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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
385/450

第三百八十五話 戦うゲスト様-選ばれたのは"飛行"という選択肢-





王将達がたどり着いたのは……

―前回より―


「……んん……またこのパターンか。しかしこれはまた……」

 いつぞやのように暫く意識を失った後目覚めた王将は、気が付くと謎の空間に寝転んでいた。

 地上30cm程までがもや(或いはドライアイスの蒸発によって発生する常温より低い二酸化炭素)に包まれたようなその空間には何らかのしっかりした素材によって作られた床面(或いは地面)こそ存在するのだろう。しかしそれすらも正体不明で"何らかの素材"であるとしか判らず、壁面らしきものが見えないために上と前後左右の一切に果てが見えない。

 ただ確かなのは、この空間で自分が何の問題もなく生きていけるという事と、共に行動していた五人の後輩―心愛、つばさ、奈々、秋、星月―もまた、自分の傍らで意識を失ったように寝転がっているという事くらいであろうか。

「……厄介だな。あのジジイ、何しやがった……」

 ひとまずやれるだけのことをやるべきだろうと、王将は傍らで寝ていた五人の後輩達を揺り起こし事情を説明する。

「つまりここは、鎗屋前理事長の用意した勝負の会場という事ですかね」

「まぁそう考えるのが妥当なんだろうが、一体何が起こるのかまるで予想つかねーのがな」

「ふっわふわ~雲の上にいるみた~い」

「確かに、これで下が綿とかクッションだったらまさしく雲の上よねー」

「マシュマロ食べたくなっちゃうよね~」

「「ね~」」

「あんた等は暢気でいいわね……」

「一周回って尊敬しちまうよ……」

「まぁこの下地がマジキモンの雲じゃねえだけマシだと思わなきゃ――な?」

 刹那、王将の発言は現実のものとなった。それまで六人支えていた床面が突如本物の雲(即ち水蒸気の塊)に変化したのである。ともすればすり抜けるように落下するのは当然と言えよう。実際六人も落ちたし。

「ぬぉわあぁぁああああああ!?」

「んな馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!」

「雲だこれー!蜘蛛スパイダーの方じゃなくてクラウドの方だー!てか抜けたー!寒いー!触手が凍るー!」

「落ちたら苦悶どころじゃすまないわぁぁぁぁぁ!」

「駄洒落言ってる場合ですかぁぁぁぁ!」

 このように今現在彼らは、所謂"パラシュート無しのスカイダイビング"を堪能中なのではあるが、その中にあって唯一自身のペースを崩さない者が居た。雨内心愛である。

「ふわ~、私たち鳥になったみた~い」

「「「「「こいつ危機感ねぇー!」」」」」

 とは言え彼女の能天気ぶりは、逆に考えれば危機的状況にも臆せず落ち着き払っているとも解釈できる。そこを逆手にとって王将は作戦を練り、飛行能力を持つ心愛とつばさが秋と奈々を支え、星月は王将に抱えられつつ大気・疾風や物体浮遊等の魔術を発動。それぞれ落下の衝撃を緩和しつつ安全に着地する策に打って出る。


―同時刻・聖地ロコ・サンクトゥス平原―


「ぐぬぅ……こんな馬鹿なことが……この儂が貴様らなんぞに……」

 ヴェイン・ディ・モウンは風間大士を初めとする"チームさとてん"のメンバーに押されていた。強固であった外骨格は砕かれ、防御の役目を果たさないばかりか破片が肉に突き刺さり逆にダメージを与えているほどである。こうなっては最早、追い詰められるのも時間の問題であろう。

「っしゃあ!行くぜカニ野郎!必殺の、ヘラクレス・ギガ・クラァァァァァァァァ―――」

 飛び上がった大士が弱ったヴェイン目がけて必殺のスレッジハンマーを振り下ろそうとした刹那、俄かには信じがたい出来事が起こった。

「ァァァァ――!?な、なんだ!?鎧が消えッッ―ぐぉあぁっ!」

 大士が今まさにハンマーを振り下ろそうという瞬間、彼の体を包んでいた鎧が跡形もなく消え失せてしまったのである。かなりの体積を誇った鎧の消失は大士の体のバランスをも崩し、結果的に地面へ転落してしまう。

「風間ぁ!」

「ショウシ!」

「大士さんっ!」

 低高度からの落下故大士に怪我はなかったが、それ以上に問題なのは今現在の彼が単なる丸腰の小柄な民間人でしかないという事であろう。そうなれば手負いのヴェインでも十分に殺せるだろうし、そうでなくとも他の敵から攻撃を受けたり、或いは死よりも恐ろしい事にもなりかねない。

 聡子、結花、凛は咄嗟に大士を助けに向かおうとしたが、三人の身にまとっていた武装も立て続けに消え失せてしまう。同様の事はアルティノ、ラピカ、シャアリンの唱道者三人組に対しても起こっており、使徒精霊達は自身と切り離され一気に無力化してしまった契約対象の保護に追われる結果となってしまう。

「ぉン、何だぁ?随分と縮んだようだが……」

「あ!?誰が縮んだって!?俺の背は元からこんなだ!」

 だが、使徒精霊という一定水準の戦闘能力を持つ護衛が付いていただけ唱道者達の方が恵まれていたのかもしれない。何せ素の大士達はその唱道者よりも更に輪をかけて非力なのである。何の武装もなく戦場に居ていいような人種ではない事は言うまでもない。

「そうか……でかく見えたのは鎧の所為か……ふぅん、これは予想だにせん展開だのぅ。圧倒的優勢から一気に苦境へ立たされるとは……」

「はッ、何が苦境だ!俺は確かに丸腰だが、お前もボロボロの瀕死じゃねーか!」

「瀕死……ふん、確かにそうだな。儂はお前らに追い詰められて、今や瀕死の重体だ……だが、それもこれまでよ」

「何!?」

「……小僧、今こそ儂を相手にしたことを後悔させてやろう……ふん!」

「ぬぉっ!」

 ヴェインが右の鉗脚で前方を位置を薙ぎ払うが、大士はそれを余裕綽々と言った様子で回避する。

「はッ、後悔させてやるだぁ?馬鹿言ってんじゃねーよ蟹ジジイ、確かに鎧のない俺は丸腰で非力だが、瀕死の老いぼれ甲殻類に殺されるほどヤワでもねぇってのよ!――ん?」

 ふと、大士は先ほど大気を削り取らんばかりの勢いで薙ぎ払われた鉗脚に目をやった。そこには―恐らく自分に近付きつつあったのであろう、小柄な生体兵器やT.O.R.O.隊或いはクロコス反乱軍メンバーが生きたまま複数挟まれていた。彼らは皆『離してくれ』とか『何故こんな目に』等と口々に叫んでおり、何から何までバラバラでありながら一様にしてその鉗脚から逃れたがっているようであった。

「おい、一体何を――「『瀕死の老いぼれ甲殻類に殺されるほどヤワでもない』……か。嘗てこの儂を挑発しては殺されに来ていた愚物の数など、最早今までに食ったものの総カロリー程にも覚えてはおらんが……丸腰のチビが逃げもせずそこまで言うとは、世も変わったものよなぁ……」

 しみじみと昔を懐かしむように呟いたヴェインは右鉗脚を口元へ曲げ、甲殻類特有の恐ろしげな口で挟まれた生体兵器やT.O.R.O.隊員、反乱軍メンバーを生きたまま平らげてしまった。

「な、仲間を……食っただと!?お前、正気か!?認知症拗らせたにしても限度ってもんがあんだろ!」

「つくづく失礼なガキだのう、これでも儂は認知症の言偏一角目とも縁のない脳をしとるんだぞ?安心せい、此奴らとて出兵という時点で死を覚悟した身の上だ。遅かれ早かれ死んでいたのだろうし、この程度の事は覚悟の内であろうよ」

「……」

 ヴェインの外見に違わぬ狂気を垣間見た大士は、言葉も出ず黙り込んでしまう。

「さて、そろそろ調子も整った頃か……――ぬんッ!」

「!?」

 ヴェインが傷ついた体で全身に力を込めた瞬間、彼の(鉗脚二・歩脚八で)合計十本ある脚が一斉に根元から抜け落ちる。大士は一瞬己の目を疑ったが、それは紛れもない事実であった。

 しかし衝撃的な光景はまだ終わらない。抜け落ちた脚は瞬く間に再生し、更に再生した鉗脚で抜け落ちた自らの脚を瞬く間に食い尽くしては力を籠め、傷ついた胴の甲も脱皮によって脱ぎ捨て――要は自らの再生能力を使い、自らの負傷を実質帳消しにしてしまったのである。

「な、なんて野郎だ……」

「驚いたか?自切という奴でな。蟹のみならず節足動物や軟体動物という門の中には、いざとなれば自らの脚を切り捨て外敵より逃げ延びるものどもが存在するのだ。切り離した脚は遅かれ早かれ再生するんで、生活にもさほど不自由はせん。儂はただその性質を様々な鍛錬により強化しているに過ぎん」

「は……はは……トカゲの尻尾かよ……」

「斯様な欠陥品と一緒にしてもらっては困るのう。何せ奴らと儂では―「ショウシ、伏せて!」―ぬッ!?」

「!」

 響き渡る結花の声と同時に、潜望鏡のように飛び出たヴェインの左目を強い粘着性のある物体が覆い尽くす。

「お、おをあぁッ!目が、儂の目がぁ!何だこれはぁ!粘り気が強うて剥がれぬッ!」

 突然の事態にヴェインは取り乱し、目の前の小柄な少年どころではなくなってしまう。その隙に逃げ延びようとした大士の首根っこを、上空から何者かが掴んで持ち上げる。

「っ、結花!?ってか、多可!?」

「遅れてすまん。危ない所だったな、風間。だが私達が来たからにはもう大丈夫だ」

「ったく、あんたは何時も後先考えずに突っ走るんだから。穴埋めするこっちの身にもなりなさいよ」

「それが大士さんらしいって言えばそうなんですけどね」

「お前ら……そうか、多可の翼か!」

 そう、今現在チームさとてんの四人はロコ・サンクトゥス平原の上空を飛んでいた。それも、多可聡子が先祖代々受け継いできた"輝く翼"によって。

「そうだ。お前と同じように何故か突然アーマーが消滅し、バディとの通信も途絶えてしまってな。咄嗟にこの翼で凛を、そして結花を助けだし――」

「凛ちゃんがポイントで買ったトリモチ弾をあの蟹オヤジの目玉にぶつけて混乱させて、それに乗じてあんたを助け出したって訳」

「そういう事だったのか……ありがとな。俺、あのままだったら絶対死んでたよ」

「礼には及ばん。それより今は拠点に戻るぞ。清水から諸事情の説明と今後の動きに関する指示があるそうだ」

「そうか……じゃあもう少しの間だけ頼むぜ、多可。襲って来そうな奴は俺が相手すっから」

 自らもポイントで凛の持つトリモチ弾に対応する発射筒やその他様々な弾を購入した大士は、宙吊り状態という微妙な立ち位置でありながらその後聡子に迫り来る両陣営の航空部隊を次々撃墜していき、拠点までの帰路を守り抜いた。

次回、この異常事態に香織はどう出る!?

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