第三百九十六話 戦うゲスト様-真実-
明らかになったのは、衝撃的な真実。
―前回より・聖地平原―
「コトの起こりは黎明の昔、嘗て志を同じくした六人の男女―後に"黎明六英傑"と呼ばれる者達は数多の戦いを経て乱世を終焉に導き、カタル・ティゾルを為す大地へ散ってはそれぞれその生涯を民と文明とに捧げたと言われています……まぁ、これは幾ら愚かで無知なあなた方でも知っている事でしょうけれど……」
デウサントロプスの語るそれは、カタル・ティゾルで広く知られる"黎明六英傑"の話であった。
「ここで問題になってくんのは、当時ヒトが棲んでた大陸ってのが五つしかねえって事でよ。となると一人は無人の大陸へ行く事になっちまう。そんで話は変わるが、黎明六英傑の中には一人記録の曖昧な奴がいる。ラ・ドゥムスっつーゴロツキ出身の野郎がそいつだ。このラ・ドゥムスってのは図体のデケー狼野郎の癖に召喚やら使役を軸に使う魔術師でよ、六人の中じゃ一番の新参だからか記録は曖昧で矛盾や穴だらけの上に少ししか残ってねえっつーヒデえ有様よ」
「その末路に至っては記録さえ無いという有様……本当にあなた方ヒトは種レベルで無能なのですね。分かり切っていることとは言えウンザリさせられます。まぁ、この際あなた方ヒトという種が如何に無能かつ無知にして愚劣な下等存在であるか、などという事は放っておきましょう。問題は巨漢の魔術師ラ・ドゥムスの末路です」
「戦いの果てに各大陸へ散る事になった奴が辿り着いたのは、文明のまるでねえこのエレモスだった。一人で居るのが好きだった奴にとってそこは楽園で、奴は可もなく不可もなしな生涯を送ったという……そして寿命でくたばろうかって時になって、奴は世話になったエレモスの大自然をてめえがおっ死んだ後もずっと守ろうと考えた。そんで、残された最後の魔力と魂をも支払って発動した大魔術で不老不死不滅にして全知全能たる二匹の使い魔を作り出した」
「それが私達……デウサントロプス・カエルム……真名、己天辿晃と!」
「この俺、ゴノ・グゴン様って訳よォ!」
飛び出したのは、何とも信じ難い衝撃的な事実であった。間接的にエレモスを荒らし回ったこれら化け物二匹の正体が、よりにもよってエレモスを守る為に生み出された使い魔?聞いた途端その事実を誰もが否定したがったが、発言の隙さえ与えぬまま二匹は話を続ける。
「しかし、私達が生まれて三十余年が経過した頃……私達の存在意義に関わるある重大な問題が浮上してきました」
「問題ってなァ、ここは天災とか外来種とかの危機に晒される心配がまるで皆無――つまり俺等にゃ仕事がねぇって事でよ」
「その時より私達は生きる目的を見失い、途方に暮れました。老いも死も目的なく漠然と過ごしていた私達は、不毛な日々に嫌気がさしていたのです」
「んでそれから五年、俺等はそんな永遠にも等しい暇を潰すのに最適な方法を思い付いた。何かってぇと、要するに一対一の殺し合いだ。俺らは元々このだだっ広いエレモスを守る為って名目でラ・ドゥムスがてめえの魂、つまりは存在そのものを賭してまで作った最高傑作……どんな姿にもなれたし、どんなことも大抵はできちまう。俺とこいつは、平和の所為で無用の長物になったその力を、互いに戦り合って勝つっつー、至極単純なコトへ全力で投じた」
「勝負は一定の周期で行われ、勝敗は五分と五分……双方の優劣は時と場合によりけりで、私の圧勝もあれば彼の圧勝もあり、逆もまた然りでした。ただ、私たちの勝負に引き分けはなく、如何に苦戦を強いられようと、明確な決着だけはついていたのです。そして第28回戦にて私が僅差で敗れ二連敗を喫した翌日、グゴンは『次の勝負は趣向を変えないか』と提案して来ました。詳しく聞くには『これまでは自分達が一対一で戦って来たが、どうにもマンネリ化しつつあるように思う』と言って、自ら考案した新たなる勝負のアイディアを出してきたのです」
「新たなる勝負……まさか……」
「おや、その表情……よもや察しがつきましたか小猿よ。この流れで真相に気が付くとは、面構えの割に中々の頭脳を持ち合わせているようですね」
大士を明らかに見下した言動の後、デウサントロプス改め辿晃は『この際ですし』と自ら真実を明かす。
「そう、その勝負こそ嘗てこのエレモスを二分させるまでに至るも決着の付かなかった『蛹芽戦争』です」
辿晃によって明かされた衝撃的な事実に、ロコ・サンクトゥス平原は再び混乱に包まれた。皆、戦争の発端は相手国が自国に対し筋の通らない真似(それぞれフリサリダ側は国家の収入源であった銀鉱山の強奪、ヴラスタリ側は貴重な漁場兼観光資源であった湖の占拠)をしたからだと信じ切っていた為である。
だがそんな両国民をあざ笑うかのようにグゴンは吠える。
「ブギャハハハハっ!前々から確信してたがマジで救い様のねーバカだなテメェ等ぁッ!銀鉱山の強奪も湖の占拠も全ては俺らの仕込んだ事よ!ついでに国民共も洗脳して、徹底的に戦争ムードを作ってやったぜ!まぁその結末が初めての引き分けじゃあ笑い話にもなんねぇがなァッ!」
「正直な所、あれは失敗と言わざるを得ません。故に同じ過ちを繰り返さぬよう、今回は着々と準備を進めました――両国を代表する強大な組織のトップを裏から操って、ね」
「洗脳……そんな、まさか……私はただ、先人の無念を晴らしてもっと大勢の社員を救いたかっただけなのに……」
「知らぬ間に故郷へ害為す邪悪の手先―否、只の傀儡へと成り下がっていたというのか……」
ハルツとダンパーは自分の愚かさに絶望し、力無く崩れ落ちる。
「(そういえば先程から、何故だか気分が沈みっぱなしで鬱状態だが……これは洗脳が解けたからか?)」
「(開戦時はあんなに希望に満ち溢れて、意気揚々としていられたのに……無様なものね)」
かくして両陣営は一様にして絶望に包まれる。しかしそんな彼等を声高に嘲笑う者が居た。それは勿論グゴンと辿晃――ではなく、それまで会話から取り残されていたフォルティドラコネム・ウェールスであった。妻の制止も無視し腹を抱えて大笑いした彼は、数秒の休憩を挟みグゴンより華奢な体格ながらそれを上回る声量で言い放つ。
「いやぁぁ~本ッ当笑い話だぜ!天下の中央スカサリ学園とクロコス・サイエンスのトップがそんなわけわかんねェ老害クソニート共に洗脳されるまま、ここまでやらかして今更後悔たぁ!お菓子食って腹痛――じゃねえ、可笑しくって腹痛ェわァァァァッ!」
「ちょっ、ウェールス。笑いすぎよ、ここで傷口に塩擦り込んだら幾ら何でもダンパーとハルツが可哀相でしょ?」
「構うかよ!こいつ等の片方は俺を親元から引き離してまで殺しの道具に仕立て上げようとし、お前の人生だって目茶苦茶にしたんだぜ!?んでもう片方も多分同レベルの真似をやらかしてんだ!糾弾はされても擁護はさめぇ!まして救う必要性があるか?」
「確かにそうだけど……でも、ダンパーがああしなきゃ私達の出会いも無かったのよ?結果論なのは億も承知だけど、その恩くらいは返してあげてもいいんじゃない?」
「ぬぅ……それもそうだな……」
ルラキの説得に納得したフォルティドラコネムは、ダンパーとハルツに向き直り叫ぶ。
「おゥ腐れナマズ爺!草食ボケババア!本音としちゃそこな老害クソニート共々今にもブチ殺してやりてえところだが、俺の嫁に免じて今回だきゃ助けてやる!有り難く思え!」
続いて黒竜は、自分達以上に流れから取り残されている第三勢力の方を向き言う。
「そんでツジラジとか言う奴ら!もし差し支えねーなら俺ら夫婦に手ェ貸せ!いや寧ろお前らン中へ混ぜろ!利害は一致すんだろ?」
「ああ、構わねーよ。寧ろこっちとしても願ったり叶ったりだ。何なら夫婦揃ってウチに来るか?」
「いや、そいつは遠慮しとこう。この状況じゃ安易に首も振れねえしな」
「そうか。そんじゃ俺も取って置きを出すとするか」
そう言って繁は先程から中で何かがモゾモゾしているらしい腰のポーチから、その"モゾモゾしている何か"―もとい、ピンク色をした掌サイズの正四面体二つを取り出し話し掛ける。
「ほれ、さっきまでの話聞いてたろ?流れからして何すりゃいいかは理解ってんだろうから、あとは自分らで考えな」
繁の手で放り投げられた二つの正四面体は、ある程度の距離にて突如空中で静止。それぞれきっかり二十五等分された小さな正四面体に分裂し空中に飛散したかと思うと、それぞれの一角から自身と同色の光線を中央目掛けて一斉に照射しヒト型の何かを形作っていく。
そうして瞬く間に復元されたのは、何と三百九十話にて綺麗さっぱり消滅した筈のランゴとエリヤであった。
「……さて、オップス君」
「何ですドライシスさん」
「ツジラに殺された筈の僕らは何故か生きていて、しかも君の手にはリュウケイとリュウマイがあるわけだが……これから僕らはどうすべきだと思うね?」
「とりあえず目の前のツジラを惨殺してやりたいのは山々ですが、その前にあの職もないボケ老人共を殺すのが先決でしょうね」
「そうだね。ツジラより先にあの職もないボケ老人共だね。つまり僕らはまこと不本意ながら憎きツジラと結た――「グォルァァァァァアアア!ゴミ共ォォォォ!」
ランゴの発言を遮るように、グゴンが吠える。
「さっきから黙って聞いてりゃあ、やれ老害だのクソニートだのボケ老人だのと好き勝手吐かしゃあがってからに!いい加減にしろよテメェ等ぁ!おう辿晃、後片付けだ!こいつら全員殲滅うぞ――「フゥーッハッハッハッハァ!話は聞かせて貰ったぞ!」――な、何だぁ!?」
突如響き渡る、自信に満ち溢れながらどこか間抜けにも思える若い女の声。多くの者はそれに困惑し身構えたが、聞き覚えのある者がツジラジ製作陣に只一人だけ存在した。
「(この声……間違いねえ……だが奴は死んだ筈じゃあ……)」
チームさとてん筆頭にして数少ない本作の敬謙な読者の一人・風間大士である。
時間、"四"とつく奴らの再臨!




