第三百八十六話 戦うゲスト様-異次元との断絶-
消失、そして……
―前回より・拠点にて―
「さて、単刀直入に言うけど……件の装備と管制担当人員の突然消失、原因は一切不明のまま。呼び戻しどころか向こうへの干渉さえまるでできない状態ね。もうほぼ諦めるしかないかも」
相も変わらず冷静な香織が淡々と口にした言葉は、呼び戻されたチームさとてんの四人と三人の唱道者、及び三柱の使徒精霊にとって衝撃的なものであった。
「って事は……俺らはもう戦えないって事かよ!?」
「まぁ使徒精霊は一応前の戦線でも戦った訳だから一応やれるっちゃあやれるだろうが……」
「四人抜けるのはかなりの痛手だな。特にあの鎗屋悪鬼衆とかいう八人組、私達が戦っていたカニの化け物だけでもあそこまでの実力者だというのに……」
「いやぁ、実力者っつーかありゃ最早化け物の域だぜ。他の奴らがあいつと同格かそれ以上とすりゃあ―いや、仮に他のがあいつを下回っているとしても―ヤバいって事に変わりはねぇ。何より、ここで武装がねーからって退場すんのは俺の哲学に反する」
「僕も風間君とほぼ同意見かな。人数は多い方がいいっていうのもあるけど、ここまで来てダカートに任せるなんて少なくとも僕は嫌だ」
「私もかな。セレイヌは何だかんだ頼りになるし」
「無論あたしも行くわよ。っていうかシミズ、使徒精霊を直接装備化させて私達の鎧や武器にするっていうことはできないの?」
シャアリンの眼差しはまさしく真剣そのもので、喋りや態度からも大切な姉の形見であり義妹でもある使徒精霊ロロニアを助け守りたいという真摯な想いが伝わってきた。しかし――
「そうしたいのは山々で最初もそう考えたんだけどさ、それが中々上手く行かないのよ。このシステムってまだ開発して間もないからただでさえ手探りな部分多くて、まだそこまで機能のグレードが追い付いてないというのが現状」
「どういうことだ?」
「まぁ色々と小難しい事情はあるんだけど、このシステムって元々は装備の使用者と装備を成すデータの素体の根本的な成り立ちが同じじゃなきゃならなくってね。それでよくよく調べたら使徒精霊と地球人はどういうわけだか成り立ちが中々違うみたいでさ、あれこれ改良を重ねた結果、通常装備へ更に使徒精霊のデータを上乗せする事で漸く装備が成り立つようになったのよ」
「そういう裏事情があったのか……」
「こんな民間魔術師の個人工作だから色々不備もあるんだろうけどね。まぁ安心してよ、代替戦力の目処ならきっかり七人分立ってるから」
「マジか!」
「待ってて、もうすぐ来るはず……」
―前回より・地上―
「で、こうやって地上に降りてみたわけだが……」
「ひろーい」
「ただの平地……ではなさそうですけど」
「この土の感触に、石膏の粉末で引かれた白線……ということは、運動場?」
「いや……この雰囲気は運動場ってより……」
「まるで合戦場ね……」
「しかもチョークよろしく色とりどりカラフルによくわからん図形描きやがって……鎗屋元理事長!いい加減姿を見せてはどうです!?どうせ貴方の事だ、我々のことを何処かから監視してんでしょう!?」
王将の呼びかけに応じるように、上空へ実体のない巨大なモニターが現れる。そこには当然月光が映っており、少年(というよりは幼竜)の姿を取る老人は、まるで新居に親しい友人を招待するかのように嬉々とした表情で六人を出迎える。
『ようこそ、我が学園の愛すべき生徒諸君!よくぞここまで来てくれた!この地こそは儂が今回のような機会の為にと拵えた"勝負の場"――その名も「聖母黄金華咲く決戦場」じゃ!』
「"マリゴールド・バトルフィールド"……って、"咲く"はどこ行ったんですか元理事長」
『文字にせにゃわからんよーな細かいことは気にせんでええ。今日日"神器"を"セイクリッド・ギア"と読ますプロ作家もいる時代、蠱毒もまた時代の流れに乗らねばいかんと覚悟を決めとんのじゃ』
「まぁどこまで続くかはともかく本人も『罵詈雑言怨嗟は慎む』とか言ってますからね。いや本当どこまで続くかはわかんねーけど」
「……それで、僕らが行う勝負とはなんなのでしょうか?決戦というと、やはり……」
『おう、そこは心配要らん。戦争ゆーたかて要はゲーム、おめー等がここでどうなろうと現実で傷を負うような事は断じてねえ。終われば無傷で帰しちゃらぁ―――まぁ最も、勝てたらの話じゃけぇな?』
「勝てたらってことは、やっぱり"対価"は……」
『いや、それはまだ思案中じゃ。"無傷"っちゅうんは"何も頂かん"ちゅう意味でもあるけぇよ、対価が何かはまだ決めとらん。それより今は勝負の説明が先じゃろうて』
至極いい加減―まるで元から対価など求めていないかのような態度の月光は、徐に屈み込んで何やら機械を操作し始める。
『ちょっと待っとれよー。レーザーポインターと原稿は見つかったけぇ、今プロジェクターを起動中――よし、ついた。ほんでこれでスライドを――おっ!おい!どりゃ!いよ!ほ!」
月光は鉤付きの棒で部屋の天井に備わったスライドを何とか狙った位置に固定させようと必死になるが、巻き取り部分との兼ね合いもありなかなか安定しない。
『んん、もう少し待っといてくれ。もう少しで……ぬん―――ありゃあ?っかしぃのぅ……』
散々悩んだ挙句、月光は最後の手段に打って出る。
『しゃあねえ、プロジェクターの角度を調整するか』
「「「「「最初からそうして下さいよ!?」」」」」
「わぁ~前の理事長先生頭いいね~」
『おほ、ありがとなぁ。爺ちゃんおめーみてえな可愛い子に褒められたけぇ俄然やる気が出てきたぜぇ』
かくして月光による"勝負"の解説が始まった。
次回、遂勝負の全容が明らかに!