第三百八十二話 戦うゲスト様-世界を揺るがす鍵-
鬼王「親父どこー!?携帯の電源まで切られてんだけどマジでどこ行ったー!?」
―第三百七十八話より・中央スカサリ学園地下―
「何だ、ここは……」
「一面に水が……」
「まるで池のようですね」
「きれー」
「でも何か少し不気味ね」
「確かに何かデそうだな」
クワエミッサの群れを悉く殲滅した王将達六名は、嘗てエリスロが"特秘業務"の為に連れ込まれていた空間へと辿り着いていた。しかしそこに部屋の主であるエカセルスィの姿は無い。僅かに残された光源だけが光を放ち、実に幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「兎も角あの女を捜すっきゃねぇ。おいどこだ!?どこに居やがる!?」
「出てこいクソババァー!」
「でてこーい!」
「いや、そんな呼んだ所で出てくるような敵じゃないだろ……」
「全くもってその通りじゃ。敵地のど真ん中におるんじゃからもっと考えて行動すべきじゃろうに」
「そうそう。もっと考えて行動を――ってぅおわぁっ!?」
「どうしました、空知さん?」
「え、あ、いや、あそこっ!」
「あそこって、何もないじゃ……?」
つばさの指差した方向を見た他の五人は、自分達の目を疑った。床一面に張られた水の上に、一抱え程の小ぶりな竜種が佇んでいたのである。それも、翼を一切動かさずに。
「いよう、少年少女共。儂じゃ」
小ぶりな白い竜種らしきもの―もとい、元中央スカサリ学園理事長兼現鎗屋悪鬼衆筆頭・鎗屋月光の挨拶は、何とも馴れ馴れしく気の抜けたようなものであった。
―前回より・聖地平原―
「ぐわははははははァ!もうすぐだぁ!もうすぐてめえらを殺す準備が整うぜぇ!」
カドム・イムの造り上げた『創世雷鍵』――金と黒、陰と陽の二つが存在するこの武器に秘められた力は、その小さな外見に反して実に凄まじく、また恐ろしいものである。それはもう、瀬戸如きが持つには相応しくないと、作者はおろか(恐らくは)読者の誰もが思うほどに。
「くっ……何で……身体が、動かない……!?」
「(……何て威圧感……精神だけじゃなく、肉体にまで直に干渉してくるだなんて……)」
「……借り物の、癖に……っ!」
「馬鹿な……こんな事がぁ……!」
その余波は凄まじく、相対する四人のけいむ市民が重圧の余り動きを封じられていただけでなく、彼ら以外の者が瀬戸に近寄る事すら許していないようであった。
「さぁぁて、折角の機会だぁ!無様に蹂躙されまくって死ぬ前に面白い話を聞かせてやらァ!今俺が握り締めてる創世雷鍵!こいつは一見ただのちっけェ鍵だが、秘められた力はそんじゃそこらの兵器なんぞ軽々と凌駕する程に絶大よォ!」
このまま瀬戸に語らせると勿体付けたり根も葉もない誇大的な自慢話を織り交ぜたりしてきて長引くので地の分で代行するとしよう。黒い"陰"と金色の"陽"で対を成す『創世雷鍵』の有する固有効果は『死者・絶滅種・消失した物品・忘れ去られた技術等、この世に現存しない存在の完全復元及び完全支配』という、創世の名に恥じぬ強力なものである(更に復元の範囲はあらゆる次元・時間に及ぶ)。それ故これらを扱うに値する者は俗に神話級とも呼ばれる人知を逸した素質と実力の持ち主でなければならない(百八十一話にて生一が香織を神話級と評しているが、この場合の神話級とはそれさえ軽々と圧倒するレベルである。恐らく香織程の実力でも片方を扱うのがやっとであろう)。
ではそんな武器を何故瀬戸如きが手にしているのかと言えば、グゴンが"件のアホ"と呼ぶ人物が買い与えた為である。また、実際に使用するのもこれが初めてであったりする。
「さあ来い!俺の手元に宿れ!最強の悪よ!そして目の前の鬱陶しいガキ共を皆殺しにしやがれ!」
拳から溢れ出ていた光が収まり、夜空と地面に消えていく。そしてどこからともなく夜空に高層ビルをもすっぽり包み込めるほどの雷雲が生じ、ロコ・サンクトゥス平原の乾いた大地に黒いヘドロのようなものが広がっていく。その規模はロコ・サンクトゥス平原を通り越してその周辺国家にまで及び、そう考えるとどう贔屓目に見ても瀬戸が引き起こしたとは到底思えないのだが、現にあの熊が引き起こしたのだから仕方がない。
そして共に渦巻きながら収束していくそれらの中から現れた二つの"復元物"は何とも恐ろしいものであった。
「あれは……まさか……」
「……そんな、馬鹿な……」
「それと上には……あー……えっと……」
『冗談きついわ……』
四人のけいむ市民はそれらを直接的に見たわけではないが、市民の幾人かと話していてその存在自体は知っていた。だが仮に存在を知っていたとしても―否、知っていたからこそ彼らの受けた衝撃は他の誰より凄まじいものであった。
次回、新キャラクター「スシトセ・ソコドンコ」が登場(大嘘)!