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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン1-ノモシア編-
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第四話 とある学生の異世界紀行



遂に紋章の謎が明らかに!

―前回より―


「っくぁぁああああぁあああああっ!」


 コリンナの顔面から白煙が上がるのと同時に、辻原はそれを投げ捨てた。

緑色の霧を顔面に浴びせられたコリンナは、その激痛に両手で顔面を押さえ藻掻き苦しむ。その顔面からは絶えず白煙が上がり、暴れ回る彼女の顔から滴る液体は両手から床材、果ては家具までも手当たり次第に焼き溶かしていく。

「そのまま一生藻掻き苦しんでろ、クソガキ」

 辻原は藻掻き苦しむコリンナの尻を蹴飛ばし、指先から放つ緑色の霧で部屋の扉を溶かして廊下に躍り出る。


「しかし便利だな、この力は。無制限かつ精密仕様で破壊力抜群。その上マニュアルまで付属とは」


 辻原が絶賛する"力"とはつまり、先程放った霧の源たるもの――『ヴァーミン』と呼ばれる異能の一つであった。緑色をしたこの液体の性質は現実世界で言う硫酸に近く、辻原の意志により命じればどんなものをも自由自在に焼き溶かしてしまう。更に驚くべき事にこの液体は"溶かすな"という命令にも対応しており、これにより余計な被害を出す心配も滅多に無いという、馬鹿に親切な設計だった。

「『ヴァーミンズ・ヴォーセミ アサシンバグ』だったか?中々に洒落た名前じゃねぇか。アサシンバグってのは俺の左手に出た紋章よろしくサシガメの事だが、何故サシガメで溶解液なのかねぇ」

 辻原は城内の廊下をのんびりと歩んでいく。異世界の美術品はどれも魅力的で、彼はそれらをじっくりと堪能したかった。しかしその願いが叶えられるほど、現実も優しくはないらしい。

 侍女の報告によりコリンナの異変をいち早く察知した城に控える兵士達が動き出したのである。魔術関連の技術が深く関わる所以か、奇妙な術式により辻原の動きは直ぐさま兵士達に知られてしまった。

 どうにか逃亡を試みた辻原だったが、そこは一介の大学生。しかも根っからの座学派で運動部になど入ったこともない。当然すぐに息切れを起こし、メイスと盾を構えた兵士達に取り囲まれてしまった。

「観念しろ侵入者!」

「そうだ!その罪牢獄で償え!」

「死刑台に送ってやる!」

 辻原に対し口々に悪口雑言を浴びせる兵士達。

こういった手合いの始末の悪さを知っている辻原は、能力で撃退しようかと考える。

 しかし、その時である。

「黙れ!黙らんか!騒ぐでない!案ぜずともこの男は逃げも隠れも出来ぬわ!」

 隊長らしき男の一声で、兵士達は一斉に押し黙った。

「有り難うよ、一際貫禄のある旦那」

「礼には及ばぬ。儂はこの者共の長であるからな」

 隊長の男は、辻原の軽口にも冗談交じりで返答する。少なくともこの兵士よりは理解力のある人物らしい。

「して……貴様は何故この城に居る?」

 隊長の問いかけに、辻原はさも真実であるかのように大嘘を語り聞かせる。

「ここだけの話、俺は大臣殿から極秘に呼ばれてやって来た辺境地の霊媒師でね。昔からこの辺りに出るっていう質の悪い悪霊を退治しに来たのさ」

 我ながら見え透いた嘘である事は自覚済みだった。しかし、ありのままの事を話せば間違いなく袋叩きにされる。

「(どうせ嘘だと見抜かれんのがオチだろうな……)」

 等と踏んでいた辻原だったが、隊長の反応は意外なものだった。

「な、何と!貴様はもしや、あの悪霊アクセタルを倒す為にここへ来たというのか!?」

 全く持って予想外の反応だった。しかし辻原は、取り乱すこともなく話を進めていく。

「そうそう。んで、俺と大臣殿の会話を偶然立ち聞きしたコリンナ姫が俺の話を聞きたいってんで、装備展開しながら話を進めてたのさ。

で、腹が痛くなって厠に行こうと思ったんだが、慌ててたもんで姫に教わった道順を忘れちまってさ。探し回ってる間に変なところへ迷い込んでよ、今はその帰りって訳だ」

「そうだったのか……それは大変だったな。しかし此方も大変なのだ。

姫様がいきなり不埒な輩に襲われてな、顔と掌が無惨に焼け爛れてしまっておるのだ。それでその犯人を捜しているのだが……」

「そうか……そいつぁ大変だな。良し、ここは俺が人肌脱ぐとするぜ」

「何?」

「姫の為に故郷に伝わる薬を作ってやろうかと思ってな。火傷の傷口に塗るとそれが最初から無かったように治る優れものなんだよ。城に来る途中この辺りの草や石ころでどうにかなるのは確認済みだし、材料集めて来ようかと思ってな」

「そ、それは本当か!?」

「嘘なわけねぇだろ?」

「おぉ!感謝するぞ霊媒師よ!さぁお前達、喜ぶのだ!」

 兵士達が喜び沸き立つ中、辻原は隊長から出口への道順を聞き出し(「忘れた」と言ったら詳しく教えてくれた)、城からの脱出に成功する。

 かくして辻原はまんまと城外への脱出に成功した。


―城下の市街地―


「成る程。こりゃ確かに凄ぇわ。まさにファンタジーって奴だな」


 辻原が繰り出した市街地は、まさしく彼が見た架空の異世界を思わせるものだった。鎧やローブ等様々な服装の人々が道を行き交い、亜人や獣人が人間と思しき人々と対話する、そんな光景。

 それが、彼の眼前に広がっていた。

「さて…それはそうと、どうにかして元の世界に戻る方法を考えなきゃなんねぇよなぁ。とりあえずここに定住する事を考えるか……あの声は『カタル・ティゾルの破壊神になれ』とか何とか言ってたが、そんなもんそうそうなれるもんでもねぇしな。

そうと決まれば早速働き口だが――『号外!号外ィ!号外だァ!』――?」

 ふと上を見上げると、背中に翼を持った鳥のような姿の亜人――羽毛種と呼ばれる者達――の男性が、上空からビラを撒いていた。そのビラを拾って見た辻原は、驚愕の余り言葉を失った。

「……おいおい、マジかよ」

 辻原はすぐさま路地裏に逃げ込み、再びビラをよく読み直してみた。

「…『異世界人シゲル・ツジハラ、コリンナ姫への傷害で殺人未遂』……クソ、バレやがったか……」

 そう。辻原が城を抜け出してから彼の容姿に関する情報がコリンナによって城内に知れ渡るに至り、それがそのまま指名手配にまで発展したのである。

「何はともあれ逃げねぇとな……王女の顔面に硫酸ぶっかけたなんてのが裁判になりゃ、懲役通り越して死刑確定だ」

 辻原はそそくさとその場から逃げ出し、人気のない広葉樹林に逃げ込んだ。

「(何か化け物とか出そうだが仕方無ぇ。いざとなりゃヴァーミンでどうにかしてぇところだが…一応喰われる覚悟もしておくか……)」

 広葉樹林の道無き道を掻き分けて歩みを進める辻原。てっきり猛獣や化け物の類が出てきて喰い殺されかけるのではないかと思っていた彼だったが、この後そんな予想は悉く裏切られることになる。

逃亡者・辻原繁!広葉樹林を往く彼がであった驚くべきものとは一体!?

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