第三百九十三話 戦うゲスト様-黒竜君臨-
"奴"が持つ"アレ"とは……
―前回より・聖地平原―
【シェアオゥ――ッハ!……フフン、キマったぜェ……】
急降下し地面に降り立ったフォルティドラコネム・ウェールスは、漆黒の外殻に覆われたドラゴンそのものの巨体で準備運動でもするかのように手足や首をくねらせ、赤々と発光する双眸で周囲を見渡す。何物にも容赦しない絶対的な捕食動物のオーラを醸し出すその視線は、月下にあって黒光りする刺々しくも無駄のない巨体をより威圧的で恐ろしいものに見せていた。
【さァ~てェ~……粗方焼き尽くしたつもりだったが、まだまだ殺され足りねえバカ面共が揃ってンなぁああぁぁ~!?】
痩せこけたような細身に無理矢理筋肉をつけたようなウェールスの腹に、白く輝く紋章が浮かび上がる。それは無数の体節と節足を持った細長い虫――即ち"百足"と呼ばれる獰猛な毒虫そのものであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「センチピード……まさかあの化け物がヴァーミン持ちだとはねぇ……」
「ご存じなのですか?」
各種武装を展開したまま問いかけるケラスに、ニコラは『まぁ、それなりには』と口を開く。
「詳しいわけじゃないけどね。長いこと保有者やってると、欲しくもないのに色んな情報が迷い込んで来るのよ。爆生とか幻想体とか、あと他のヴァーミンのこととか……」
「センチピードの情報もそうやって手に入れたの?」
「そ。センチピードだけじゃなくて他のも、差はあるけど一通りね……」
「で、そのセンチピードってどんな能力なんです?」
「センチピード……正確には『ヴァーミンズ・ジェーシャチ センチピード』ってんだけどさ、まぁ要するにムカデが象徴になってる十番目のヴァーミンだわ。何でも、怪力と頑丈さにかけては十種類最強とか何とか」
「それって破殻化の話?」
「さあ、そこまでは流石にわからないけど……ムカデってリアルでも脚色抜きに相当危ない虫だし、能力そのものだって少なくとも弱いとは言い切れないんじゃないかしらね」
「流れから察するに、先程のものも奴の能力で間違いないでしょうからね……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「来おったか……コーノン、エカセルスィ様はどうだ?」
「はッ、デイパラ共々既に此方へ到着済みです」
「よし、準備にかかれ。我等が偉大なる指導者の降臨を奴らに見せ付けてやるのだ!」
ダンパーが声高に宣言した直後、背後から伝令役の声が響き渡る。
「理事長ッ!ダンパー理事長ッ!」
「どうした、何事だ?」
「はッ!例の女を確保しました!」
「……よし、連れてこい」
ダンパーに命じられるまま連れて来られたのは、何とあのルラキ・カリストであった。
「これはこれは、我が中央スカサリ学園の名誉学生ルラキ・カリスト殿ではないか……一体何用かね?」
わざとらしいまでに紳士的な態度のダンパーに対し、ルラキは縛らて尚果敢に挑みかかる。
「理事長……否、ガロン・ダンパー!貴方の悪事は全てお見通しです!即時ロコ・サンクトゥス平原に残存する全ての兵力を撤退させクロコス・サイエンスに投降、この馬鹿げた戦争を終わらせなさい!」
「ふん……聞けんな。仮に我々がその命令に従わんかったとしてどうするのかね?私を殺しでもするか?生憎、昨今の戦争はそう簡単な理屈で終わらせられるものでもないぞ?」
「……もし私の命令を聞き入れないというのなら……"彼"が黙っていません……!」
ルラキの言葉にある"彼"という語の意味を瞬時に悟ったその場の一同に動揺が走る。
「っ……まさか、奴を呼んだのは……」
「貴様、奴とどういう関係だ!?」
「フッ、大したことではありません。ただの伴侶ですよ」
「はッ……!?」
「伴……侶ォッ!?」
「くッ!学園長、お気を確かに!コーノンも狼狽えてはならん!ここで我々が取り乱せば軍全体が傾きかねん!コーノン、根源様とデイパラだ!アレを見せ付けてやれば奴とておいそれとは動けまい!」
「は、はい!今すぐ!」
コーノンは部下達に命じてエカセルスィとデイパラの入ったコンテナを持って来させ、その封を自ら解き放った。
「(そんな……あれはまさか……生徒会長に、セルジス……!?)」
コンテナの中から現れた物体の全容は、ルラキを絶句させるに十分過ぎた。
―同時刻・平原の外れ―
「何か、とんでもないことになってるわね……」
「なってますねー……」
「まさかいきなり公用車が迎えに来るとはね……」
あれから後、戦場へ介入すべく"さる伝手"を頼ろうとしていた高宮と真壁は唐突に上層部から呼び出された。何事かと詳細を尋ねれば『電話で話すのも何だから兎に角来てくれ』の一点張りであり、警察署から離れた位置に居ると判れば迎えに公用車―少なくとも捜査三課の刑事が乗るようなものではない、大変に高級な代物―を寄越してくる。信じがたい出来事に何か裏があるのではと上層部を疑った二人だが、下手に逆らえば何をされるか判ったものではないと判断。
車に揺られるまま署へ戻り通された本部長室で二人を待ち受けていたのは、三百八十八話で二人の申し出を突っ撥ねた件の上役であった。しかしどうにも態度が妙で、如何にもわざとらしい態度で『よく来てくれた。待っていたんだ』などと好意的な言葉をかけてくる。二人は上役の動向が如何にも怪しい事を察知したが当然それを表には出さず、ただ冷静に呼び出しの理由だけを尋ねる。その問いかけに対し、上役は言った。
『ロコ・サンクトゥス平原へ派遣される部隊の指揮を執ってほしい』
高宮と真壁は一瞬困惑したが、本部長はそんな二人の事など気にも留めず話を続けていく。聞けば何でもツジラジに於けるクタールの発表は大陸連合の総意であったらしく、政府は示し合わせていたかのようにこれに合意。黎明期よりエレモスの大地を守り続けていた封鎖体制は総解除され、同時にロコ・サンクトゥス平原で交戦中のクロコス・サイエンスと中央スカサリ学園を武力によって鎮圧すべく機動隊と軍部から成る部隊の編成まで決定したのだという。故に二人には未確認超存在の捜査に長らく携わってきた者として鎮圧部隊の指揮を執って欲しいのだ、と本部長は言う。
これを聞いた二人は腹を立てずには居られなかった。何もかもがいきなりでまるで訳が分からないし、単に自分たちのやりたくない仕事を押し付けているに過ぎない考え方が何より頭に来たためである。
とは言え当然二人はそんな感情を表に出すことなどせず申し出を快く受け入れ(たフリをし)、唐突な出来事に困惑しながらも合法的に戦場へ介入できる機会を得たことに心躍らせるのであった。
Q.フォルティドラコネムとルラキが夫婦ってどういうことだよ!?
A.だって元ネタそんなだし、女子高生×雄人外って萌えんべ?
Q.萌えねーよ!
A.いや萌えるだろー。ヒーローとメカ恐竜のカプとかあるし。
Q.あれはコンビな!?カプとしても擬人化前提だろ!
A.じゃあ海軍将官と艦船とか。
Q.それはモロ擬人化だわ!擬人化しか有り得ねーわ!
A.えー。
Q.えーじゃねーよ!
(以下延々と続くので省略)