第三百八十一話 戦うゲスト様-三戦乱戦-
木戸の死を受けた手隠師団に衝撃が走――らない!
―前回より・聖地平原―
「へ!木戸のバカめが、あっさりおっ死にやがったか!ザマあ無え、やっぱあんな野郎にゃリーダーは勤まんねーって事だろうぜ!そもそも戦場で女遊びに現を抜かすってのがそもそも暗殺者失格よなぁ!」
イリア・ミストロッド、兄シルナス及び妹アリシスのエルクロイド兄妹、エルシトラ・フォーラツォスという実力派のけいむ市民四名を自慢の巨体で相手取る熊系禽獣種の巨漢・瀬戸の下品で傲慢な本性を体現するかのような叫び声が平原に響き渡る。
「まぁリーダーなんてもんは所詮口の達者なヤツがやるもんで、あのバカガキは誰より屁理屈こね回しちゃあ他人を煙に巻いて誤魔化すのが上手かったからなぁ!お誂え向きってもんだろう―――ぜッ!」
金属製の重厚なグローブによって重量の増した瀬戸の張り手がロコ・サンクトゥス平原の地面を叩き割る。ただ闇雲に怪力を誇示するかのようでありながらその威力は絶大であり、狙いが出鱈目であったこともあり四人のけいむ市民は直撃こそ免れたが、砕かれた衝撃で弾丸並みの速度を得て飛来する微細な石の礫に退散を余儀なくされる(幸いにも四柱の精霊達が咄嗟にそれぞれを守った為死傷者は出なかった)。
「ケ!死に損ないのクソガキ共が、この瀬戸様の必殺技デッドブレイブを受けて無傷たぁ……どこのチャラけたコスプレイヤーかと思ってたがちったァやるようじゃねえか!いいぜぇ、なら俺のトッテオキを見せてやるよ!」
瀬戸は自らの両腕を―怪力の源である強靭な筋肉を見せつけるように―高々と掲げ、両手を握り込む。すると甲の部分に備わったハッチが展開し、それぞれ金色と黒色をした鍵のようなものが飛び出した。
「さァてとくと見ろィ!この『陰陽創世雷鍵』の力をなぁ!」
ハッチから飛び出した鍵を握り込むように掴んだ瀬戸は、両の拳を掲げ再び叫ぶ。
「創世の雷!再起の電!天の果てと地の底より最強の悪を呼び覚まし賜え!」
応じるかのように握り込まれた鍵が光り輝き、金色の鍵を握り込んだ左拳からの白い光は高く昇っていき、黒い鍵を握り込んだ左拳からの紫色をした光は地面へと染み込むように入り込んでいく。
「さぁ来るぜ来るぜ来るぜぇ!お前らへ向かう確実な"死"がなぁ!」
◆◇◆◇◆◇
「お嬢ちゃん達、死ぬ前にいいことを教えてあげようか」
理華、玲、イオタの三名に囲まれた状態で向かい合う九ノ瀬は底抜けに、それこそ狂ったように明るい笑みを浮かべながら静かに語り出す。
「僕はね、実は普通のヒトじゃないんだよ。いや、そんなのは手隠師団じゃ普通なんだけど、そういう意味じゃない方の話でね?」
楽しげに語る九ノ瀬だが、三人は何の反応も示さず武器も構えないまま呆然と立ち続ける。
「っていうのもさぁ……僕、作られた存在なんだよね。人造生命体っていうのかな、そういうアレなんだよ。ほら、これが証拠さ」
九ノ瀬は自らの左手を掲げ、それを植物(単子葉類)の根(通称"髭根")を思わせる形へ細分化して見せる。
「全身がこんななんだ。クロコス・サイエンスの超技術によって強化されたハリガネムシが無数に集まって僕という個人を成しているのさ。つまり僕は一人であって一人じゃなく、無数であって無数じゃないって事。そしてまた僕は――「うぉあああああああああああ!」―――ん?」
聞き手不在のまま一人自分語りに夢中になる九ノ瀬は、ふと頭上から何やら巨大な物体が叫び声を上げながら接近中である事を悟り、何事かと夜空を見上げ――
「何だ、こんな時に。折角いい所だったのに゛――!?」
落下してきた毛むくじゃらの物体に頭から押し潰された。一瞬であった為に、分離して逃げる暇さえなく。結合状態を維持すべく硬質化していた無数のハリガネムシは、推定100kgをゆうに超えるであろう重量に耐えきれず粉々に砕け散る。同時にそれまで呆然と立ち尽くしていた理華、玲、イオタの三人が意識を取り戻す。彼女ら三人はふとした隙に脳内へ九ノ瀬の身体の一部を送り込まれており、彼の意のままに操られていたのである。
「あークソ、何なんだあのオオカミ野郎。チビの癖にこの俺をアッパーだけで吹っ飛ばすなんざ正気の沙汰じゃねえぞ」
吹き飛ばされてきた"推定100kgを超える毛むくじゃらの物体"こと犬神犬丸は、つい先程図らずも敵の一人を殺した事にさえ気付いていないようだった。
「いや、儂からすりゃあれも十分デカブツなんじゃが……確かにあのパンチはインチキめいた威力じゃったのう」
犬丸の主・綾乃部聖羅は、臣下の下腹部辺りからもぞもぞと這い出ながら言う。吹き飛ばされる瞬間、犬丸の咄嗟の判断から彼に守られていたのである。
「だろ?何なんだよあいつ……確かジャンなんとかっつってたよな?」
「ジャンゴ・スラグダーじゃったかのう」
「そう、そいつだ……ったく、あのオオカミ野郎め今に見てろ。桃組最強と名高き聖羅の力を思い知らせてやらァ」
「そこは普通にお主の力でええんじゃないかのう」
「いや、これでいい。俺という存在もまたお前の力の一環だからな」
「そういうもんかの」
「そういうもんだろ」
◆◇◆◇◆◇
「親父ィー!親父ィィ!?どこだぁぁぁぁ!?どこ行ったぁぁぁ!?」
鎗屋悪鬼衆の一人にして創設者の一人息子である竜属種の青年・鎗屋鬼王は、迫り来るクロコス反乱軍のメンバーやクロコス・サイエンス管轄下の生体兵器を自慢の剣と剛腕で薙ぎ払いながら、行方を眩ました父・月光を探していた。
「どうしました、鬼王殿」
そこへ賺さず現れたのは、同じく鎗屋悪鬼衆の一人である兎系禽獣種の狡猾な魔術師グェイ・クーであった。
「おぉ、クーか。いやな、ふと目を離した隙に親父とはぐれっちまってよォ。探してんだが見付かんねーのよ」
「……そりゃ戦場なんですから、別行動くらいするでしょう。そもそも貴方、親とはぐれるような歳ですか」
「迷子に歳は関係ねーだろ。つーか心配なのは親父の方だろ実際問題」
「と、言うと?」
「おいおい、忘れちまってんのかよオメーともあろう男がよー。今日は偶然にも親父の持病が悪化しがちな危険日だろうが。危険日の親父は定期的に薬打たなきゃ魔力枯渇でまともに戦えなくなっちまうんだぞ」
「おっと、そうでしたね。しかしお薬ならご自分で――「持ってねぇんだなこれが。『嵩張るのヤじゃからお前持っといちくれ』とか言って俺に押しつけてよー」
「ふむ……しかしながらあの月光様ならば或いは大丈夫かもしれませんよ?」
「うん、確かにそれは俺も思うんだが……」
「心配なんですね?」
「そりゃ親だからな。心配して当然ってもん――「ナイトーク・アセン――「だろ?」―ひびゃっ!?」
背後から奇襲を仕掛けてきた雨宮を尾で叩き殺しつつ、鬼王は表情一つ変えずに淡々と言葉を紡ぐ。
次回、月光はどこに!?