スピードや技術では負ける気がしない。そう思った辿晃だったが、手足が思うように動かない。
【キッヒッヒッヒ、言ったろ?俺の能力は接合だってよォ。チィとばかし応用を利かせりゃあ、そのままの状態で固定するぐれー屁でもねえのよ。どうだ?ヒレの先端1ミリすら動くめえ?】
「……」
フォルティドラコネムの嘲りに、辿晃は返す言葉もなく黙り込む。
【おいおい、何か言えよ。一応喋れはすんだからよー】
何と言われようとも、辿晃は喋らなかった。何か一言でも口に出そうものなら途端に付け込まれ、只でさえ乱されっぱなしのペースを余計乱された挙げ句殺されかねない。あと僅かにでも時間を稼ぎさえすれば此方の秘策が動き出す。そうなれば奴も自分の固定を解除せざるを得なくなるだろう。
「(……今は兎に角待ちましょう……あと少し……あと少しで……)」
◇◆◇◆◇◆
「ンなろッ!クソ!テメェ、野郎ォ!ナメやがッ――ぐぉああああ!」
地面に固定され動けない辿晃がフォルティドラコネムに突き回されているのと同じ頃、グゴンもまた苦戦を強いられていた。『星界を這う砦』と融合した半機械の強化形態"ヨグソトホト"になった春樹や夜魔幻の力を解放し血肉を透明化させスケルトン風の姿になった璃桜に加え、自ら産み出した武器に加勢する形で馳せ参じたエルシトラ(及び彼女の友三名)、大振りな敵は粗方殺し尽くしてしまったらしい強化人間夫婦や対鬼人特殊部隊桃太郎組の面々等、どういうわけか(恐らくは『辿晃はフォルティドラコネム(アレ)だけで対丈夫だろう』という理由で)多くの者達が寄って集ってグゴンを袋叩きにしていた。
そして猛烈な攻撃を受け続けたグゴンが本格的に疲弊し始めた頃、
【ぐぉあああああ!?】
フォルティドラコネムの疑問符混じりな悲鳴が響き渡った。
◇◆◇◆◇◆
【っが、は……クソっ!何だ!?】
突然背に走った|猫に引っ掻かれるような(・・・・・・・・・・・)痛みに集中力を乱されたフォルティドラコネムは、固定を解除された辿晃が逃げ出すのも気にせず咄嗟に後ろを振り返り――そして、愕然とする。
【なッ……てめえ、はッ……!】
〈久し振りですね、フォルティドラコネム・ウェールス……お前に会うため、地獄の底から這い戻りましたよ……〉
振り向いた彼が目にした"不意打ちの犯人"とは、事も有ろうに嘗て自らの手で屠った筈の"胡麻擂りニャンコ"または"バカ猫"(どちらも彼自身による命名)こと、中央スカサリ学園の生体兵器"スミロドゥス・ギルティア"であった。
驚きの余り動きの止まるフォルティドラコネムに、天女よろしく空中を浮遊する辿晃が言う。
「フン、この程度でそこまで驚くとは甘いですわね」
【てめえ老害クソニート……一体何をしやがった!?俺がこの手で殺したはずの胡麻擂りバカ猫が生きてやがる!?】
「何故って、ただ身体に秘められた力を使ったに過ぎませんわ。我々は黎明六英傑の一人、ラ・ドゥムスがこの大地を守るという目的のためにその全てを賭して造り上げた最強の使い魔……お前と違って戦うばかりが脳ではないのですよ」
【何っ?】
「……守護とはただ武力で敵を討ち滅ぼすことに非ず。守護とは救済、救済とは修復……故に我々にも修復の力は備わっており、それは時として死者をも蘇生させてしまうのですよ――グゴン!」
「おうよ!退けやゴミ共が、邪魔だぁ!」
渾身の力を振り絞って自身にまとわりつく敵を強引に振り払ったグゴンは、夜空に向かって大口を広げ『仕事だ、来やがれ!』と叫ぶ。その力強く野蛮な呼び掛けに応じるかのように何処からともなくロコ・サンクトゥス平原へ姿を現したのは、嘗てクロコス・サイエンスの敷地内にて剣士・使徒精霊・唱道者各三名に吸血種族二名の計11名と死闘を繰り広げ散っていった巨大両生類・ドラゴマンドラであった。
「更にもう一つサービスです!この私が産み出した最高傑作達を特別に見せて差し上げましょう!」
掲げられた辿晃の右手先端部から四つの光球が生じて四方へ飛散。数多の生体兵器がほぼ全滅レベルにまで死に絶える中しぶとく生き残っていた"プレーマントロプス・フルーメン"を取り込み肥大化しては、光り輝く不定型なゲル状のものとなり徐々に形を成していく。最初不定形であったそれらが四匹の白い化け物へと姿を変えたのは、光球が出てから僅か数十秒後の事であった。
「刮目なさい!これぞ我が最秀の子"スプレーマントロプス・フルーメン"の成熟せし姿――その名も"アポストルス"ッ!」
次回、使徒なる四体の化け物が、復活したスミロドゥスやドラゴマンドラ共々牙を剥く!