第三十九話 R-15G
作戦開始!シーズン2も遂にクライマックス!
―前回より―
主要な動脈の通る部位を的確に熱する桃李の手によって、ラクラの体温は急激に上がっていた。そもそも気候の安定した温帯域にあるラビーレマとは言え、カタル・ティゾルももう五月下旬。快晴ね昼間、それも遮蔽物の無い場所に厚着して立っていれば、嫌でも暑くなるだろう。
それが筋肉質な身長30mの巨人であれば尚更である。
更にそこへ追い打ちをかけるのは、繁・ニコラ・羽辰による挑発と、地の利を活用した香織の魔術コンボ。
香織の魔術コンボは、
・空中に物体を浮遊させるもの
・鏡の様な物体を召喚するもの
・光の角度や流れを読むもの
・物体にある程度の破壊耐性を付加するもの
等という複数の魔術を併合したものであり、日光を反射しラクラの体温を上げる目的があった。更に多方面から反射される日光はラクラの視覚にも凄まじいダメージを与えるに至っていた。
―上空―
「おいどうした馬鹿兎っ!? 動作が手に取るように丸解りだぞ!」
「はぁ……っぁ……う、五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ、五月蝿ぁぁぁぁぁぁいっ! 潰ししてやる……お前なんか、私が粉々に叩き潰してや―んぅっ!」
強気に言い放つつもりが、実に無駄に艶っぽい声を上げて怯むラクラ。見れば彼女の両胸はいびつに波打っている。まるで透明な巨人がラクラの胸を揉みしだいているようだったが、良く見ればそれはニコラの放つ蛾型弾幕だった。気になった繁が向かってみれば、ラクラの背後には巨大な蛾が浮いていた。
蛾の体毛は主にクリーム色と白であり、細長い人間の腕を思わせる節足を持っていた。更にその頭は狐のそれに似ており、腹部は狐の尾に似る始末。ここまで来れば、この蛾が何者であるかお分かり頂けると思う。
第三のヴァーミンを持つ元女医、ニコラ・フォックスである。
破殻化は、有資格者の姿を大きく変える。
しかしその姿が、必ずしもヒューマノイド型であるとは限らない。
その姿は総じて、象徴である生物種を元にした巨大で得体の知れない化け物である。
しかしその形態には、何処か有資格者の元々の種族としての形質を持ち合わせている。
桃李や繁の破殻化した姿がヒューマノイド型であるのは、二人の種族が霊長種だからであるという理由が大きかった。そしてそれ故、幾ら霊長種寄りとは言え曲がりなりにも狐系禽獣種のニコラは『狐の様な姿をした巨大な金色の蛾』という姿を取るのである。
繁は早速ニコラに話し掛ける。
「よう、ニコラ」
「あ、繁。どうしたの?」
「どうしたの?じゃねえわ。何やってんだお前。馬鹿兎の挑発と撹乱はどうしたよ?」
「やーねぇ、ちゃんとやってるわよ。あの馬鹿兎撹乱するついでに不快指数と体温も上げて、尚且つ近頃の『女の子がいっぱい出て来るライトノベル』のお約束もしっかり守ってるんじゃないの」
「お約束って何だ。アレか。猿みてぇな間抜け面の変態怪盗が物欲で生きてる雌豚(肉付き的な意味で)に襲いかかったら十割型首折られて死ぬとかそんなんか」
「まぁ大体あってるけど繁ってあのシリーズ嫌いなの?」
「いや、ある程度見るぐらいには好きだが」
「じゃあ何なのよさっきの言い方……」
「伏せ表現が他に思い付かなかった。それで、お約束ってのは?」
「アレよほら。『巨乳は同性に乳揉まれて喘ぐ』って奴。天然の動物耳&尻尾に、実年齢より外見が圧倒的に若い不老設定、かつ医療関係者っていう時点で私ってエロアニメの人気攻めキャラとしての素質をおつりが来るくらいには合わせてると思うんだけど」
「お前もうビジュアルが雌の蛾だけどな」
「良いのよ別に。それ言ったら実際に揉んでるのは蛾型弾幕だし」
「銃弾ばりの破壊力は何処行ったよ」
「あれだけが蛾型弾幕の全てじゃないのよ。ほら、モ●ハンでも銃弾って単なる攻撃用だけじゃないでしょ?」
「つうことはアレか。神経毒とか麻酔とか散弾とかあんのか」
「一応回復もある」
「マジか」
「私自身不老不死だし、繁も香織も只じゃ死ななさそうだから使う機会多分無いけど」
「いや使え。使ってくれ。これから戦闘が激化したらわりと高頻度で死に掛けると思うから俺ら。つか、羽辰は?」
「羽辰?羽辰なら下の方で馬鹿兎の尻突き回してるけど」
「妹の手前何やってんだあの似非輝美結城は……」
呆れた繁が目を見やると、羽辰は何故かラクラの腰へ執拗に攻撃を加えていた。しかも、ナイフらしきものを握っているのに血液らしきものは一滴も出ていない。
何かがおかしい、と思って接近してみれば、羽辰がナイフで切ろうとしているのはラクラの履いているブルマのゴムであるようだった。
しかもどうやら、ご丁寧にブルマのゴムだけを切ろうとしている。
「(まぁ、あれはあれで羽辰なりには頑張ってるんだろうし、応援しとくか)」
そう思った繁が飛び去ろうとした、その時。鈍い音を立てて、何かが千切れた。
「ゴゲフッ!」
続いて響くのは、これまた鈍い羽辰の声。顔面か腹を強打したのだろう。
更に、布のようなものが落下しそうになり、
「―っやんっ!?」
無駄に可愛らしいような、ラクラの悲鳴が響く。
ふと繁が下を見れば、片側だけゴムの切れたブルマの前を押さえつけるラクラと、何らかの衝撃で吹き飛ばされたのか、上半身が近くにあったビルの壁にめり込む羽辰。
「(あの馬鹿ビッチ、羞恥心なんてあったのかッ!?)」
繁は心底驚愕した。これでもかという程に驚愕した。
ニコラの話を聞くに、ラクラ・アスリンとは生まれながらにクブスの女であり、それ故に羞恥心などかなぐり捨てているのではなかったか。
しかも、である。
暑さ故に意識が朦朧としているのか尻を押さえるのを忘れており、そのせいで尻が丸出しである。
「(三十九話にしてパンチラたぁ、らしくねぇなぁ作者よ)」
我ながららしくない事をしたとは思ってるよ。
「(反省は?)」
しない。一応これC指定してるし。実際はDだろうけど。
「(色についての描写・言及は?)」
勿論しない。そもそも需要無いだろ。というか、さっさとやっちまいなよ。主人公らしく、名前つきの必殺技でもぶちかましてやりな。
「(おう。言われるまでも無く殺ってやらァ)」
繁は空中で姿勢を整え、試しに漫画でよくあるような『虚空から武器を掴み所る』ように動いてみる。すると次の瞬間、繁は両手の甲から何かが生えるのを感じる。
見れば彼の両手の甲からは、鋭い刃のような鈎爪が生えていた。それはまるで、繁の愛用武器である篭手が破殻化した彼の体組織と化したようでもあった。
「(成る程、中々面白いギミックじゃねぇの。イメージとは違うが、これもまたいい。さて、こいつで一丁派手に殺るか)」
繁は滞空したまま、必殺技を考え始めた。
次回、巨大化ラクラに繁の必殺技が炸裂!
そしてあの謎も明らかに……?